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カナツを抱きしめながら、フローディアは不思議な感覚に襲われていた。
「え……」
フローディアは気付く。頬を伝っていく、冷たい筋。それが涙だと、彼女はなかなか気が付かなかった。独りきりになった彼女は、泣くことを忘れていたのだ。
「どうして」
声を出すと、さらに涙が溢れる。はじめは温度を持った滴は、冷たい空気に冷やされて温度を失いながらフローディアの白い肌を伝っていく。
カナツが、フローディアを見上げる。フローディアの青い瞳とカナツの金色の瞳が、やっと見交わされた。
「そう、だったんですね」
フローディアは、小さく呟いた。
忘れようとしていた感情を、思い出したのだ。棄て去ろうとしていた気持ちを、思い出したのだ。
いや、前々から感じていたのに、無理に消し去ろうとしてきた心を、やっと取り戻したのだ。
「わたくしは、ずっと寂しかったのですね……」
誰も周りにいないから、忘れられてしまっていたから、そんなことを思わないようにしてきた。その感情を認めてしまえば、つらくなるばかりだから。そんなことを思っても、現状は何も変わらないから。
そう考えることで、孤独の闇に沈み込もうとしていたのだ。
「カナツ、それを伝えに来てくれたのですね」
たった一度、助けただけの獣。弱々しく、すぐにも消えてしまいそうだった、白い狼の子ども。そんな子が、自分に伝えようとしたこと。通じないながらも、必死に伝えようとしてくれたこと。
「そうか。わたくしはずっと、寂しいと思っていたのですね」
ウォン……。まるで、「そうだ」というように、カナツが一声鳴いた。
忘れようと、棄て去ろうと、無理矢理に切り離そうとした感情。ただそれは、寂しいという気持ちから、逃げたかっただけなのかもしれない。
「でも、独りじゃなかった」
フローディアは、カナツの頭をなでながら言う。ここに来てくれたということは、きっと自分のことをずっと見守ってきたということに違いなかった。
「あなたが、ずっといたのですね」
フローディアは、思い切りカナツを抱きしめた。カナツは、それにされるがまま、身を任せていた。
白い少女と白い狼、白銀の世界。その全てを包み込むように、聖なる降誕祭の空から、静寂の雨が降り注いでいた。
こんにちは、葵枝燕です。
『rainy christmas』、いかがだったでしょうか。単に、こちらのクリスマスが雨に見舞われたのでこんなタイトルにしたのですが、途中から雨の気配が薄くなってしまったような気がしています。この手の話はあまり書かないので、どうしていいのか悩んだりもしましたが、どうにか終わりまでかけました。最後の方、駆け足で進んでしまったところは、反省したいとこですね。
私にしては珍しく、暗くはない感じに仕上がったかなと、思っています。
とにかく、クリスマスに間に合ってよかった。
読んでいただき、ありがとうございます。




