<19・再来。>
「…………」
ゆいなは思わず、亞音と顔を見合わせていた。
もし、この大型掲示板に書かれている情報が正しいのだとしたら。
「……ニコさんのゲームは、今回が初めてじゃ、ない?」
十五年前に一度行われて、十数人もの犠牲者を出している。そして、ニコさんに憑りつかれた人を当てたら解放してもらえた――。
もちろん、ここに書いてあることが全て正解とは言い切れないが、もしそうならば。
「私達も同じかもしれない!ニコさんに憑りつかれて貰った人を見つけたら、本当に終わらせて貰えるのかも!」
「確かにそれはそうなんだが」
亞音は渋い顔をして言った。
「裏を返せば、根本的な解決にならないってことだ。十五年前にもニコさんは解き放たれて望みを叶えたのに、今回また繰り返してるってことは……完全に浄化できなかったということ。しかも学校側はそれを隠蔽して、再びニコさんの人形を学校のどこかに隠した可能性が高い。今回ゲームをクリアしても、また同じことが十年くらいあとに繰り返されるのだとしたら……」
「でも、うちらにニコさんを封印するような霊能力なんかないんやで!?だったら、とりあえず残ったクラスメートが生き残るためにも、とりあえずニコさんに憑りつかれてる人を見つけるしかないんとちゃう!?」
「それはそうだが……」
彼は渋っているが、沙穂の言う通りではある。
自分達は霊能力者でもなんでもない。とりあえずニコさんのゲームに乗って勝利しなければ、今生き残っている者達みんなが殺されてしまう可能性が高い。
急場凌ぎでも、やるしかないのではないか。
――それに、もう一つわかったことがある。
ちらり、と。こちらを遠巻きにして見ている美冬に視線を投げた。
――橙山仁子。……ニコさんの元になった、いじめられていた少女の名前。……灰田さんが言ったことは、あってた。
『だから、わたしはニコさんに同情してたわ。ニコさんはね。正確には……いじめで死んだ女の子が、あの世で生まれ変わった存在なの。生きていた頃の名前は、橙山仁子とおやまにこ。彼女はとても素晴らしい霊能力者なのに理解されずに、哀れにも葬り去られた。それを、親友の少女は不憫に思って呼び戻そうとしたの。……結果、あの世から戻ってきた橙山仁子は既に人ではない別の何かになっていた。それでも、少女は構わなかった。少女の魂と仁子の魂が一つとなって……ニコさんという素晴らしい怪異が生まれた』
灰田美冬は、ただのニコさんの狂信者で、エセオカルト少女でしかないと思っていたが。
まさか本当に、ニコさんと交信できる能力があるというのか。もちろん、この掲示板を既に彼女が見ていて、知っていた情報を喋っただけということも考えられるが。
「ちょ、ちょっと皆さん!何かわかったんですか!?」
山吹先生が慌てたように声をかけてきた。
「わかったなら先生にも教えてください。本当に、ニコさんという幽霊は実在するんですか?」
「わかりません。でも……過去にニコさんによるゲームが開催されたことがあったらしいのは確かです」
「ええ!?」
とりあえず、山吹先生にも知ったことを全て話しておくことにした。先生は紙のように白い顔で、そんなバカな、嘘でしょ、と繰り返していた。
とはいえ、既に先生もそろそろオカルトを本格的に信じなければならなくなった段階だろう。超能力のようなもので浮かび上がるチョーク、誰にも気づかれずにいなくなって殺された真梨衣と英、その不可思議な遺体。
人間の仕業だと考えるのにはもう、流石に限界がある。
「山吹先生……」
ゆいなは意を決して尋ねる。
「先生、確か教員になって長いんですよね?……十五年前にこの学校であったこと、知りませんか?食中毒ってことにして、ニコさんのゲームを隠蔽した人達がいる可能性が高いんですけど」
「そ、そんな……」
先生は確か、四十五歳だったはず。もうすぐ四十六歳になるということで、自分達でこっそり誕生日プレゼントを考えていたのだ。残念ながらこの調子では、渡せるかどうかも怪しくなってしまったが。
大学卒業してすぐ教員になったという話だから、彼女ならば何か知っているのではないか。そう思ったのだけれど。
「……ごめんなさい、私は何も知らないんです」
山吹先生は首を横に振った。
「というのも、私がこの学校に来たの、数年前なの。十五年前にも確かに教師はしていたけれど、隣町の学校に勤務していたからこの学校のことはよく知らなくて……。私以外の教員の人達もそう。十五年前からずっとこの学校に勤務しているのって、校長先生くらいなものじゃないかしら。だから校長先生なら、何か知っていたかもしれないけど」
「そうですか。……まあ十五年前だからしょうがないか」
「教員は学校を移ることも多いですから。申し訳ないけど、私はニコさんの都市伝説でさえ、皆さんから聴くまでは名前も知らなかったのよ」
残念ながら情報はないらしい。この様子だと人形に値するもの存在していたのだろうが、そもそも都市伝説通り“人形”の形をした依り代であったのかも確かではない。
ただ、学校としても隠蔽作業は簡単ではなかったはず。
それでも隠すしか方法がなかったとしたら。
――ニコさんという怨霊は、それほどまでに強いものだった、ということ?
