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分別の都

 分別の都。


 そこは蒸気機関が発展したヒューマンの都だった。


 NPCたちはスーツやドレスに身を包み、どこか時代を感じさせる雰囲気の都だった。


 街灯が建ち並び、街の至る所で蒸気が空に上って行く。


 工場ではこれまでに作り出せなかったアイテムを、機械の力で生み出していた。


 ポン助たちが分別の都に入ると、早速目の前には空中に投影された画面が出現する。


 ようこそと書かれ、今までのレベルや友好度上限を解除。


 そして、新しい職業やスキルを手に入れる事が出来るようになった。


 そんな分別の都に入ると、アルフィーが叫ぶ。


「すぐに銃を扱う職業を手に入れますよ! ポン助、マリエラ! さぁ、私に協力しなさい!」


 分別の都の広場。


 そこで踊るように回転し、ポーズを決めるアルフィーに周りの反応は冷たかった。


 ブレイズは仲間たちと前から調べていた店に向かうらしい。


「ポン助君、ここからは別行動だね」


 ポン助はブレイズに手を振る。


「何かあれば連絡しますね」


 同じギルドメンバーであるが、ギルドの建物もなければ強制的なノルマもない。


 ライターたち職人集団にとっては、分別の都は大事な都だ。


「なら、私たちもこれで。すぐに職業の獲得とスキルの熟練度を上げないとね」


 仲間たちと楽しそうに神殿へと向かうライターたち職人。


 レンガ造りと無駄に凝った鉄パイプや配管から、蒸気が噴き出す都。


 皆が思い思いの行動を取っていた。


 そろりなど、ポン助の近くに手紙を落としていつの間にか消えていた。


『探さないでください。でも、呼んだら来ます』


 ナナコ、シエラ、グルグルは、分別の都を見て回るために観光重視だった。何気に、三人でよく遊んでいる。


「ポン助さん、私たちも行きますね」

「私、新しい杖が欲しいですね」

「俺は短剣が欲しいな。もっと男らしい装備が手に入るといいんだけど」


 人の波に消えていく三人。



 そして、オークたちは。


「そこのお嬢さん」

「近寄らないでくださる、豚臭いわね」


 ドレスを着た高貴そうなNPCに蔑んだ目で見られ、喜びに体を震わせていた。


 必死にメモを取り、どんなNPCがどういった反応を示したのかを書き記している。


 八人で楽しそうに次々に声をかけて回り、そのまま離れて行く。


 もう、新しい都に夢中だった。


 その場に残ったアルフィーは、ポーズを決めたままである。


 マリエラは肩をすくめ、ポン助に話しかけた。


「元からまとまりもない、恩恵目当てのギルドだからね。まぁ、こうなるのは分かっていたけど、どうする?」


 流石にアルフィーが可哀想になったポン助は、アルフィーの期待に応える事にした。


「アルフィーのハイヒューマンになるイベントの手伝いかな。情報屋の人とはまた今度会う約束をしているし、時間もあるから。僕もどんな職業やスキルを得るか考えないと」


 アルフィーは泣きそうになりながら、ポン助に飛びついた。


「信じていましたよ、ポン助!」


 ポン助は冷静である。


「いや、僕まで見捨てたら笑えないし」


 マリエラは自分の時も手伝って貰ったので、特に不満はなさそうだった。


「私も何か考えておかないと。エルフは銃器を持てないのよね」


 分別の都のレベル上限は百。


 ここまで来ると、既に極めた職業が出て来てもおかしくない。そのため、新たな職業が一気に増える都でもある。


 それはつまり、プレイヤーたちにとって大きな悩みを与えている都でもあった。


 三人が歩く。


 ポン助の横にはマリエラとアルフィーが並び、両手に花の状態だ。


「それよりどこかお店に入って朝食にする?」


「もちろんですよ!」


「あんたはいつも元気よね」


 ポン助たちのプレイスタイルは、攻略は目指しても自分たちのペースを守るものだった。ただ攻略重視という訳ではなく、自分たちも楽しみつつプレイするスタイル。


 無駄なことも多いが、レベル上げだけに明け暮れるよりも自分たちにはあっているとポン助は思うのだった。


(まぁ、分別の都までは来たし、次は慈愛で、その次が勤勉か。あと何ヶ月くらいで慈愛の都に行けるかな)


