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慈愛の都

 パンドラの大型アップデートでは、攻略世界は色欲の世界。


 レベルの上限は【225】まで解放され、新たなジョブにスキル、そして新種族が追加されている。


 レベル【150】までは、簡単に上げる事が出来るようになっていた。


 特定の条件を満たさずとも、勤勉の都までなら初心者プレイヤーでも足を運ぶことが出来る。


 新しいイベント。


 新しいモンスター。


 新しい装備にアイテムの数々。


 観光エリアを楽しんでいるプレイヤーたちも、アトラクションや遊ぶ場所が増えたことで更に楽しくなっていた。


 ただ、ここで新たな仕様変更が加わる。



 慈愛の都は水上都市だ。


 都市は大きな湖に浮んでおり、移動手段にはボートがある。


 モンスターなども水上、水中で厄介な奴らが多い。


 都市全体が、観光エリアのような雰囲気を出していた。


 マーメイドや、ハーフマーメイドのNPCたちも多く、幻想的で美しいのが慈愛の都である。


 ポン助率いるギルドが、ようやく慈愛の都に足を踏み入れたのは現実世界で一ヶ月程度の時間が過ぎた頃だ。


 五月が終わり、そろそろ暑くなってくる季節。


 慈愛の都はまさに季節感に合っているように感じる。


 新しい装備に身を包んだポン助は、背伸びをして慈愛の都の空気を吸い込む。


「ようやく慈愛の都だ。ここまで来ると、やっと戻って来た気がするね」


 以前は慈愛の都に入ったところでメンテナンス期間に入っていた。


 ただ、ギルドメンバーはいつも自由だ。


「レベル上げをしたら分別の都に戻ろうかな。あそこ、生産職のプレイヤーにはホームにしたい場所だからね」


 ライターたち生産職がメインであるプレイヤーにしてみれば、慈愛の都はドロップアイテムを回収するだけの場所だった。


 特に見るべきところがない。


 そうかと思えば――。


「とうっ!」


 ハーフマーメイドのノインが、装備を外して水着姿になると湖に飛び込む。


 水しぶきがポン助の顔にかかった。


「ちょっと、ノインさん」


 ポン助が注意をすると、ノインが水面に顔を出す。


「水の中も凄いんだって。ちゃんとお店とかあるんだよ。遊びに行こうよ」


 ハーフマーメイドは水中でも自由に動けるが、ポン助たちは専用アイテムや装備がなければ潜れない。


「いや、無理ですって」


「残念。この前、チェックしていたお店があるから、そっちに顔を出してくるね。フランちゃん、また後でね!」


 相棒のフランを置いて水の中に消えるノイン。


 すると、シエラが言う。


「あ、オークの皆さんが」


 嫌な予感がしても、見ないわけにはいかないので顔を向ければオークたちがマーメイドたちに襲われていた。


 鬼気迫る顔をするマーメイドたちに、オークたちが水の中に引込まれている。


 オークは基本的にNPCに嫌われ、一部から攻撃を受ける。


 プライたちは、わざと攻撃を仕掛けてくるNPCたちに近付いたのだろう。


「わ、私たちに構わず先に――」


 八人がもがき、苦しみながら水のそこに連れて行かれた。


 時折、通行人であるプレイヤーたちが唖然として眺めているが、ギルドメンバーはいつもの事なので呆れるだけだ。


 しばらくすれば、慈愛の都の神殿でデスペナなしで蘇るので心配ない。


 因みに、そろりはいつの間にかいなくなっていた。


 ブレイズは申し訳なさそうに言う。


「ごめん、俺たちももう行くよ。今日はノルマが多くて急がないと間に合わないからね」


 ノルマ――ライターたちがギルドメンバーに依頼しているドロップアイテムの回収である。


 生産職の全面的なバックアップを得られる代償に、ポン助たちはゲーム内のほぼ三分の二の時間をアイテム集めに使っていた。


 新規プレイヤーや新しい仲間を従えたブレイズたちパーティーが、今日もノルマを達成するために走って外に向かう。


「みんな、今日は“大魚の目”をなんとしても手に入れるんだ! 大丈夫! この数で挑めばすぐに手に入る!」


 入手困難なドロップアイテムを求め、ブレイズたちが走り去っていく。


「……なんでゲームでこんなに苦労しないといけないんだ」


 そんなブレイズたちの背中を見て、泣きそうになるポン助だった。


 すると、グルグルがポン助の腰布を引っ張る。


