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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第一章

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忍び寄る

 そこは湿地帯。

 空は曇っており、雰囲気は薄暗く不気味な鳥の鳴き声も聞こえてくる。

 雰囲気もあって寄りたがるプレイヤーの数が少く、モンスターの取り合いにならないというメリットがあるような場所だった。

 アルフィーが泥濘ぬかるんだ地面に足を取られる。

 泥が飛び、足が滑ったために体勢を崩して転んでいた。

「し、しまっ――」

 周囲には数体の骸骨が軽装の鎧を着て武器を持っており、骸骨をコボルトたちが支援していた。

 モンスターの数は多いが、多すぎて対処に困る場所である。

 転んで泥だらけになったアルフィーの前に飛び出すのは、オークであるポン助だ。

 銀色の髪を揺らし、アルフィーの前に出ると片手剣を横に乱暴に振り抜いて骸骨のモンスターを赤い光に替えた。

 コボルトたちからの矢を受け、体に矢が刺さるポン助。

「さっきからチクチクと――かかってこいやぁぁぁ!!」

 左腕を振るい、シールドバッシュでコボルトを吹き飛ばした。

 アルフィーが立ち上がり、礼を言う。

「あ、ありがとうございます」

 雄々しいポン助の背中を見ながら、アルフィーは頬が熱くなるのを感じた。

(わ、私は何を考えて!)

 頭を振り、戦闘に集中するために剣の柄を握りしめる。

 連れてきたNPCの僧侶が杖をかかげてアルフィーとポン助に回復魔法をかける。

「あぁ、大丈夫。だけど、ここまで作り込まなくてもいいよね。プレイヤーが寄りつかないわけだ」

 大きな足で地面を何度か踏むポン助は、盾を前に構えてアルフィーや他の仲間を守る位置取りに立っていた。

 すると、弓を構えたコボルトがポン助を狙ったところで――。

「遅いっ!」

 マリエラが矢を三つ同時に放ち、三本の矢がコボルトに突き刺さり倒れた。地面に倒れ、赤い粒子の光に変わる。

 アルフィーが近付いた骸骨のモンスターを斬り裂き、そして周囲を見た。

「まだ集まってきますね」

 ポン助が溜息を吐く。

「おかげで探し回る手間は省けるけど……流石にこれは」

 薄暗いフィールドで骸骨の戦士やコボルト。

 それに人や動物のゾンビ……。

 たまにゴースト系のモンスターも出てくるため、本当に不気味だった。

 マリエラが段々やる気をなくしてきている。

「もう帰ろう。これ、絶対夢に出てくるわ!」

 怖いのが苦手なのか、マリエラは泣きそうな声だった。

 ゲームだから大丈夫と思っていた三人だが、想像以上の怖さとすぐに集まってくるモンスターを前に撤退をするのだった。



 宿屋。

 食事をすることもなく、部屋に入ったポン助たち。

(あ~、想像以上にくるわ)

 ポン助はそう思いながら、部屋の中を見回した。

 アルフィーもマリエラも、最初はどうという事はないと言う雰囲気であのフィールドに行くのを承知したのだ。

 しかし、到着してみれば想像以上のリアルさに尻込みをしていた。

 戦ってみれば、出てくるのは見た目グロテスクなモンスターばかり。

 マリエラが膝を抱えベッドの上に座っている。

「……下手なお化け屋敷より怖かった」

 ある意味、作り込まれたパンドラの箱庭というゲームは、現実よりも時に優れている事がある。

 アトラクション――遊園地などがそうだ。

 現実ではとても再現できない物を、ゲーム内で再現できてしまう。

 ポン助が苦笑いをする。

「まぁ、怖かったよね」

 倒す事は出来るが、次々に集まってくる上に自分たちは確実に疲弊していくのだ。

 アルフィーも毛布を頭からかぶっていた。

(あ、ちょっと可愛い)

 そんなアルフィーが可愛く見えるポン助だが、口にはしない。

「流石に次も、というなら拒否させて貰います。なんというか体感温度も寒かったですし、なんというか嫌です」

 雰囲気に加え、感じる体温は肌寒いものだった。

 それもあってアルフィーは嫌がっている。

(暖房できる装備を持って行けば、とか言っても駄目なんだろうな。まぁ、僕も怖かったから好んでいこうとは思わないけど)

