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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第五章

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パンドラ計画

 アルバイトが終わり、アパートに戻ってきた明人はパソコンを起動した。

 ギルド、ポン助と愉快な仲間たちのチャットルームには、それぞれが別の時間に書き込みをしている。

 メンテナンス中で連絡が取れないので、こうしてチャットを活用していた。

「……メンテナンス明けの計画についてか」

 話題は大型アップデートの内容だった。

 少し前に随分と変更があったのだが、今回も大きく変更を加えるらしい。

 そのため、今まで通用していたジョブやスキルのセットが、あまり効果的にならない――今までの設定では通用しなくなるらしい。

 明人もネットで情報を得ているが、今回のアップデートではキャラのリメイクが大幅にやりやすくなっている。

 それも踏まえ、全員がこれまでの設定を見直そうと提案していた。

「悪くないけど、時間がかかるよな」

 明人も設定の見直しは必要だと感じていた。

 いくら自由な設定で己を突き通すなどと言っても、ゲームは常にバランスを考えられ変化していく。

 それに、プレイをしている時にもっとこうすれば良かった、などと誰もが思うのだ。

 この際なので、公開されている情報を元に再設定を行うのも悪くないとギルドメンバーが提案している。

 因みに、ギルド名の変更を提案したが、全員がバラバラの案を出してまとまらないので未だに冗談でつけたギルド名が変更されていない。

 すると、イナホがログインしてきた。

『ポン助さん、ノ』

 明人も『ノ』と返事を書き込むと、イナホが新生活で疲れたと書き込んでくる。

(たぶん学生だろうけど、あんまり深く聞いたら駄目だよな)

 女性のような感じがした。

 実際、そういった事に詳しいそろりが、イナホを女性だと言っていたので間違いない。

『ポン助さん、聞いてくださいよ。他県に移動したんですけど、ここ雪が降らないらしいんですよ!』

『雪が降る地域なんて限られているよね』

『あと、部屋が寒いんです!』

『……寒いの? 寒いところから来たのに?』

『はい。寒いんです! なんか、部屋の作りが悪いんでしょうか?』

 良く聞いてみると、地元では防寒対策が厳重にしてあるようだ。

 だが、他の県ではそんな事もなく、寒く感じているらしい。

『寒いのか』

『寒いです。温めてください』

『 ( ・∀・)っ旦』

『お茶じゃ駄目なの! オークの分厚い筋肉で抱きしめてぇぇぇ!』

『リアルの僕はオークじゃないからね!』

『違うんですか?』

『ち、違うよ』

『……ショックです』

『嘘吐け! リアルがオークってどういう事だよ! ショックなんて受けてないだろ!』

『ポン助さんに信じて貰えないなんてショックです。ポン助さんだけはまともだって信じていたのに』

『……それ、他の人に言わないでね。コメントは消そうか』

『了解です』

 そんなやり取りをしていると、イナホは随分とノリが良い子だというのが分かる。

「イナホちゃん、楽しそうだな」

 そのままログインをしていると、八雲がログインしてきた。

『……あんたら何を言い合っているのよ』

『あ、マリエラさんだ』

『ごめんね。ついノリが良くて』

 三人でチャットを続けていると、八雲がパンドラの公式ウェブサイトで得た情報を貼ってきた。

 サービス再開は五月の一日。

 丁度、連休開始にサービス再開だった。





 奏帆はベッドの上でスマホを手放し、枕の横に置いた。

 一時間近くもチャットをしており、すぐに寝なければ明日の朝に響く。

 やはり環境の変化が大きく、奏帆も随分と疲れが溜まっていた。

「やっぱり一人は寂しいかな」

 母親は元気だろうか? そんな事を考えるが、既にチャットの前に電話をしたばかりだ。

 学園の様子も同じ日本なのに別のように感じてしまう。

「……寝よう」

 部活動も、教師や顧問も手探りの状況なのか、練習メニューもなんだか微妙だった。

 連れてきた顧問に指導経験が少ないのが原因だろう。

 とにかく、立ち上げたばかりの部活。

 上級生がいないため、一年生だけというのも雰囲気が中学と違っていた。

 初日に基礎練習しかしておらず、まだ何も出来ていない。

「……私……ちゃんとやっていけるかな?」

 そう言いつつ眠る奏帆。

 置かれたVRマシンは、部屋が暗くなってしばらくすると勝手に起動して何か処理を開始していた。





 それはスーツ姿の大人たちの会議の場。

 ライターこと【柊 純】は、口の前で手を組んで報告を受けていた。

「今期ですが、各部門好調です。特にホテル関係で――」

 新しく建てた高級ホテルが好調。

 それは純にとって大事な話だ。

 だが、今考えているのは――。

(……レアアイテムが手に入らなかった)

 ――プレイヤーイベントで動画が脅威の再生回数を記録し、審査員の感触も良かったので一位になってしまった。

 手に入れたギルドアイテムは強力だったが、ライターたち職人が欲しかったのはレアアイテムである。

(課金しても手に入らないというのに……抜かった!)