「ポン助兄ちゃん。今日は俺、友達たちと合流するから抜けるね」


 以前よりも、より女の子らしくなったグルグル。


 簡単に言えば、アバターの性別が女性である。


「う、うん。というか、大丈夫か?」


 最近、リアルで男の子を女装させた件もあって、ポン助はグルグルを心配していた。


 もしかしたら星がグルグルかも知れないと思った。ただ、確かに類似点は多い。多すぎるが、グルグルまで身近な人間となると天文学的な確率になってくる。


 そのため、別人だと思っていた。


 グルグルをよく見る。


 少し膨らんだ胸にお尻。くびれた腰。細い手足に小さな顔。


 絶対に大丈夫と思えない。


 何しろ、友人たちに頼まれてグルグルは女性アバターにしたのだから。


 下心しかない友人たちだ。


「大丈夫だよ。ゲームなんだから手なんか出せないって。まぁ、リアルで色々とあって、仲直りしたんだけど、ゲーム内だけでも女の子と遊びたいって言うから仕方なくだよ」


 本当は男っぽいのがいいのに、などと言っているグルグルの仕草は女の子そのものだった。


(まぁ、確かにゲームだから変な事は出来ないか。下手にセクハラをすれば警告が面が出てくるし)


 ナナコが困った顔をする。


「そうなると、今日は私とシエラさんですね。誰かに手伝って欲しいのですが……」


 多くの新人たちはブレイズたちがドロップアイテム欲しさに連れていき、ライターたちもレベル上げとドロップアイテム集めに向かってしまった。


(ブレイズさんはともかく、みんな自由すぎるな)


 すると、ソワソワしているマリエラが、ナナコたちに言うのだ。


「な、なら、私が組もうかな。うん、その方が良いわね。大丈夫、アルフィーより役に立つから!」


 アルフィーも何故かソワソワしていた。


「狡いですよ! 四人で行きましょう! そうしましょう! さぁ、早く! このまま女四人でレッツパーティーです!」


 シエラが首を傾げていた。


「え? でも、いつもはポン助さんに――って、なんでですかぁぁぁ!」


 首根っこを掴まれたシエラとナナコが、マリエラとアルフィーに連れて行かれてしまう。


「……あ」


 ポン助が周囲を見ると、残っているのはイナホとフランだ。


 フランは溜息を吐く。


「まいったな」


 イナホは頬を指でかいていた。


「えっと……どうしましょうか?」


 二人とも前衛。


 ポン助も前衛だ。


 パーティーのバランスはあまり良いとは言えない。


 フランが呟く。


「昨日までノインはノルマで大変だったから、今日くらい休ませてやりたいな」


 相棒のノインは、ノルマに追われて泣きそうになっていたらしい。


 ポン助も同様だ。


 いつもの面子でアンデッドたちと戦い続け、ようやくノルマを達成している。


 イナホも今日は休日である。


「大変でしたよね。ライターさんたち、なんていうか容赦がなくて」


 酷いノルマを与えられるが、代わりにつかっている装備などは基本的に無料で作成してくれる。オマケに、デザインにこだわっても文句を言わず対応してくれる。


 ほとんど休みもない状況で、商品開発をしているのがポン助のギルドメンバー……その職人集団だ。


 ポン助はとりあえず。


「なら、外に出て少しモンスターと戦ったら観光でもしませんか? ここ、割と人気のあるスポットですからね」


 観光エリアの分散化。


 希望の都だけではなく、他の世界にも観光エリアのような場所が出来た。


 そして、観光地で使用するお金は基本的にモンスターを倒して、アイテムを換金する方法でしか手に入らなくなっていた。






 湖をボートで移動するポン助たち。


 湖の底には海底都市が見えており、そこには魚にマーメイドやらイルカなど色々な生き物が泳いでいた。


 イナホが手を伸ばして水に触れる。


「冷たくて気持ちいいですよ」


 上半身を乗り出しているので、お尻を突き出している恰好だった。


 ポン助は紳士的だ。


「イナホちゃん、あんまり身を乗り出すと落ちちゃうよ」


 ボートはポン助がオールを漕いで操作しており、二人とは向かい合うように座っていた。


 イナホもフランも私服姿でスカートだ。


 しかし、謎の光が発生して下着は見えない。


 そもそも見えたとしても味気ない下着だというのは分かっている。分かっているのだが――ポン助は思うのだ。


(謎の光を消すアイテムがあれば、僕は課金してでも手に入れるだろう)


