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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第一章

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出発

 学園の教室。

 授業も終わり、ホームルームを前に明人は陸と話をしていた。

 話す内容はここ最近、全てパンドラに関しての事である。共通の話題が出来たせいか、以前よりも話す時間が増えていた。

 陸はタブレットを持ちながら、明人の話に耳を傾けている。

 タブレットの画面には動画の映像が流れており、明人がチラリと見た限りではゲーム内の攻略に関する動画だった。

「課金アイテムや装備? 別に良いと思うけど装備に関しては疑問かな。デザインの変更で感覚が狂う、って話も聞くからさ。アルフィーさんみたいに日頃から課金装備なら違ったんだろうが……うおっ、このプレイヤー凄いな」

 動画の中ではプレイヤーが人間離れした動きを披露し、それを見て陸は感心した様子で頷いていた。

「回復アイテムとか沢山買うべきか迷っているんだよね。ゲーム中で手に入る奴もあるけど、課金した方が確実に早いし。武器の強化素材とか資金集めも課金で良いかな、って」

 初のボス戦に挑むとあって、明人も念入りに準備をしようと考えていた。

 だが、陸はあまりお勧めしない。

「あんまり張り切りすぎても続かないぞ。こういうのは月にいくらまでつぎ込む、って決めていた方がいい。無理すると金銭的に続かなくなるし、課金をしすぎるとゲーム内で工夫をしなくなるからな」

 ゲームを楽しむことを考えれば、全て課金で解決するやり方はやめた方がいいと言う陸に対して明人は不満そうだった。

「そういうの、月に数万もつぎ込んでいる人が言っても説得力の欠片もないんだよね」

 アルバイトをしているとは言え、学生が月に月額のプレイ料金以外で更に二万から三万をつぎ込んでいるのだ。

 課金は駄目だと言っても説得力に乏しい。

「馬鹿。課金している人は月に五万とか十万だぞ。月に二万まではセーフだ」

 何を基準にセーフやアウトかを判断しているのか?

 そう思った明人だが、確かに課金で解決してもつまらないという結論に至った。

(そもそも日頃からそんなに課金できないし、それなら千円くらいで回復アイテムでも揃えておこうかな)

 陸はタブレットの画面を消し、そして鞄にしまい込む。

「まぁ、楽しんで来いよ。ボス戦とか楽しいぞ。それとなくBGMとかかかっているし、雰囲気もあって普段の戦闘と全く違うから。前回の大型アップデートからかなり進化しているから、古参プレイヤーも納得の出来だ。楽しいのは保証する」

 世界を攻略する度に大型アップデートが入り、その度に進化してきたパンドラの箱庭というゲーム。

 明人は今進めている怠惰の世界が攻略されれば、また大型アップデートがあるのだと思うと少し期待している自分がいる事に気がついた。

(今でも十分に満足しているんだけどなぁ……)