 気が付けばレベルが上昇し、ポン助はレベル二十五を超えていた。

 そこで思い出す。

「そうだ。なら、明日は二人の加護を貰いに行こうよ。今日はこのままゆっくり休んで、明日は神殿に行ったらそのまま遊んでもいいし」

 マリエラが顔を少し上げる。

「レベル上げは? オークの人たちが待っているのよね?」

 ポン助は額に手を当てる。

「うん。でも、まだ余裕はあるから準備をしながら、って事で。それに、あんまり根を詰めても続かないし」

 ここが体感ゲームと一般のゲームとの違いである。

 一般ゲームであれば効率を重視してプレイを続けられるが、体感ゲームでは効率を重視してプレイをするには根気だけではどうにもならない。

 画面を前に指先でボタンを押すのと、実際にモンスターを前にして武器を振るうのでは精神的な疲労が違う。

 アルフィーが呟く。

「ジャンクフードが食べたい……物凄く体に悪そうな奴」

 ポン助は思った。

(え? 今の会話の流れで!? 急に何を言い出すんだ、この課金プレイヤー)

 マリエラもなんだかお腹が空いたのか、天井を見ながら言うのだ。

「私はピザと炭酸飲料がいいな」

 ポン助は思い至った。

(そ、そうか。これはつまり「お前が買ってこい!」って奴か! た、確かに僕があのフィールドに誘ったけど……つまり、二人はかなり怒っているんだな)

 そんな事を考えたポン助は、立ち上がって二人が所望したジャンクフードを買うために外に出ようとした。

 だが。

「……何をしているの?」

 ポン助の両足にしがみつく、アルフィーとマリエラ。

「それはこっちの台詞です。どこに行くんですか?」

「ちょっと勘弁してよ。いきなり出て行くとか怖いじゃない!」

 ポン助は両足にしがみつかれ、身動きが取れずに慌てながら説明をする。

「いや、だから外に買い物をね。ほら、二人が食べたいって言うから」

 本当に怖かったのか、二人がポン助の足にしがみつく。

「……どうしろって言うんだよ」

 ポン助は天井を見上げるのだった。



 結局、三人は部屋で過ごし朝になると外に出た。

 希望の都にあるどこかのチェーン店を模したようなハンバーガー屋で、朝から食事をしている。

 店内にはそれなりにプレイヤーがいて、楽しそうに食事をしていた。

 二人組の男性アバターが、食事をしながら会話をしている。

「やっぱり朝はこれだな」
「お前、なんでリアルでも毎日食ってるような奴を頼むんだよ」
「落ち着くんだよね。というか、これでないと変な感じがする」
「ゲームの中でくらい違う物を食えば良いだろうに」

 どうやら、二人はリアルでも面識があるような雰囲気だった。

 シンプルなハンバーガーには卵とハムに野菜が挟んであり、コーヒーと一緒に食べていた。

 コーヒーのカップから湯気が出ており、プレイヤーは息を吹きかけながら飲んでいる。

 対して、ポン助たちのテーブルは朝から豪勢だった。

(いきなりダブルとかトリプルのハンバーガーに、チーズやフィッシュにジュースもサイズがLLとか)

 昨日の夜に食べなかったためか、二人の食欲は旺盛だった。

 アルフィーが大きなハンバーガーにかぶりつき、口の周りをソースで汚している。

 マリエラは食べた物をジュースで流し込み、一息つくとまた食事を再開していた。

(男子高校生ですらもっとお淑やかに食うぞ)

 自分やルークの食べるときと比べ、ポン助は若干引きながら食事の風景を見ていた。

 マリエラがストローでジュースを飲みながらポン助を見てくる。

「あれ、食べないの?」

 ポン助は溜息を吐く。

「いや、もう食べたよ。それより昨日はなんで急にジャンクフードが食べたいなんて言い出したの?」

 アルフィーが指についたソースを舐め、そして口元を拭いてから答えた。

「いや~、昨日は怖くて外に出られなかったじゃないですか。だから、遊ぼうと言われた時に真っ先に浮んだのがこういうお店でして」

 マリエラもアルフィーの意見に何度も頷いていた。

「分かる! 普段我慢しているし、ここでくらい沢山食べたいよね!」

 アルフィーが首を横に振った。

「いえ、私は普段からこういうお店に来られないので。一度は来てみたいと」

 同意したマリエラがなんと言って良いのか分からない、ばつの悪そうな顔をしていた。

「そ、そうなの」

(アルフィーさん、本当にお金持ちなのかな?)