 見えそうになると出現する謎の光やら煙。


 ネットではどうにかしてこの怪現象を除去、もしくはシステムの穴を突こうとする熱い男たちが情報を交換している。


 ポン助もちょいちょいチェックしている。


 見えないと分かっているのか、女性陣の気の緩みもある。


 フランがイナホの背中を引っ張り、ボートに座らせた。


「落ちたら目を覚ますと神殿だぞ。時間の無駄だ」


「そうですけど。凄いんですよ。マーメイドが普通に生活しているんです!」


 随分と作り込まれているパンドラの世界。


 日差しの熱さを感じつつ、ポン助が空を見上げた。


「それにしても、今日も暑く感じ――はっ!」


 ボートは丁度橋の下を通った時だった。


 見上げた場所の手すりに、女性アバターたちがいて話し込んでいた。


 どうやら観光地目当てのプレイヤーであるのか、全員が私服姿でスカートだった。


 謎の光も煙も出現しないまま、ボートはそのまま橋の下を通過する。


 ゆっくりと顔を降ろしたポン助は、そのままボートを漕いだ。


「ポン助さん、どうかしました?」


 ポン助は挙動不審だった。


「い、いや、まったく! 普通だよ。うん、普通!」


 フランが目を細める。


「どうにも怪しいな。正直に話して貰おうか」


 ボートの上でフランが近付いてくる。


「あ、ちょっと待ってバランスが――」


 フランとポン助がもみ合うと、そのままボートがひっくり返った。






 場所は変わり、マリエラたちは観光エリアのショップに来ていた。


 そこは女性アバター向けの商品を扱っており、今日は特にプレイヤーたちが多い。


「いらっしゃいませ~」


 笑顔のハーフマーメイドの店員の先には、今まで実装されていなかった女性アバターの下着が販売されていた。


「あった!」


 アルフィーが喜び、シエラも下着を見て驚いていた。


 ナナコが顔を赤くする。


「な、なんていうのか紐みたいですね。アバターの下着は今まで全部一緒だったのに」


 スポーツタイプの下着が普通だったのだが、これからは下着にもこだわれるようになっていた。


 見えないとは分かっていても、やはりマリエラもアルフィーも気になるのか買いに来たかったのだ。


 しかし、ポン助を連れてくる事は出来なかった。


 シエラがジト目をしている。


「普段はあんなに傍若無人なのに、なんでこういうところは乙女なんですか?」


 マリエラがシエラを見る。


「あんたも言うようになったわね。それは……ま、まだ清い関係だからに決まっているじゃない」


 シエラが疑った顔をしている。


「清い? あれがですか?」


 ナナコも同意だった。


「流石に清いというのはちょっと……前にポン助さんを病院送りにしましたし」


 そこまで言うと、アルフィーが下着を選んでいる途中で顔をナナコに向けた。


「どうしてその話を!」


 ナナコはしまった、という顔をしたが正直に話す。


「ほら、ポン助さんがログインしない日がありましたよね。その時、ブレイズさんたちもオフ会をしていたらしいんです。私、耳が良いので聞こえていて……それで、もしかしたらと思って特徴を覚えていたら、病院にポン助さんがいたんです。すぐに分かっちゃいました」


 リアルでは目が見えず、体をろくに動かせなかったナナコは、今でこそ動けて目も見える。


 そのためか、耳が良いらしい。帽子から飛び出ている猫耳がピコピコと動いていた。


 シエラが驚く。


「そうなんですか? 私、リアルで知っているのはナナコちゃんとグルグルだけですよ」


 ナナコは少し意味ありげに微笑んでいた。


「そうですね。でも、案外近くにいるかも知れませんね」


 クスクス笑っているナナコに対して、マリエラは思った。


(まずい。今のままナナコちゃんまで絡んでくると、ポン助がナナコちゃんに取られ……)


 そこまで思ってナナコの胸を見る。


 真っ平らだった。


 マリエラは安堵した。


 何しろ、ポン助はおっぱい大好き星人である。


 ナナコはストライクゾーンではない。


 アルフィーも同じ事を思ったのか、手には幾つかの下着を持っている。


 どれも少し派手だった。


「まぁ、それよりせっかく女の子同士で集まったんですから、下着を選んでしまいましょうよ。これ、ステータスに多少は影響するみたいですよ」


 シエラが恥ずかしながらも下着を選ぶ。


「う~ん、私は出来れば体力とか筋力系のステータスを補ってくれる下着が欲しいですけど」


 探していると、ナナコが相応しい下着を見つけた。


「シエラさん、これなんか希望通りですよ」


 喜んでナナコがシエラに見せたのは、虎柄の下着だった。ご丁寧に、毛皮で作り込まれており、ステータスの上昇効果も微々たるものだが馬鹿に出来ない数字だ。


 しかし。


「ごめん。これはない」


 ナナコがショックを受ける。


「え!? だって、希望通りの装備ですよ」


「う、うん。ステータス的にはいいけど……ちょっと、デザインが」


 ステータスのためでも、これは嫌だと思うシエラだった。


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