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第40話 騒動の終止符

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 薄暗かった通路に元の明るさが戻る。


 俺は辺りを見回して満足気に頷いた。




 よし、これにて一件落着。




 どこぞの時代劇を真似るようにして、俺は魔物騒動に終止符を打った。




『元はお前が原因で巻き起こした騒動なんだがな。当然の尻拭いだ』




 ん? 聞こえない。




『お前、だいぶ性格が俺に似てきたよな』




 一緒にするなよ。俺はまだおっちゃんほどの外道(ゲス)は極めていない。




 そうキッパリ言って。

 俺は手持ちの【もこもこ胸毛】を腰巾着のアイテム袋に入れた。




 これでよし、と。

 じゃぁおっちゃん、あとのことよろしく。俺、元の世界に帰るから。ここに居る時間もだいぶ経っただろうし、明日は学校があるんだ。宿題もまだ終わってないから急いで目を覚まさないと……。えっと、今の時間は──




 手首に視線を落として、俺は気付く。




 あ、そうだった。忘れてたよ。俺、腕時計を机の引き出しに入れたまんまだった。今何時だろう……。




 付け忘れてきたことを思い出し、俺は虚空へと視線を漂わせた。

 たぶんきっと、俺の勘では向こうの世界は昼か夜頃だと思う。




 なぁ、おっちゃん。




『なんだ?』




 そろそろログアウトさせてくれ。たぶん今なら良い時間帯じゃないかと




「コラぁッー! そこのお前! 覚悟しろ!」




 いきなり背後──通路の向こうから飛んできた罵声に、俺は驚いて短い悲鳴を上げた。



 まさかまた奴が戻ってきたのか!?



 俺は咄嗟に近くの床に落ちていた【へし折れたバール】を拾い上げると、反射的にそれを声のする方へ構えた。


 通路の向こうから見知った人物達が駆け寄ってくる。




 ──ん?




 思わず俺は二度見した。

 よく見れば、槍を持った俺の上司とアデルさん、それにミリアじゃねーか。


 距離を置いて上司が立ち止まり、俺に向けて槍を突きつけてくる。




「犯人はお前だな!」




 は? 何が?




 俺は目を点にした。




「何がもクソもない、仲間の仇だ覚悟しろ! この魔物め!」




 いや、ちょっと待ってくれ。仲間の仇って……いったい何があったんだ?




「お前のその手持ちのバールはなんだ!? それで仲間を撲殺したのか!」




 ぼ、撲殺……!?




 訳も分からず混乱して、俺は慌てて手持ちのバールを投げ捨てた。

 ミリアが横から冷ややかに俺の上司にツッコむ。




「撲殺ではなく死因は斬殺です」




「そうか! ならばバールで仲間を斬殺したんだな!」




「何を言ってるんですか? バールで斬殺なんて無理です。頭大丈夫ですか?」




「……」




 ミリアの鋭いツッコミに、俺の上司も次の言葉が出ない。

 アデルさんが声を張って俺に言う。




「我輩は信じておるぞ、ケイ。たとえお前さんがここでバールを振り回していようとも」




 俺は慌てて両手を振って全力で否定する。




 ち、違うんです! これは何かの誤解です!




 すると俺の上司が周囲を警戒するように激しく見回し、声を上げてくる。




「な、何なんだ、この壁の鋭利な傷は!? 仲間を殺った傷と似ている!!

 ──そうか、やっぱりお前か! 人間の姿をしたこの魔物め!」


 

 ま、待って! 本気で待って!




 俺は慌てて手を振って上司を弁明する。


 


 ほんと、誤解なんだ! 俺は誰も殺してなんか──




「じゃぁこの傷はいったい何だ! 説明しろ!」




 いや、説明しろと言われても、なんかほんと、あの……いや、これはあの、ちょっと、色々ありまして──




 改めて。

 俺は周囲を見回す。

 壁のいたるところに残された、激しくも生々しい鋭利な傷跡。

 その傷跡がここで何があったのかを悲痛に伝えてくる。

 魔物と戦って出来た傷だとは口が裂けても言えない。

 そんな話を誰が信じるだろうか。

 それに証拠なんて──

 魔物なんてもうどこにも居ない。



 上司が再度槍を構え直して俺を睨んでくる。



「間違いない。コイツは人の姿をした魔物だ。この一連の人殺し騒動の犯人だ!」




 ほんと違います! 何かの誤解です! 俺、本当に誰も殺してなんかいません!




