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傭兵NPC

 特殊クエスト。


 オーク種の強化イベント、またはクエスト。


 希望の都から出発し、ある森に住むオークの集落に訪れる。そこでオーク種がいなければ戦闘になるのだが、オーク種がいれば森に住み着いたオーガ討伐を依頼される。


 オーガ討伐はオークにとって偉大なる戦果であり、その報酬としてオーク種は森に住み着いたオークたちから力を授かるのだ。


 種族限定のクエストである。


 ただ、討伐するオーガというのが厄介な存在だった。


 通常モンスターとしてポップする事もあるオーガだが、希望の都のある世界では出てこない。


 登場するのは次の世界――節制の都のある世界だ。


 それに、ボスとして登場するために強化もされており、その辺のモンスターと戦うような力押しでは先ず勝てないのである。


 バフ、デバフ、回復手段。


 それらを揃えて挑まなければならなかった。


 そして――そんなオークの強化クエストの話を持っていき、なおかつ手助けしてくれるパーティーを運が良いのか悪いのか、ポン助は一組だけ知っていた。



 オークパーティー。


 ちょっと変わった集団であるが、パーティー四人全てがオークである。


 オーク強化クエストは彼らにもメリットがある。だから話を持ち込んで協力を求めた。


 連絡を取り、ゲーム内で彼らとの話し合いの日。


 そこは綺麗な店員NPCたちが、笑顔で接客する希望の都の表通りにあるレストランだった。


 普段使用している食堂とは雰囲気が違う。


 出される料理などは量よりも質を求め、値段は倍くらい違っていた。


 そんな場所でポン助たちは、オークの集団とテーブルを囲んでいる。


 一見して場違いである感じは否めない。


 オークパーティーのリーダーである【プライ】は、紅茶を飲みながらポン助を見る。


「つまり、我々の力を借りたいということだね? あ、店員さん紅茶のおかわりを――」


 プライが近付いたエルフの店員NPCに、紅茶のおかわりを求めると笑顔だったNPCが一変して眉間に皺を作り渋い表情になった。


「……ぺっ」


 普通なら「かしこまりました」などと明るい笑顔で対応するのに、オーク相手にはとても冷たい対応を行うように作られている。


 だが、いくら冷たい態度を取ろうが、紅茶のおかわりは持ってくるようだ。


 プライが小さく微笑み。


「ふっ、最高だろ? この店のNPCたちは一人一人対応が違うんだ。あぁ、あの子はオーク相手だと怖がる設定だから話しかけるときは気を付けてね」


 どうでもいい情報を教えてくれるプライに、ポン助は苦笑いをしていた。


「そ、そうなんですね。あの、それで協力に関しては?」


 プライは腕を組んで頷いた。革製のパツパツした装備がミチミチと音を立てていた。


「無論、私たちにもメリットがあるから協力させて欲しい……が!」


 アルフィーが普段とは違ってナイフとフォークで料理を食べていると、プライの反応に手が止まる。


「何か問題でも?」


 プライの横で渋々という表情で腕を組み俯いていたツンデレオークの【デューム】が、ポン助たちに問題点を告げる。


「大ありだ。まずは全体のレベル。俺たちは既に三十を超えている。君たちもせめて三十まではレベルを上げないと足手まといになる」


 クエストはパーティーやレイドの平均レベルにより、モンスターの強さをかえるものがあった。今回のクエストもレベルにより敵の強さが変わってしまう。


 真面目そうなオーク【ギド】が、嫌そうな顔をする店員NPCから水を貰いながら頷いていた。


「レベル差が大きければクエスト自体受けられないこともありますからね。まぁ、レベル三十になって貰えれば大丈夫でしょう。それと、次の問題は――」


 寡黙そうなオーク【デイダダ】が、その続きを口にした。


「……魔法使いと僧侶系の職業」


 意見をまとめようとするプライが、紅茶のおかわりを持ってきたNPCにお礼を言う。


「ありがとう」


「……消えろ、ゴミカスが」


「んふ、褒め言葉だ」


 ゴミカスと呼ばれ嬉しそうなプライは、咳払いをして続きを話すのだ。


「バフ、デバフ、それらが行える魔法使いが欲しい。僧侶系の回復役担当もね。そうしなければ勝てないだろう」


 オフラインゲームと違い、オンラインゲームはボスに力押しで勝てるなど滅多にない。勝つための準備が必要なのは、当然のことだった。


 ポン助は頷く。


「取りあえず敵の情報は貰っています。デバフはあまり効き目がないようなので、バフ系の魔法が使えるプレイヤーを勧誘するつもりでした」


 プライはアゴに手を当てて考え込んでいた。


「変則だが、私たち四人と君たち三人、そしてもう一つのパーティーは後衛専門で二人は揃えたい。魔法使いと僧侶だね。ただ、残念なことに私たちはその二職に知り合いがいない。他に知り合いのオークプレイヤーはいるが……みんな先に進んでいる上に時間帯が合わないんだ」


 ゲームをプレイする時間帯が合わなければ、どうする事も出来ない。


 レベル制限をかけての協力は、突発的なエリアボスの相手は出来ても通常ボスの相手は出来ない。


 マリエラが肩をすくめた。


「私たちも知り合い少ないのよね。あまり関わりたくない奴は多いけど」


 仲間を募集した際に来たとんでもないプレイヤーたちである。


 デュームが咳払いをする。


「どうしても駄目なときはNPCの傭兵を使うのも手だ。同じレベル帯のプレイヤーの八割程度の強さらしいが、それだけでも十分に役に立つ」


 プライが納得した。


「そうか、NPCの傭兵か。その手があったな。というか、デューム、お前詳しいな」


 デュームがポツポツと語り出す。


「い、いや、一人でプレイしていた時はよく利用していただけだ」


 それを聞いて、ポン助は思った。


(なんかいたたまれない気持ちになってきたんですけど!)