 分別の都から先へと進むためには、分別の世界にいる四体の機人を倒す必要があった。


 これは準備が整えば、ギルドで討伐するつもりである。


 アルフィーは楽しそうに周囲の店を見ながら歩いている。


「お洒落な店が多いですね。なんというか、ワクワクしてきます」


 対して、マリエラは嫌そうだった。


「なんかジメジメしているから嫌。やたら蒸気が噴き出しているとか意味が分からない」


 二人が趣味の違いで言い合いを始めるが、ポン助が二人の間に立っているので殴り合いの喧嘩にはならない。


「それより、早く何か食べようよ」


 ポン助が二人を急かしつつ、喧嘩を仲裁すると三人で決めた店に入るのだった。


◇


 学園での放課後。


 明人はクラス委員長でもある摩耶と仕事をしていた。


 以前から交流はあったが、文化祭以降は摩耶が明人に頼ることが増えていた。


 クラス委員の仕事を終え、摩耶は背伸びをする。


「これで終わり。いつも悪いわね」


 明人は溜息を吐く。


「まぁ、別に良いけどね。今日は予定もないし」


 摩耶は明人を羨ましそうに見ていた。


「いいわね。私はこれから塾よ。鳴瀬君は塾や習い事はしないの?」


 明人は荷物をバッグに詰め込みながら、摩耶の問いに答えた。


「アルバイトをしているし、暇なときはフィットネスクラブで体を鍛えているから。これ以上は余裕がないかな」


 生活費を考えると、これ以上の出費は明人も困ってしまう。


「そう。嫌味に聞こえたらごめんね」


「いいよ。委員長も大変そうだからね」


 自分と違いエリートである摩耶は、既に敷かれたレールの上を走っているようなものだった。優秀であるなら、それだけの貢献を求められるのが今の社会である。


 教室内は暗くなりつつあった。


 オレンジ色に染まった教室で、摩耶は俯いて考え込んでいる。


(最近、多いな)


 何か考えているような雰囲気を出しており、授業中でもなんどか摩耶らしくない失敗をしていた。


「どうしたの? まさか、人生に疲れたとか?」


 冗談のような台詞だが、実際にエリートとして期待されている子供には多かった。親も最高の環境を、と意気込み期待をかけすぎるケースが増えている。


 それに、本人が進みたくない道を無理やり進ませるケースも多く、人生に疲れる若い世代は多い。


 摩耶は顔を上げて首を横に振る。


「違うわよ。本当に違うからね。先生とかに言わないでよ。家に連絡も来て、家族も心配するから」


 摩耶は少し考え、そして勇気を振り絞って明人に聞くのだ。


「あのね!」


「うん」


「鳴瀬君は、オフ会とかした事があるかしら?」


 オフ会。


 ネット上や仮想世界での知り合いと、現実世界で出会う事だ。


 明人は唖然とする。


(委員長、もしかしてゲームを? いや、ネットとかそういった方面でエリートの友達がいるとか? 趣味仲間かな?)


 しかし、残念なことに明人はオフ会をしたことがない。


「な、ないけど、大丈夫なの? 中には危ない人たちもいるって話だよ」


 摩耶は笑顔で首を振る。


「その人は絶対に大丈夫。自信があるの」


 明人は思った。


(根拠がないのにこの自信。凄いな)


 摩耶はいかに相手が素晴らしい人物かを語る。


「優しくて、頼りになって、いつも守ってくれるのよ。それでね、普段は頼りないところも多いのに、一生懸命なの。時々、予想もつかない事をして驚かせてくれるし、楽しませてくれるのよ」


 摩耶が本当に嬉しそうに話す姿を見て、明人は思った。


(これは惚れているのか? まぁ、なんというか……そんな完璧な奴がネットでコミュニケーションを取っているとは思えないな)


 しかし、摩耶の夢を壊す訳にもいかず、この場で。


『そういうの、ネット上だけの顔かもね』


 などと言えば、きっと摩耶が激怒すると思って言わなかった。


(それにしても、委員長の知り合いはそんなに凄い人なのか。流石はエリートだな)