 怖くて外に出られなくなった時に、遊ぼうと言われ前から考えていたジャンクフードをお腹一杯食べるという目標を思い出したのだという。

 ポン助は二人が怒っていないならそれでいいと思い、二人が満足するまで食べている光景を見るのだった。

 それを見ていた二人の男性アバター……プレイヤーがヒソヒソと話をしている。

「なんか、普通は逆じゃないか?」
「オークの方が綺麗に食事をするのもなんだかな」
「女の子はやっぱりお淑やかな方が良いな」
「実はあのオーク……中身は女子じゃ!?」

 なんでそうなる! そう思いながら、ポン助はその場で溜息を吐きつつ二人を待つのだった。



 いわゆるゲーム内の観光エリア。

 そこに足を伸ばしたポン助たちは、ソフトクリームを購入して噴水のある広場のベンチに座って食べていた。

 周囲には美形のアバターが歩き回り、楽しそうに過ごしている。

 ポン助はソフトクリームを舐めながらプレイヤーたちを見てある事に気がついた。

「あれ? なんだか同じ顔立ちが目立つな」

 マリエラが長い足を組んで座っていたが、組み替えてポン助の方を見た。

「知らなかったの? 有名人とか元から作ってある美形アバターを少し手を加えている人たちが多いのよ。だからそっくりさんばかりなの」

 アルフィーも納得していた。

「あぁ、だから手が込んであると逆に目立つんですね。なんだか手が込みすぎて逆にそれでいいのかと思うようなアバターもいますけど」

 時折、作成に失敗したようなアバターもいる。

 だが、本人たちはこのエリアで楽しめればいいのであって、あまりアバターに拘りがあるようには見られなかった。

「……やっぱりオークっていないな」

 ポン助がそう言うと、アルフィーがソフトクリームのコーンの部分を食べてのみ込む。

「そうでしょうね。オークの美形というのは想像が出来ませんし」

 マリエラも食べ終えたのか立ち上がり、ポン助の手を引く。

「ほら、次に行くわよ。今日は遊んで楽しまないと!」

 やはり戦闘だけでは気が滅入るのか、二人とも楽しそうにしていた。

 ポン助的には戦闘がメインでも良かった。ここで遊ぶ事を考えてはいなかったのだが……。

(まぁ、二人が楽しいならそれで良いか)

 別に攻略をするつもりもない。

 先に進むにしても、急ぐ必要もなく自分のペースで良いと思うポン助だった。



 夕方。

 ゲーム内がオレンジ色に染まり、希望の都はまた違った景色を見せていた。

 三人は神殿に向かうと先に職業ポイントの配分をする事にした。

 左から並んでいる神官たちの中から、一番左である老人の下へ向かうポン助はそこで職業の獲得に頭を悩ませていた。

「生産職も良いけど、やっぱり今は手持ちを伸ばす方が……」

 腕を組んで考えているが、目の前の神官はオークだからと冷たい態度を取らない。

「ホホホッ、悩んでおりますな。戦士のレベルが規定値を満たしておる。騎士というのもお勧めですぞ」

 時折、ゲーム的なメッセージを口にしてくるだけだった。

「やっぱりここは格闘家かな? 気配察知とか色々と獲得できたし、便利なスキルも多いから」

 一番便利なのは盗賊の職業を得て、偵察などに特化したスキルなどを得る事だ。

 だが、ポン助はオークであるせいか適性が低い。

 戦闘系の前衛として戦う職業とは逆に相性が良い。

「騎士は流石にまだいいか」

 騎士という職業を取らなかったポン助。

 どことなく、NPCの神官が残念そうにしているように見えた。

 用件を済ませ、受付から出ると先に終わったのかアルフィーもマリエラも待っていた。

「あれ、二人とももう終わったの?」

 マリエラが肩をすくめる。

「加護って言っても簡単なカスタマイズでしょ。私は元々長所を伸ばす事にしていたからね。後は、盗賊の職業を得ました!」

 ピースをしてくるマリエラに拍手をするポン助。

「おぉ、今後は頼りになるね」

 マリエラが真顔になる。

「なに? 今まで頼りなかった、って言いたいの?」

 首を振るポン助に、わざとらしく咳払いをするアルフィーが自分の事を話し始めた。

「私はスピードとパワーを上げておきました。課金装備もありますから、これで今までよりも頼りになる前衛になりますね」

 マリエラが鼻で笑う。

「はっ、あんたよりポン助の方が頼りになるっての」

 アルフィーがマリエラを見て頬を引きつらせていた。

「ほう……不味い料理しか作れない人がよく言いますね」

「あ゛?」

 二人して睨み合っているところで、ポン助が溜息を吐いて二人を引き離す。

「はい、止め止め。ここで睨み合っていても意味なんかないですよ。それより外に出る時間もないですし、どこかに食べに行きましょうよ。それとも、外に出ます?」

 昨日、怖い目に遭ったばかりの二人が勢いよく首を横に振って否定を示した。

 ポン助は笑ってそんな二人を連れて食事に行くのだ。



 マリエラのポン助に対する友好度……【66】
 アルフィーのポン助に対する友好度…【68】
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