19.それから……
目が覚めると目の前にミアの寝顔があった。
すぅすぅと寝息を立てて寝ている姿はかわいらしく、愛おしく感じた。
これから毎日こうやって寝顔が見られるんだなぁ。
じっと見つめていると自然と唇に唇を重ねてしまう。
「……ん」
「おはよう」
キスで目覚めるなんてどこかのお姫様みたいだなぁと思って微笑んでいたら、ミアの顔がだんだんと赤くなった。
「お、おはよう……ございます」
カーテンの隙間から見える感じからして、お昼過ぎかなぁ。
特に予定があるわけではないから、このまま一日中ベッドの上でもいいんだけど……。
くぅぅぅとボクのお腹が鳴った。
ミアは一瞬きょとんとした顔をして……そのあとにくすくすと笑った。
「お腹すいたから、起きよう?」
ボクがそういうと、ミアは頷いた。
そして、起き上がろうとしたんだけど、……裸であることに今ごろ気づいたようで慌てて掛布で体を隠した。
さっきよりも顔が赤い。耳まで真っ赤だ。
「ミアってホントかわいいね」
ミアはボクの言葉を聞いてうろたえるようにもぞもぞ動いた。
その仕草も可愛いんだけどなぁ。
ボクは笑いながら、掛布の上からミアを抱きしめた。
***
あれから二か月、季節は夏になった。
朝、目が覚めると当たり前のように隣にミアがいて、毎日幸せを感じている。
「おはよう、ミア」
「おはよう、ジル」
挨拶のあとは各自の部屋で着替えて、そのあとは一緒に朝食を摂る。
「今日はね、私が作ったラスト豆を使ったサラダなんだよ」
ミアはいたずらっぽい笑みを浮かべながらそう言った。
「引っ越してからすぐに始めた家庭菜園の野菜?」
「うん! ぷりぷりとしてて甘いから食べてみて~」
ミアは公爵夫人となってから、屋敷を切り盛りするかたわら、家庭菜園を始めた。
まずはお手軽に作れるスナップエンドウそっくりなラスト豆から始めたそうだ。
「ホントだ……これは好きだな」
「でしょ! ジルの好みだと思ったんだ~」
得意気に笑うミアを見て、ボクも笑い返す。
「ああそうだ。今日は王宮へ行かないとなんだ」
「私も一緒にいったほうがいい?」
「今日は大丈夫。この間のブルーフォレスト領の話だから」
「何かあったら呼んでね。すぐに行くから」
公爵になったあと、ボクは前よりも頻繁に王宮で仕事をするようになった。
外交と領地巡りだけでなく、賢者として宮廷魔術師たちに魔法を教えることも仕事となった。
宮廷魔術師たちは日々、研鑽を積んで国で一番優れていると自負していたんだけど……はっきり言ってしまえば、井の中の蛙というか専門的すぎるんだ。
魔術イコール攻撃魔法だという認識も良くないと思うんだよねぇ。
そのへんの意識を変えていくことも含めて講師役を引き受けたよ。
「ジルクス様、そろそろお時間でございます」
「もっとゆっくりしたいんだけど仕方ないね」
ボクはヘキサの言葉にため息をつきつつ答えた。
立ち上がり、玄関へ進もうとするとミアもついてくる。
その後ろにはリザベラたちも……新しく雇った侍女侍従、全員だ。
「いつも思うんだけど、盛大なお見送りだよね」
「一家の主人なんだから、それくらい当然だよ」
スウィーニー侯爵家ではいつもこうだったようだ。
「それじゃ、行ってきますのキスも当然だよね」
ボクはそう言って、みんなの前で堂々とミアの頰にキスをする。
ミアは恥ずかしがりながらもボクの頰にキスを返してくれる。
二人で照れあっていたら、テトラの声が聞こえてきた。
「主様とミア様ってー、いつになったら照れなくなるのかなー?」
「ウォン!」
「オールちゃんもそう思うー?」
なにやらオールと話しているようだけど、ボクには理解できない。
理解のできるミアは顔を真っ赤にして下を向いた。
「なんて言ってたの?」
「……ヒミツで」
「えええ、教えてよ?」
ぎゅっと抱きしめながら聞いても教えてくれなかった。
「ジルクス様、お時間でございます」
「しょうがないなぁ。続きは夜にでも聞くよ」
にっこりと微笑んでいうとミアはさっきよりも顔を赤くした。
くすくすと笑いながら、ボクは馬車に乗り込む。
「行ってくるよ」
「行ってらっしゃい!」
「「「行ってらっしゃいませ!」」」
これからも面倒なことはたくさんあるけど、ミアと……いつか生まれる子どもたちと一緒に楽しく生きていくよ!
お読みいただきありがとうございます
これにて ジルのお話は完結です
ここまでこれたのも応援してくださった方々のおかげです
約一年半、お付き合いいただき、本当にありがとうございました
書籍版も三巻で完結となります
Web版だけだとページ数が足らなくて……書き下ろしが80ページほどあります
発売は2018/8/31です
そちらもよろしくお願いします!