第61話【完結】
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あの和解の夜から、どれだけの時間が流れたのだろう。
エリウッドの治世は安定し、パーミル王国は最盛の時を迎えていた。
一般的な考えからすれば信じがたいことだが、エリウッドは、ジェロームも、ジェロームのクーデターに加担した重臣と将校も、処罰しなかった。それどころか、此度の混乱はすべて自分の至らなさが原因だと、謝罪すらした。
普通なら、甘い王だと侮られそうなものだが、エリウッドの真摯な態度は、反王政派の心を大きく動かし、また、新しい王のもとで権力闘争に明け暮れていた現王政派も、自分たちが対抗勢力を追い落としたことで、それが反乱へとつながったことを深く後悔した。
かくして、現王政派と反王政派は手を取り合い、共にエリウッドを盛り立てていくことになったのである。もう一度言うが、普通なら、まずこんなことにはならないだろう。エリウッドの天性の魅力が皆の心を惹きつけ、すべてを丸く収めさせたのか、あるいは、リザベルトが言うところの『天運』が、そうさせたのか……
とにもかくにも、少々の混乱を経て、パーミルはますます良い国となった。
それでもジェロームは、『国を乱そうとした自分が、軍部のトップにいるわけにはいかない』と言い、参謀総長の地位を退いた。その後はエリウッドの強い意向により、相談役として、陰に日向にエリウッドを補佐している。言葉を交わす二人の姿に、もう過去のしこりはない。長い時を経て、やっと、昔の二人に戻れたのだろう。
太后リザベルトは王宮を去り、離宮にて、一人穏やかな時間を過ごしている。国が安定した今、もはや自分が暗躍する必要はないと判断してのことだった。私やエリウッド、そしてジェロームが顔を見せに行くと、嬉しそうに出迎えてくれる。その屈託のない姿が、パーミルを守るという妄執から離れた、彼女本来の姿なのだと思う
あのオルソン聖王国は、パーミル王国とラング王国の強固な同盟関係を警戒し、今は貝のようにおとなしくなってしまった。国王の体調が思わしくなく、跡を継ぐ予定の第二王子が『ことなかれ主義』であることも、大きく影響しているのだろう。
ラング王国の国王は、勢いの弱まったオルソン聖王国の領土を一気に獲得したいと鼻息を荒くしているそうだが、それでもオルソンは大国。全面戦争はまだまだ時期尚早と、グラディスが諫めているらしい。猛々しいラング王も、最愛の妻であるグラディスの言うことは素直に聞くそうであり、二人の仲はどうやら上手くいっているようだ。
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そして私は、エリウッドの愛を受け入れ、彼の妻となった。
かつて、『伝承の聖女』の称号を与えられた式典会場が、私たちの結婚式場だ。あの時と同じく、漆黒のウェディングドレスに身を包んだ私は、エリウッドの手を取りつつも苦笑する。
「ウェディングドレスが黒って、ちょっと独創的すぎません?」
「嫌だったか? お前は黒が好きだから、喜ぶと思ったのだが」
「べ、別に、髪が黒いからって、黒色が好きなわけじゃありませんよ?」
「そうなのか。俺はお前の黒髪が好きだ。だから、黒い色も好きだぞ。それでもお前が、ウェディングドレスはやはり白がいいと言うなら、今からでも取り換えるが……」
「いいですよ、これで。デザインそのものは気に入ってますし、ウェディングドレスが白でも黒でも、これから二人で紡いでいく愛情の色には、変わりがありませんから」
「なかなか詩的で美しいことを言う。長い王宮暮らしで、随分と教養が身についたようだ。さすがはパーミルの聖女様――いや、パーミル王妃様だな」
「ありがとうございます、パーミル国王陛下」
「しかし結局、その敬語、直らなかったな」
「拗ねないでください。こんなにも大勢の前で、新しい王妃がパーミル国王に無礼な態度を取るわけにもいかないでしょう?」
「なら今夜、二人きりになったら、気安い口をきいてくれるか?」
「考えておきます」
「それは楽しみだ」
そして私たちは、誓いの口づけをした。
……パーミル王国自体は安定したが、問題がすべてなくなったわけではない。むしろ、広い視野で見れば、ますます世界は混沌としていると言ってもいい。
依然増え続ける魔人への懸念。虎視眈々とこの地域を狙っている諸外国。そして、近隣の犯罪者たちを取り込み、着々と勢力を増している東のダルモン合同集落。オルソン聖王国にしたって、最近、大人しすぎて逆に不気味なほどだ。決して、安心していられる状況ではない。
しかし、今のパーミルなら、すべてを乗り越えて行けるだろう。
エリウッドには王の天分があり、私にはこの破壊の力がある。
何より二人の間には、いかなる困難も打ち払う、強い愛情と信頼があるのだから。
終わり