 自分の周りにそんな奴はいないと思いつつ、明人は惚気る摩耶を止める。


「つまり、その人とオフ会をしたいと」


「そうなの! でも、なんというか……そういう事を言い出せない雰囲気なのよね」


 明人は腕を組む。


「二人だけの付き合い?」


 摩耶は少し嫌そうにしていた。


「違うわ。主に三人。場合によっては増えるけど、いつもは三人ね」


「三人か」


 明人は「それなら」と提案をする。


「流石に二人で会わないか、なんて言ったら相手も警戒するから三人でオフ会をしてみたらどう?」


 摩耶は「三人……でも、それなら」などと言って、本気で悩んでいた。


 一人とは会いたいが、もう一人とは会いたくもない様子だ。


「会うときはメールアドレスをオフ会用に持っておく方がいいよ。いきなり連絡先を教えるのも怖いでしょ」


 明人がアドバイスをすると、摩耶は首を傾げていた。


「え、別に?」


 明人は苦笑いしつつ、それもマナーだとか言って摩耶に取得するように勧めておいた。


「……大丈夫だと思うんだけど」


 明人は、それだけ信じ込んでいる摩耶が少しだけ心配になるのだった。






「……オフ会」


 アルバイト先【マイルド】。


 先日の話を摩耶の名前を出さずにした明人は、八雲の反応を見て少し驚く。


「どうしたんです、先輩?」


 店内に客はおらず、社員もバックヤードにいる。


 二人だけなので話をしていると、八雲は明人に真剣に聞いてくる。


「ねぇ、やっぱりオフ会とか参加したいと思う?」


 明人は困惑しつつも、自分の事に置き換えて考えてみた。


(いや、あの二人の中身は気にしないと思ったけど、確かに気になるな。でも、実際に会うとなると勇気が……)


 色々と考え、そして明人は頷く。


「あったら参加したいですかね。まぁ、相手が信用できると思わないと怖いですけど」


 八雲は嬉しそうにしていた。


「そ、そうよね! 参加したいわよね!」


 八雲がこれ程まで会いたいと思う相手も気になるが、明人は思った。


(周りの美人が、オフ会の相談をしてくるとか……しかも明らかに反応が男だよね。なんか微妙)


 摩耶にしても八雲にしても、ネット上の知り合いというのが明人には気になるのだった。


◇


 分別の都。


 喫茶店に入ったアルフィーは、マリエラと二人で向かい合っていた。


 今日、ポン助はナナコやシエラ、グルグルに頼まれて外でレベル上げを手伝っている。


 本来ならなんとしてでもポン助を手放さない二人だが、今回ばかりは都合も良かったのでポン助には三人と遊んで貰っていた。


 この二人……ポン助がいないと、実は喧嘩はしない。


 正確には、いつ頃からかこのような関係に落ち着いてしまった。


 アルフィーが姿勢正しくコーヒーを飲んでいる。


「それで? 話というのはなんですか?」


 普段は騒がしく、そしてわがままを言うアルフィーもポン助がいないのなら甘える相手などいない。


 マリエラに文句を言うつもりもなかった。


 マリエラにしても同じだ。


 別に関わろうと思っていないし、ポン助がいなければ喧嘩だってしない。


「……ポン助を誘ってオフ会をするわ。まぁ、あんたも誘っておこうと思ってね」


 一瞬だけ口に運んだカップが止まったアルフィーの動きを、マリエラは見逃さなかった。


 アルフィーは表情を変えず、そして一口コーヒーを飲む。


 味、香り。


 共にコーヒーそのもので、とても美味しかった。


 下手な店で飲むよりもここで飲む方がまだマシだと思える。


 アルフィーは笑顔をマリエラに向ける。


「そうですか。オフ会ですか。楽しみですね」


 マリエラも笑顔になる。


「えぇ、本当に楽しみよね」


 会話だけを聞けば、オフ会をするから君も来る? という、簡単なやり取りだった。しかし、その間に言い知れる何かを感じる周囲のプレイヤーたち。


 客として喫茶店にいたプレイヤーは、二人を見ながら声をかけるか悩んで……最後に諦めて店を出た。


 アルフィーはテーブルに肘を乗せ、手を組んだ上にあごを乗せた。


「それで、いつ頃を考えているのですか?」


 普段見せるアルフィーの笑顔とは違い、どこか試しているような笑顔だった。


 マリエラはジュースに手を伸ばし、そして背もたれに体を預けて少しだけ飲む。


 ストローを使い、興味なさそうな態度を取っている。


「ポン助にも聞いて会えそうな場所を確認するけど、今月中が良いかしらね」


 アルフィーは顔を上げ、そして手を合わせて可愛い笑顔を向けた。


「楽しみですね。でも、ポン助の都合次第ですよね」


「そうね」


 普段の争いもなければ、やり取りも違うその場の空気は酷く冷たかった。


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