 すると、教師が教室へ入ってくる前に委員長である摩耶が明人に近付く。

 机に突っ伏していた明人が顔を上げた。

「あれ、委員長」

「ごめん、鳴瀬君は放課後に残ってくれない? ちょっとお願いしたいことがあるの。すぐに終わるから、アルバイトに影響はないわ」

 明人は頷く。

「別に良いよ」

「そう、ありがとう」

 摩耶が自分の席へと向かう。

 茶色のハーフアップされた長い髪が歩いているために揺れていた。

 そんな後ろ姿を見た明人と陸の二人。

「なんか、最近は委員長とよく話していない? もしかして付き合っているの?」

 からかうような陸に、明人は溜息を吐いた。

「それならすぐに自慢する。実際はただの手伝い」

 流石に恋の悩みの相談、などと言えない明人は雑務を押しつけるのに自分が丁度いいのだろうと陸に説明するのだった。



 アルバイト先【マイルド】。

 二十一時を過ぎ、引き継ぎの相手である大学生の二人組を待つ明人と八雲は客もいないとあってレジの近くで話をしていた。

 出入り口の近くにレジがあり、客が来ればすぐに分かる。

 少し気が抜けているのは、本来なら二十一時を過ぎた十五分が引き継ぎの時間だからだ。

 片付けや引き継ぎの準備が出来ており、客もいなければ余裕もある。

 加えて、バックヤードにいる社員は気の良い四十代の女性社員だった。

 八雲は外の様子を見て小さく溜息を吐いた。

「降ってきたわね」

 外では雨が降りはじめ、明人もそれを見て肩を落とした。

「まいったな。今日は傘を持ってきてないや」

 チラリとレジの近くで売られているビニール傘に目を向けるが、置いてあるものはどれも五百円前後の商品だった。

(う~ん、五百円はちょっと)

 少し濡れるのを我慢すればいいと思い、明人は濡れた後の制服は明日にでも洗濯すれば問題ないと考えていた。

 明日は祝日で休みだ。

 アルバイトもなければこれといった予定もない。

 唯一あるとすれば、明日は仮想世界で初めてのボス戦が待っているという事だろう。

 エリアボスやフィールドボスなどではなく、本当の意味でのボス戦。

 だが、意外な申し出を八雲がしてくる。

「駅まででいいなら私が傘を持っているから送ってあげようか」

「え?」

 八雲の申し出に驚きつつも、明人は髪をかいた。

「いいんですか? 先輩、帰り道は駅の方じゃないですよね?」

 八雲は緑色のエプロンのポケットに手を入れ、そして笑っていた。

「それくらい別に良いわよ。風邪を引いてバイトを休まれたら私が困るし」

 明人は苦笑いをする。

(あはは、そういう事ね。まぁ、確かに一人だと大変だかな)