 ライターの計画が狂った理由は、ポン助がパンドラ内で有名プレイヤーだからだ。

 特別技量のある強いプレイヤーではないのだが、色々と話題になっているためコアなファンたちがいた。

 そのファンが再生回数を増やし、他のプレイヤーたちも目を引いたのである。

 メンテナンス期間中なのに、立ち直れない純は数百万単位の課金をするか悩んでいた。

 その雰囲気が、周囲の部下たちに伝わる。

「……い、以上です」

 好調だという報告が終わったのに、純の表情が渋いので周りが困惑している。

(リアルは好調だというのに、どうしてゲームでは……やはり課金は必須か?)

 摩耶のように毎日数百円を使用するレベルではなく、一日に数万をつぎ込む課金を行う計画を頭の中で立てていた。

「好調だな。今季も頼む。それと、いくつか見直したい点が――」

(いや、やはり駄目だ。とにかくあまりお金をかけない方向で楽しむ集まりで、私だけが課金をし続ければ摩耶ちゃんみたいに空気が読めない扱いを受ける)

 ここ最近、知り合いの娘の評価が下がっているが、それでも可愛い娘のような子であるのは変わりがない。

(私がサポートしないと、ポン助君と摩耶ちゃんをくっつけられない。急いでくっつけて逃げ道を塞がなければ)

 そうしないと、何か問題を起こしそうで不安な純だった。

 好調でも気を緩めない純を見て、周りも気を引き締めようという気持ちだった。

 なのに、本人は課金やらちょっと問題のある知り合いの娘について頭を悩ませていた。





 廃墟ビル。

 そこに足を運んだ初老の男性は元大臣だった。

 スーツ姿で紳士という恰好をして、周囲にはボディーガードの姿がある。

 しかし、一人はプロレスラー。

 もう一人はスーツ姿の軍人。

 最後は着崩したスーツ姿の男だった。

 三人とも共通して言えるのは、一目見て強そうと言うことだ。

 元大臣も背筋を伸ばし、ただ者ではない感じが出ている。

 廃墟ビルの中を歩き、そしてある部屋の前に到着するとスーツ姿の軍人がノックをする。独特なノック。

 しばらくすると、中からノック音が聞こえてきた。

 レバー式のドアノブを下にではなく、上に持ち上げるように回してドアを開ける。

 中には、拳銃を持ったスーツ姿の女性がいる。

 防弾チョッキを着用していた。

 そして、四角いテーブルの向こうにはパイプ椅子に座る男がいた。

 随分と疲れた顔をしている。

 髪はボサボサで、シャツはヨレヨレ。

 目の下には隈ができていた。

 元大臣が帽子を脱ぐと相手に笑顔を向ける。

「はじめまして。何度かやり取りはしていたが、こうして会うのは初めてだね」

 相手はパンドラ計画に関わっていたとされる運営の幹部だ。

 逃げだし、行方をくらませていたため元大臣が保護した。

「……自分を突き出さないのですか? 元与党の議員さんたちは、掌を返して俺たちを叩いているって言うのに」

 選挙に勝つため、総理や関係者を叩く元与党議員も多かった。

「私は生憎とそんな事をしなくても地盤が盤石でね。まったく、どうしてこうなってしまったのかと首を傾げる毎日さ。さて、では話して貰えるね?」

 元大臣の言葉に、元幹部は俯いて涙をこぼす。

 膝の上で握った手が震えていた。

「俺たちは国民全てを洗脳する事なんて望んでなかった」

 月の住人が技術提供を行い完成させた発電所を暴走させ、地上の生物を一掃する計画があった。

 それを防ぐ過程で手に入ったのが、与党による国民全てを洗脳する計画だ。

 それを阻止したのが情報屋――今のパンドラの運営で幹部をしている者たちとなっている。

 スーツ姿の軍人が頷く。

「まぁ、VR技術の大きな問題の一つですからね。都市伝説でよく話題になりましたよ」

 情報を頭に入れる際に、洗脳をしているという都市伝説は多い。

 それが実際に可能かどうか……それは別として、潜在的な不安があったのは事実。それを政府が計画していたとなると、国民は不安をかき立てられ過剰反応した。

「……パンドラの本当の目的はなんだったのかね?」

 元幹部が顔を上げる。

「経緯からお話します。当初はただのゲームタイトルの一つでした。ただ、少し人気がある程度だったんです。知っていますか? VRゲームは当たれば大儲けが出来ますが、ヒット程度では赤字です。開発してもほとんどギャンブルに近い状況でした」

 VRゲームの開発には金がかかる。

 そして時間もかかる。

 更に維持にもお金がかかる。

 パンドラのように大当たりをすれば黙っていてもお金が入ってくるのだが、それ以外のタイトルは黒字にするのも難しい状況だった。

 スーツ姿の女性が小さく頷く。

「それと計画に何の関係が?」

 元幹部が話を続けた。

「パンドラには他のソフトにはない要素がありました。それに目をつけたのが政府です。資金提供を約束され、計画に参加するなら色々と保証もすると言われました。総理大臣が『自分が全ての罪をかぶる』からと言って」