「その方、槍を収めよ」




 穏やかに。

 アデルさんが俺の上司を引き留める。

 手でその槍の矛先を押さえて落とし、上司を説得する。




「あの者は魔物などではない。信頼できる我輩の弟子だ」




「で、弟子?」




「アデル様、ご無事ですか!」




 遅れて。

 白騎士数人がアデルさんの傍に駆け寄ってくる。


 アデルさんがみんなに言う。




「ここはもう問題ない。魔物は去った。お前たちはそれぞれ持ち場へ戻るがよい。ここは我輩が引き受けよう」




「いえ、アデル様。その意に従うことは出来ません」




 言って。

 白騎士たちがアデルさんを背後に庇い、俺に剣先を向けてくる。




「魔物は我々の目の前に居ます。

 次々と人が喰われ斬り殺された中でたった一人、この者だけが平然と生き残っているのです。魔物に取り憑かれているか、あるいは人に扮した魔物か。

 この者をこのまま見過ごすわけにはいきません」




「何を言う!」




 アデルさんが一喝する。

 身を守る白騎士たちを横に押し退けて、アデルさんは真っ直ぐに俺のところに来た。

 そして俺を背に庇って両腕を広げ、きっぱりと言い放つ。




(クトゥルク)に誓って言おう。──この者は断じて魔物ではない!」




 白騎士は剣を退かない。




「魔物でなければ黒騎士ですか?」




「黒騎士でもない! この者は我輩の弟子だ! 弟子を斬るならば師である我輩を先に斬るがよい!」




 アデルさん……。




 次いでミリアも俺のところに来て、アデルさんと同じように俺を背に庇う。




「私も同じく。この者を信じています」




 ミリア……。




 ぼそりと、ミリアが言葉を付け加える。




「不本意ですが」




 オイ。それ




 俺は半眼で呻いた。

 それでも白騎士たちは体勢を崩すことなく、その内の一人がアデルさんに言う。




「お言葉ですが、アデル様。

 アデル様は魔物の怖ろしさとその残忍性を何も理解されていないとお見受けします。

 数々の戦線を生き延びてきた我々【白の騎士団】では、たとえ見た目が人であろうとも魔物の中に居たならば迷わず斬れとの教訓。

 魔物は人に取り憑き、その心を蝕み、やがて魔物へと変え仲間を増やします。

 ここでその者を庇われないのが御身の為。まだその者に人間としての心が残るうちに、ここで介錯すべきです。そうしなければその者はやがて魔物と化し、闇を呼び、仲間を呼んで、血肉を求めて殺戮が始まる。それを我々はこの目でいくつとなき見てきたことです。」




「違う! きっとこれは何かの誤解だ。ケイはけして魔物になどならぬ。ケイはまだ子供だ。きっと何か理由があるに違いない。今すぐその武器を退くが良い」




「アデル様、たとえ子供であろうとも魔物を侮ってはいけません。容赦無用。それにアデル様がここでどんな命を下そうとも、我々【白の騎士団】はクトゥルク教の忠義の下に動く教団騎士です。目の前の魔物は即座に滅ぼせ。それが教団の指示。

 アデル様とミリア様の御身は守りします。しかし、魔物蔓延るこの場所に居たその者をこのまま見過ごすわけにはいきません」




「それでもならぬ! 我輩はケイを信じ、ここで守る。誰にも殺させはせん!」




 それでも尚、白騎士たちは武器を下ろさない。

 別の一人が口を開く。




「無礼を承知で申し上げます。

 アデル様は過去に【盗賊団アカギ】を庇い、民間人に多くの犠牲を出したことをお忘れでは?

 再び過去と同じ過ちを繰り返されるより、ここは潔く身を退くべきではないのですか?」




「……ッ!」




 アデルさんに言葉はなかった。

 ミリアも。

 二人とも何かに耐えるように拳を握り締めて奥歯を噛み、顔を俯かせる。




 ……。




 そんな時だった。

 ふいに聞こえてきた近くの物置部屋からの慌ただしい物音。

 全ての注目が一点に集中する。




 その後。

 慌てふためくようにドアが開いて、一人の金髪青年の船員が飛び出してきた。

 急いで俺の前で両腕を広げて庇ってくる。




「待ってくれ! 証明は僕がする! コイツが魔物ではないことを!」




 あ、お前──




 見覚えのある青年だった。

 白騎士たちは一斉に金髪の船員にも剣先を向ける。




「何者だ! お前も生き残りだな! ならば」




「待ってくれ! ぼ、僕は──!」




 震える声を呼吸で落ち着けた後、金髪の船員は白騎士たちに告げる。




「僕の名はカルロス。カルロス・ラスカルド・ロズウェイだ。

 理由(ワケ)あって今この姿でここで働いている」




 途端に、今まで冷静だった白騎士たちが動揺を見せる。次々と剣を下ろし、




「カルロス様だと?」


「まさかそんな」


「なぜこのような所に?」


「カルロス様はたしか、勇者祭りにご参加された後に行方が分からずに──」




 ならば本人では、と。

 白騎士たちで話がまとまり、金髪の船員──カルロスの元へと集った。

 そのことに気を良くしたのか、カルロスが堂々とした態度で胸を張る。




「頭が高いぞ、お前たち。僕はクトゥルクに選ばれし勇者なんだ。敬意を払え」




「よくご無事で、カルロス様」



 次々と。

 白騎士たちがカルロスの前で片膝をついて頭を垂れる。

 カルロスの態度が尚も高々となり、フンと鼻を鳴らす。

 腰に手を当て、白騎士たちを見下し、




「僕にはクトゥルク様の御加護がある。だから魔物は僕に恐れを為して寄って来ないんだ」




 おぉ、と。

 周囲が感嘆の声を上げる傍ら、俺は内心で頭上のミニチュア・ジュゴンに確認をとる。




 今の話ってマジなのか? おっちゃん。




 するとやれやれと。

 ミニチュア・ジュゴンが呆れるように溜め息を吐いて、お手(ヒレ)上げをした。




『お前が来るまでの間、ちぃっとばかし意識を乗っ取って生き抜いてやったというのに。プラス思考というか、よくあそこまで堂々と言えたもんだな』




 あれ? そういやおっちゃん、今更だけどいったいどうやって貨物室からここまで来たんだ?




『ん?』





今からちょうど二年前に総集編でこの話を投稿した時よりも、だいぶ投稿の仕方が変わっているように感じるんだが……俺の気のせいだろうか。

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