人ではない別のナニカ。
死してなお、恨みを晴らさずにはいられないほど酷い目に遭ったということだろうか。
まったく無関係の、同じ学校に通っているというだけの人間さえ断罪しなければ許せないほどに――。
「あのさ、ちょっと気になることがあるんだけど」
瞬がおずおずと口を開いた。
「十五年前、ニコさんに憑りつかれた人。みんなに見つかってそのあと……どうなったんだ?それでゲームを終わりにしてもらえたって話だけど、実質憑りつかれた人が、ニコさんの力でクラスメートを殺していたようなもんだよな?本人の意思じゃなかったかもだけど」
「あ、それは……どんなんだろ」
ゆいなは慌てて、沙穂のスマホの画面をもう一度スクロールした。
752:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
ニコさんの怪異で死んだのを、学校側か、あるいは警察もグルで隠蔽したってこと?
753:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
いくらなんでも考えすぎじゃない?
754:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
>>753
と、思うだろ?でもマジなんだ
十五年前の食中毒大量死が起きたのが、かつて仁子さんの信者だった女の子が儀式やって死んだ教室なんだよ
で、生き残った生徒が意味不明なことぼやいてるって雑誌がすっぱぬいてるんだけど、そこにこう書かれてたらしい。
「ニコさんの人形を見つけて、憑りつかれた人がいた。その人を見つけたら終わりにしてもらえた」って
755:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
おいおいおいおい……!
756:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
本当に、誰かがニコさんの封印を解いて、そのせいで取り憑かれたってこと?
ってことは、ニコさんの力でどうしても殺して欲しい人がいたってことなんだろうか?
757:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
憑りつかれていたとはいえ人殺しは人殺しだよな?そいつちゃんと逮捕されたんか?
758:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
>>756
>>757
ごめん、そこまではちょっとわかんない。
自分もまとめサイトで雑誌のスクショとか見ただけだから……自分が知ってる話って残念ながらそこまでなんだよ。
人形に憑りつかれた人を名指しして、「ニコさんみいつけた」って言ったら終わりになるらしいんだけど
それで取り憑かれた人がどうなったのかは……
759:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
なんか……普通に、食中毒の犠牲者の中に混じってそうと思ったのは俺だけか?
760:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
>>759
奇遇だな、俺もだ
761:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
こういうのってさあ。間違った人に「みいつけた」やったらどうなるんだろうな?
容疑者の人数が少ないなら、片っ端からみいつけた、やっていけば当たりそうなもんじゃない?
762:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
>>761
馬鹿、怨霊がそれを許すもんかよ。
間違えた時点でゲームオーバーに決まってる
763:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
まあそうだよなあ
一度間違えたらその時点で、生き残ってる全員が内臓喰われて死ぬパターンだと思われ
あるいはもっと苦しい死に方になったりしてなあ?
764:七不思議は名無しのメロンに限るねらーさん
やべえ、こええええ……!!
「駄目っぽいね……」
掲示板を、さっき読まなかったところまでスクロールしてみたが。残念ながら、目新しい情報はなかった。
ニコさんに憑りつかれた人を名指しして“ニコさん、みいつけた”と言えばいい――と分かったのは収穫だがそれだけだ。
「この推測、間違ってないんじゃねえの」
瞬は渋い顔で言った。
「ニコさんに憑りつかれた人をさ、間違えて指名したらアウトだろ。そんな総当たりをニコさんが許してくれるとは思えねえ。つか、それがOKならゲームが成立しねえ」
「だよね……」
「でもって、名指して正解だと、憑りつかれた人間が死ぬかもしれないってなら……俺は……」
段々と彼の声が小さくなった。犯人がわかったとしても、その名前を言うのが怖い――そういうことだろう。
誰だってそうだ。
人を殺すかもしれない、その恐怖にはそう簡単に耐えられない。一生、そんな苦しみなんぞ味遭わずに生きていきたいに決まっているのだから。
「今のところ、一番怪しいのは間違いなく灰田さんやけど」
はあ、と沙穂がため息をついた。
「だからって、安易に名指しするのは危険ちゅうことか。まず間違ってへんと思うんやけどな。あの人には、うちらを虐殺したい動機もあるんやで」
「黄島さん、やめなさい」
聞き咎めたのか、山吹先生が言った。
「人を安易に人殺し呼ばわりするものではありませんよ。確かに、灰田さんは変わった人ですし……あまり褒められたものではない言動もありますけど。だからって、証拠があるわけじゃないでしょう?」
「ええそうよ、わたしじゃないわ」
その言動に乗っかったのは美冬だ。
相変わらず、余裕ぶっこいた表情で机に頬杖をついている。
「そもそも、ニコさんに最初に殺されたっぽい男の人だっけ?あの人のことなんかわたし全然知らないもの。知らない人を、何の意味もなく殺すほど退屈してないわ。わたしがニコさんに憑りつかれて事件を起こしてる犯人だというのなら、証拠を見せて頂戴?」
「お前なあ……」
それって、知らない人じゃないなら殺してもいいと思っている、と白状しているようなものじゃないのか。ゆいながしょっぱい気持ちになった、その時だった。
「お前に決まってる」
がらがらがら、とスライドドアが開いた。ぎょっとして振り向くと、そこには見慣れた顔が二つ。
「て、貞くんに、京くん?」
藍沢三兄弟の次男と三男は。色の無い目で、じっと美冬を睨んでいたのだった。




