守りたいもの
北門。
災害級魔物。
それが現れた瞬間。
王都の空気が変わった。
兵士達の顔は青い。
避難は終わっている。
でも、
恐怖は消えない。
巨大な魔物は。
ただ立っているだけで脅威だった。
◇ ◇ ◇
ゴォォォォォォ!!
咆哮。
地面が揺れる。
窓ガラスが割れる。
兵士達が耳を塞ぐ。
私も思わず身を縮めた。
怖い。
すごく怖い。
◇ ◇ ◇
でも。
目の前には。
ミルちゃん。
アレンさん。
ルーク。
レオンさん。
みんながいた。
だから。
逃げたくなかった。
◇ ◇ ◇
「ティナ!」
アレンさんだった。
「下がれ!」
ルークも叫ぶ。
「ここは俺達がやる!」
いつもなら。
言うことを聞いていた。
でも、
今日は違った。
◇ ◇ ◇
私は前を見る。
避難している人達。
泣いている子供。
怪我をした兵士。
震えている人達。
その光景を見た瞬間。
胸が痛くなった。
『守れ』
また声が聞こえる。
優しい声。
懐かしい声。
誰の声かは分からない。
でも、
嫌じゃなかった。
◇ ◇ ◇
魔物が前足を振り上げる。
狙いは。
避難が遅れた兵士達。
私は反射的に走った。
「ティナ!?」
ミルちゃんの声。
アレンさんもルークも驚く。
でも、
止まらない。
◇ ◇ ◇
ドォォォン!!
魔物の腕が振り下ろされる。
兵士達の顔が絶望に染まる。
間に合わない。
誰もがそう思った。
その瞬間。
私は手を伸ばした。
そして。
無意識に言葉が零れる。
「守って。」
◇ ◇ ◇
次の瞬間。
世界が光った。
眩しい。
真っ白。
誰も目を開けられない。
ゴォォォォォ!!
魔力が吹き荒れる。
◇ ◇ ◇
光が消える。
そして。
全員が見た。
巨大な光の壁。
王都を守るように。
兵士達を守るように。
空へ伸びていた。
魔物の攻撃は。
完全に止められていた。
◇ ◇ ◇
静寂。
誰も喋らない。
兵士
「嘘だろ……」
ミルちゃん
「ティナちゃん……?」
アレンさん
言葉を失う。
ルークも。
レオンさんも。
ただ見ていた。
◇ ◇ ◇
私自身も驚いていた。
「え?」
何これ。
私やったの?
知らない。
本当に知らない。
◇ ◇ ◇
その時だった。
黒ローブの男。
初めて。
心から驚いた顔をした。
「まさか……」
小さな声。
「ここまで目覚めているとは。」
◇ ◇ ◇
すると。
私の足元。
光が集まり始める。
ふわり。
ふわり。
優しい光。
暖かい。
懐かしい。
そして。
私の頭の中に。
映像が流れ込んできた。
白い花。
青い空。
笑い声。
たくさんの白猫の獣人。
そして。
誰かが私を抱き上げる。
『ティナ。』
優しい声。
『お前は希望だ。』
私は目を見開いた。
知らない人。
でも、
なぜか。
涙が出た。
◇ ◇ ◇
その瞬間。
ルークが固まる。
信じられないものを見るように。
震える声で呟いた。
「……長老。」
◇ ◇ ◇
そして。
黒ローブの男の笑みが消えた。
「あり得ない。」
初めてだった。
男が動揺したのは。
「死んだはずだ……」
ルークが男を睨む。
今までで一番冷たい目。
そして。
低く呟いた。
「やっぱりお前か。」
風が吹く。
誰も動かない。
男の正体。
そして。
白猫の里を滅ぼした真実。
その全てが。
少しずつ姿を現そうとしていた――。