 一人休めば社員が時折手伝ってくれるのだが、雑務のほとんどを一人でしなければいけなくなる。

 小さいとは言っても結構な広さがあり、一人で全てを管理するのは大変だった。

「じゃあ、お願いします」

「素直で宜しい。それにしても遅いわね、あの二人」

 時間は既に二十一時十分。

 大学生二人組は、まだ店に入ってこなかった。



 時間は四時五分前。

 身支度を終えて戸締まりや火の元を確認した明人は、ベッドに座ると蛍光灯の電気を消して部屋を暗くする。

 カーテンの隙間からはアパート近くにある街灯の光が差し込み、そとがまだ暗いことを知らせていた。

「さて、風呂もトイレも済ませたし、後はいつも通りだな」

 ヘッドセットを装着し、横になる。

「……ヘッドセット用の枕も買わないとな」

 タオルケットを丸め、中央を凹ませた自作の枕を見ながらそう呟いた。

「さて、今日はどうなるかな」



 八雲の部屋の前。

「先輩、今日もパンドラですか? もう楽しみまくりですね」

 同じようにパンドラのプレイヤーである後輩と出くわし、お互いにこれからゲーム世界へと向かう準備が出来ていた。

「そうね。思っていた以上に楽しいわ。今日はボス戦だから気合入れないとね」

 後輩はそんな八雲を見て笑っていた。

「楽しんで貰えているなら、誘った私も嬉しいですよ。それじゃ、そろそろ行きますね」

 後輩が自分の部屋に戻っていくと、八雲も自室に入った。

 すぐにベッドの上に座るとVRマシンを起動して準備に入る。

 ヘッドセットをしているとき、その瞳は輝いていた。

「ポン助も意気込んでいたし、私も頑張らないと」



 摩耶の部屋。

 摩耶は全ての準備を終えると、ヘッドセットをして既に横になっていた。

「……はぁ、時間が遅いなぁ」

 自由な世界。

 楽しい世界。

 それを前に待つ時間というのはとても長く感じられる。

「今日はポン助の大事な日だから、しっかり準備もしてきたから大丈夫かな?」

 レベルが三十を超え、購入可能となった課金アイテムや装備の数々。それらを装備したアルフィーは、相当な強さを持っていた。

 もっとも、ステータス的な意味での強さだ。

「やっぱり武道も習うべきだったかな? 護身術程度だと心許ないし……今からだと趣味でやる程度だけど、やらないよりは」

 そう考えていると、意識が次第に仮想世界へと移行していく。



 希望の都の出入り口。

 巨大な門の近くでは荷馬車が用意されていた。

 荷馬車と言っても馬が引いているタイプではなく、馬の代わりであるモンスターが繋がれている。

 木製の荷馬車は側面に向かい合うように長椅子が用意されていた。

 見た目小さいが、仮想世界なので入ってみると意外と広く感じられる。

 巨体のオークが五人入っても大丈夫だった。

 マリエラが荷馬車を見て目を輝かせていた。

「へぇ、こういう乗り物も使えるんだ」

 オークパーティーのリーダーであるプライが、そんな楽しそうなマリエラに笑顔で説明する。

「場所が遠いからね。徒歩移動だとそれだけで時間を無駄にするから、こいつで移動して時間を短縮するんだよ」

 アルフィーが新しい赤いドレス姿で、荷馬車の中へと乗り込む。

「入ってみると意外に快適ですね。でも、凄く揺れそうな作りに見えますが?」

 木製で衝撃を和らげるようなものが何もつけられていない。

 ポン助もそれが心配だった。

「ゲームで乗り物酔いは勘弁して欲しいかな」

 ツンデレオークのデュームが腕を組み、ポン助を睨む。

「そんな心配は不要だ。数十分で到着するからな。それに、揺れると言っても雰囲気を出す程度だから心配ない」

 ポン助が頷く。

(デュームさん、態度は冷たそうなのに結構優しいな)

