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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第1話

 昨日の夜、遅くまでレポートを書いて疲れ切り、泥のように眠った私は、まったく見知らぬ世界で目を覚ました。


 古めかしい石造りの部屋の中。ゲームや漫画に登場するような、ファンタジックな衣装を着た人たちが私を取り囲み、口々に次のようなことを言っている。


「なんだあの黒い髪は……」

「おい、黒髪だぞ、司祭よ、どういうことだ」

「こんな……こんなこと……前代未聞でございます!」

「おぉ……呪われた鳥のように真っ黒な髪……なんと恐ろしい」

「聖堂に黒髪の人間がいるなんて不愉快だ! 早く連れ出せ!」


 それぞれの上ずった声が混ざり合い、ハッキリとすべてを聞きとることはできなかったが、声色と表情から、この人たちが、私に隠す気もない嫌悪の感情を向けていることは、嫌と言うほど分かった。


 私はパジャマ姿のまま、乱暴に引っ張り起こされ、衆人環視の中で、彼らが着ているのと同じようなファンタジックな衣装に着替えさせられると、またしても乱暴に腕を引っ張られ、大きな広間に連れ出された。


 そこは、いつか見た海外の歴史ドラマに出てきた、『王の間』――といった感じの場所だった。だだっ広い空間に、大きな玉座と、それより一回り小さい玉座があり、いかにも王様風のおじさんと、これまたいかにも王妃様風のおばさんがどっしりふんぞり返っている。


 おじさんとおばさんは、私を、これ以上ないほど蔑んだ視線で見下ろすと、脇に控えていたいかにも大臣風のおじさんに問いかけた。


「これが……この黒髪の女が、本当に聖女なのか? お前たち、示し合わせて余をたばかっているのではあるまいな?」


 大臣風のおじさんは心から無念そうに首を左右に振り、答える。


「国王陛下、残念ながら事実でございます」


 国王は、ため息を漏らした。

 それも、特大の奴を、三回も。


「なんということだ……十年ぶりに聖女召喚の儀が成功したというのに、出てきた聖女が、こんな、穢らわしい黒髪の女とは……神は我がオルソン聖王国を見放したか……」


 穢らわしい黒髪の女って……!


 異常な状況に、先程から恐怖と困惑ばかりを感じていた私でも、さすがにムッとする。長い黒髪は、これでも私の自慢であり、お手入れだって欠かしたことはないんだからね!


 声を張り上げ、文句の一つでも言ってやろうとした瞬間、国王の背後から、涼やかな声が聞こえてきた。


「まあまあ、父上。そんなに嘆かないで。長い人生、こんなこともありますよ」


 現れたのは、金色の髪をした、美しい青年だった。

 彼の容貌を一言で表現するなら『王子様』という他ないだろう。


 その気品ある物腰と美しさに、私は一瞬、自分の置かれた状況も忘れて、魅入ってしまった。だが――


「こんなの、とっとと国外追放して、また新しい聖女を召喚すればいいじゃないですか」


 美しい唇から飛び出た冷酷そのものの言葉が、私の胸に突き刺さる。金髪の王子様は、そんな私の気持ちになんて、欠片も興味はないといった感じで、すらすらと話を続ける。


「聖女召喚の儀は、いわば『くじ引き』と同じです。ふふ、たまにはこのように、『大ハズレ』も出るものですよ。くじ引きは『どうしようもないゴミ』をつかまされた後の方が、大当たりが出ると嬉しいものです。現在の宮廷魔導師は皆優秀ですから、それほど時を置かずに、今度はもっと素晴らしい聖女を召喚してくれるでしょう」


 大ハズレ……どうしようもないゴミ……


 今までの人生の中で、それなりに、口の悪い人と接することはあった。

 それでも、ここまで面と向かって酷いことを言われたのは、初めてだ。


 悲しみ以上に、怒りと悔しさで唇がわなわなと震える。


 完全に私を見限った王子とは違い、国王は、まだ迷っている様子で、ごにょごにょと口を開く。


「う、うーむ……しかし、聖女召喚の儀は、王太子との婚約の儀も兼ねておるからの……書類も全部できておるし、宣誓も済んでおる……それらを全部破棄するというのもな……教皇のメンツを潰すことになってしまうし……」


「では父上、あなたは愛しい息子である私を、こんな黒髪の汚物と結婚させる気なのですか? ああ……敬愛する父上から、このような惨い仕打ちを受けるなんて……」


「わ、わかったわかった。教皇には、余、自ら謝罪しておく。それで、なんとかなるだろう」


「ありがとうございます父上。では早速、婚約に関する書類を」


「うむ」


 運ばれてきた厚みのある書類を、王子はその場で破り捨てた。


 何がなんだかよくわからないが、今までの話を総括すると、私は『聖女』とかいうよくわからないものになるために、この奇妙な世界に呼び出され、『聖女』とやらは、国の王太子と婚約関係になる必要があったようだ。


 そして、その婚約は、たった今破棄された。


 もちろん、好きでもない男との婚約破棄になんて、なんの未練もないが、私という存在が軽く見られ、徹底的にコケにされたという屈辱は、まるで火のような熱となって心身を焼いた。悔しくて、悔しくて、私はただ俯き、床を睨み、唇をかみしめていた。



 それから、ものの三十分も経たないうちに、私は本当に国の外に追放された。


 持ち物も、お金も、ゼロ。

 まさに、着の身着のままである。


 高い城壁の外。

 目の前にひたすら広がる大平原を前にして、私は小さくため息を吐いた。


「はぁ……これからどうしよう」


 誰だってそう思う。

 私だってそう思う。


 しかし、いつまでも途方に暮れているわけにはいかない。


 私は、歩き始めた。少なくとも太陽が沈むまでには、どこか、屋根のあるところで眠りたい。


 一応、目的地はある。壁門から出される直前、門番の兵士から嫌味たっぷりに、『お前みたいな黒髪の女でも、隣国のパーミルなら、少しは人間扱いしてもらえるかもな』と言われたので、とりあえずその『隣国のパーミル』とやらを目指すしかない。


 地図や方位磁石があれば最高なのだが、当然そんなものはない。門番の兵士が指さしていた東の方角に向かって、とりあえずは歩き続けるしかない。

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