 今では今世紀最大の悪党と言われている総理が推し進めていた計画。

 元大臣がアゴをさする。

 パンドラには元から何かがあり、それに政府が目をつけたようだ。

「運営はその計画に参加したと?」

「正確には、参加するしかなかった、です。人気はありましたが、赤字続きでパンドラはサービスを終了するはずだったんです」

 元幹部が言うには――。

「当初、政府でもソフトを作成したらしいんですが……その……ヒットすらしませんでした」

 政府もパンドラを参考にゲーム開発を行ったが失敗。

 単純に人気が出なかったのだ。

 そこで、コピー元のゲームであるパンドラに声をかけた。

「VRゲームは当初、想像していたのと違うと人気が出ませんでした。プレイヤーが想像していたのは別の世界がそこにある事だった。ヴァーチャルにリアルを求めたわけです。開発側から言わせて貰えれば、十年後、二十年後に期待するレベルを求められても困ります」

 どうしてパンドラが政府に選ばれたのか?

 それは人気が出ず人が集まらなかった事と――VRゲームが下火傾向になりつつあったためだ。

「一部のマニア向けになりそうだったので、政府はてこ入れをすると言っていました。おかげで開発費も沢山出て、維持費も負担が少なくて」

 パンドラだけが異様に発展した経緯である。

 元大臣が腕を組む。

「経緯は分かった。それで……パンドラを使った計画とは?」

 元幹部が口を開く。

「大きな目的の前に段階があります。最初は一部プレイヤーへの干渉。次に一部プレイヤーとその周囲への影響。以前は一部プレイヤーと関係者のリアルへの干渉まで進みました。肉体的に変化が出ているのは確認しました」

 スーツを着崩した男は、小さく笑っていた。

「まるで小説みたいだな。で? 現実世界へ影響を及ぼした先には何が待っている? 洗脳よりも質が悪いという冗談は止めて欲しいね」

 元幹部は俯く。

「次の段階は、一般プレイヤーと社会への干渉。今回の大型アップデート後に実行されると思います。いや、一部で既に始まっていると思います」

 元幹部の話に、元大臣は天井を見上げるのだった。

「総理、面倒な仕事を押しつけていきましたね」





 休日の公園。

 数人の中学生たちが一人の少女? を取り囲んで褒めていた。

 サラサラの黒髪。

 グルグルこと、冴木星はクラスメイトに連れ出され街に来ていた。だが、そこで待っていたのは――。

「や、止めろよ。俺は男だぞ」

 スカート姿の星は、クラスメイトたちに抵抗している。

 だが、周囲の雰囲気はおかしかった。

「最近遊ばなくなったから罰ゲームだよ」

「今日はずっとその恰好な」

「みんなでお金を出し合ったんだ。絶対に今日は脱ぐなよ」

 鼻息荒い中学生の男子たち。

 星はとても恥ずかしく顔が赤かった。

 だが、その恰好はとても似合っている。

「な、なぁ……手を握ってくれよ」

「は……はぁぁぁ!? お前、馬鹿じゃねーの!」

 星が強く否定すると、周囲の顔つきが変わる。

「なんだよ。お前、パーティーも組まないじゃないか。他の連中と遊んで……もう友達じゃないのかよ!」

「少し大きなギルドに入っているからって調子に乗るなよ」

「手だけじゃないか。なんで駄目なんだよ!」

 周囲の雰囲気に星は後ろに下がる。

「な、なんだよ。俺が悪いのかよ! こんなの変態だぞ!」

 男子中学生たちの手が伸びる。

 そこに、シエラ――雪音がスマホを持って通報をしていた。

 スマホの通報ボタンを押すだけで、周囲にいた警察の管理しているドローンが集まってきて中学生たちを囲む。

『そこの君たち、そのまま待機しなさい』

 ドローンから警察官の声が聞こえると、男子たちは大慌てで逃げ出していく。

 星はその場に座り込んだ。

「冴木君!」

 雪音が駆け寄ると、星は涙を流す。

「なんだよ。あいつらおかしいよ」

「大丈夫だからね。変な事されなかった?」

 女装の時点で十分に変だが、星は頷く。

「あいつら、最近急に絡んでくるようになったんだ。前は友達だったのに怖いって言うか……」

 雪音は駆けつけた警察官に事情を話す。

 派出所で事情を詳しく聞かれ、解放されたのだが星は洋服を友人のバックに入れられておりスカート姿のままだった。

 注意はすると言われたが、星が俯く。

「俺……休み明けにどういう顔で登校したらいいのか分からない」

 本人にしてみれば深刻な問題である。

 雪音は少し考え、近くにあの店があると思い出した。

「そうだ。冴木君、こっち――」

 二人が向かったのは、小型スーパー【マイルド】。

 明人がアルバイトをしている店だった。
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