 他のオークたちも優しく、外見に似合わず皆が紳士であるプレイヤーだ。

 ただし、趣味に関してはまったく引く気がないオークたちである。

 全員が荷馬車に乗り、目的地に向けて出発するとプライが切り出した。

「ところで、ポン助君たちはよく三人で行動しているようだね? リアルでの知り合いなのかな?」

 ポン助は手を振った。

「いえ、ゲーム初日にお互い知り合いまして、そのままの付き合いで今日まで一緒にプレイしています。リアルは互いに知りませんね」

 真面目そうなオーク、ギドが笑顔で頷いていた。

「この世界だとオークが両手に花、って感じで羨ましいけどね。しかし、仮想世界なのにやっぱり美人は得をするという話があるらしいよ」

 最後の一人、デイダダが腕を組んで首を傾げた。

「そうなのか? いや、確かに目の前に美人がいたらリアルなんてどうでも良くなるな。ポン助が羨ましく見えるぜ」

 笑うオーク集団。

 ポン助も笑っていると、マリエラから軽く肘で突かれる。

「両手に花だって。ポン助は嬉しい?」

 悪戯っ子のように聞いてくるマリエラ。アルフィーも聞き耳を立てている。ポン助は笑顔で首を横に振った。

「全然」

 次の瞬間、両隣から思い肘撃ちを脇腹に受けてポン助は悶絶した。

「な、なぜ……」

 苦しむポン助が、対面に座っているオークたちに助けを求めようとすると彼らの顔が憎しみで歪んでいた。

「見せつけてんじゃねーよ」
「くそっ! なんて羨ましい」
「シチュエーションも最高じゃないか!」
「お前だけは絶対に許さない」

 殴られた事を羨ましがっており、ポン助に冷たい態度を取るオークたち。

「あんたら、趣味に偏りすぎだろ」

 ポン助が脇を手で押さえながら、黙って座っている傭兵NPCたちを見た。

 あまり数を増やしてはボスの強さが増してしまうことを危惧し、攻略情報からやはり連れて行くなら二人が良いと魔法使いと僧侶の二人を連れてきた。

 どちらも女性NPCなのは、前に試した傭兵NPCが貸し出されていたためだ。

 ギドが溜息を吐く。

「はぁ……誰か踏んでくれないかな」

 チラチラとマリエラやアルフィーを見るギドに、二人が冷めた視線を向けると小さく身震いしていた。

「その目……最高です!」

 アルフィーが頭を押さえ、小さく首を横に振る。

「これさえなければいい人たちなんですけどね」

 プライがギドの胸倉を掴み上げていた。

「貴様! 自分一人だけ蔑んだ目で見られるとか……それでも仲間か!」

「へへっ、早い者勝ちだよ。このままだと、踏んで貰うのも俺が一番だ」

 デュームが立ち上がる。

「ふざけるな! 踏んで貰うのは俺が先だ!」

 そうした中で、デイダダだけがマリエラの前に跪く。

「何も聞かないでくれ。今はただ、踏んでくれるだけで……」

 マリエラが冷めた目で見下していると、デイダダが荷馬車の中で悶えるように転がる。

「あぁ! その目が良い! 最高だ!」

 目的地までの荷馬車の中は、そうした混沌とした時間が流れていた。

(早く到着しないかな)

 ポン助は窓の外を見て荷馬車の中を出来るだけ見ないようにして時間を潰す。



 森の入口。

 そこには鉄兜をかぶり、大きな盾と槍を持ったオーク二体が立っていた。

 荷馬車が来ると槍を交差させて森への入口を閉ざす。

「なんの目的でここに来た?」

 通常であれば問答無用で攻撃してくるオークが、荷馬車に声をかけてくる。

 ポン助は早速降りて、二体のオークの前に出た。

 すると、門番であるオーク二体が目を細めポン助を見る。

「他の里の戦士か。【アグの里】に何の用だ」

 ポン助は前もって情報屋から聞いていた言葉を口にする。

「試練を受けに来た。アグの長老と話をしたい」

 二体はお互いに顔を向き合わせ、頷くと槍を持ち上げて道を開ける。

「歓迎するぞ、他里の戦士よ。試練に挑む強者に我らの神が微笑む事を祈る」

 ポン助は振り返って頷くと、そのまま荷馬車を先導するように森の中へと入っていく。

 一本道を真っ直ぐに進むと、しばらくしてオークの集落が見えてきた。

 木々や草木の生い茂る森の中、オークたちは木々を切り倒し開いた場所に木製の建物やテントを張って生活していた。

 荷馬車が集落の入口で止まると、全員が降りてくる。

 周囲を見れば、女性オークの姿も見られた。

「なんというか、女性も逞しいですね」

 胸が大きくオスよりも顔が小さい。中には美形もいるが、全員背が高く逞しい体を持っていた。

 プライも周囲を見て頷く。

「あの腕で殴られたら良い感じに気を失いそうだな」

 どこを見ているんだ、こいつ。

 などと思いつつもポン助は皆を連れて集落で一番大きな建物を目指した。

 そこには年老いたオークの長老が椅子に座っており、手には木製の杖を持っていた。

 マリエラが口笛を吹く。

「なんか雰囲気あるわね」

 長老の横にはモヒカンスタイルのオークNPCが立っており、ポン助たちを睨み付けていた。

 ポン助が長老に話しかける。

「アグの里の長老よ、試練を受けに来た。許可を頂きたい」

 すると、横に立っていたモヒカンオークがポン助たちの前に出てくる。全員に視線を向けると、その後に頷いた。

「長老、全員に資格があります。人間やエルフもいますが、問題ないでしょう」

 すると、長老が口を開く。モヒカンオークは元の場所に歩いて戻っていた。

「外から来た戦士たちよ。オークの試練を受けるという事は、命懸けという意味だ。それを理解しているな?」

 ポン助は頷いて肯定を示すと、長老オークが杖を振り上げて床に叩き付ける。

「その意気や良し! すぐに試練へと向かって貰おう。この森の奥にはオーガたちも住んでいる。中でも凶悪でオークを食い殺すレッドオーガを打ち破って角を手に入れるのだ」

 オーガ――鬼の外見をしている角を持つ人型のモンスターで、気性が荒くとても攻撃的というモンスターだ。

 そのモンスターを打ち破れば、試練を果たしたことになる。

「奴を見事打ち倒した暁には、試練を果たした証として【力の証】を授けよう」

 ポン助は頷くと、クエストの発生画面を見た。

 半透明の画面が宙に浮かび上がり、そしてオーガ討伐が始まろうとしていた。

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