 オンラインゲームで沢山のプレイヤーがいるのに、日々NPCを雇ってゲームをプレイしていたデューム。


 マリエラもなんと言って良いのか分からない顔をしていた。


 アルフィーだけは、次々に料理を注文して黙々と食べている。


「すみません、おかわり」


 アルフィーに対応するNPCの店員は笑顔だった。


「少々お待ちください」



 NPCの傭兵が集まる酒場へと足を運ぶのは、ポン助たちと傭兵に詳しいデュームだった。


 希望の都にある少し入り組んだ先にある酒場が、傭兵たちのたまり場になっている。


 そこでNPCを雇い、冒険に連れて行くことが出来るようだ。


 デュームは傭兵について店内で説明をする。


「ここに座っている傭兵たち全てNPCだ」


 酒場では木製のテーブルを囲んで座り、酒を飲み、トランプのゲームをしている傭兵たちがいた。


 髭モジャのいかにもという男臭いNPCたちもいれば、鎧姿の女騎士にも見える女性冒険者まで色々と揃っていた。


 ポン助は周囲を見渡す。


「結構な数ですね」


 デュームは傭兵たちの一般的な使用方法について話をするのだ。


「どうしても人が集まらないときに使用する場合も多いが、中には俺たちのようにクエストでレイドを組む際にパーティーを一気に二つも三つも連れて行くプレイヤーたちも多い。それに、攻略組みが都市攻略に全部連れて行く場合もあるからな」


 百人を超えるNPCの傭兵たちは、数合わせとして扱われているらしい。


 マリエラが視線を巡らし、誰かを探している様子だった。


「それで、デュームさんの使っていたNPCたちってどんな子なんです?」


 可愛い系か、それとも渋くオッサンたちで固めていたのか。


 気にあるマリエラに、デュームは頬を指先でかきながら答えた。


「もう……いない。以前はずっと雇用していたNPCたちがいたんだが、他のプレイヤーに餌として使われたみたいでね」


 アルフィーが驚く。


「え? あの、消えてもここに戻ってくるのでは?」


 デュームが首を横に振った。


「消えたNPCたちは補充はされても、生き返ることはないんだ。雇うときに死亡させると追加料金の支払いを求められるだけなんだよ」


 その追加料金を支払っても良いから、囮に使うというプレイヤーが確かに存在するらしい。


 マリエラがからかおうとしたことが気まずいのか、デュームに謝罪していた。


「その、ごめんなさい」


 デュームは小さく、そして悲しそうに笑っていた。


「いや、いいさ。ここには時々足を運んでいるが、NPCたちの入れ替わりが激しいのがよく分かる」


 ポン助は思った。


(もしかしたら、同じようなNPCが出現しないか気にして待っているのかな?)


 デュームが首を横に振り、早速NPCたちを雇ってみようとポン助たちに言うのだ。


 実際にNPCたちに指示を出し、戦ってみるのは本番の前に練習になると言って。



 草原に出たポン助たちは、デュームが見ている中でパーティーに加えたNPCと一緒に戦っていた。


 連れてきたのは魔法使いで、眼鏡をかけた男性NPCである。


「油断大敵、ってね!」


 そう言って能力上昇系の魔法を味方にかけ、そして後方で安全を確保しつつ杖を構えていた。


 マリエラが矢を放つと、ゴブリンの頭部を貫いて光の粒子に変えた。


「威力が段違いね。これ、絶対にパーティーに欲しいわ」


 もう一人、僧侶系の男性NPCがデュームの傍に立っていた。


 何度か交代しながら戦闘を繰り返し、戦闘の仕方を学んでいるのだ。


 ポン助がシールドバッシュでゴブリンを殴り飛ばすと、アルフィーが前に出てコボルト二体を斬り裂いて戦闘が終わる。


 アルフィーが一度深呼吸をして、武器をしまった。


「僧侶がいるとダメージを受けてもすぐに回復して貰えて安心ですね。パーティーに絶対一人は欲しい、と言われるだけはあります」


 マリエラの方は魔法使いの方が気に入ったようだ。


「私は魔法使いが気に入ったわ。攻撃魔法だけが魔法使いじゃないのね」


 近づいて来たデュームが、その辺りの事情について話をする。


「同じ前衛でも持っている武器やスキルに職業で戦い方は変わってくる。ポン助ならカウンター狙いで基本は待ちの姿勢だが、俺なら大剣で攻勢をかける。魔法使いも僧侶もそれと一緒だな。高レベルになれば戦い方もだいぶ変わってくるらしいが」


 レベルが高くなってくると、職業レベルも複数がカンストしてしまう。


 そのため、一人で何役もこなせるようになってしまう。


 徹底的に前衛の職業やスキルを揃えるか、それとも手広くオールラウンダーで戦うのか。


 プレイヤーの選択次第でプレイスタイルはいくらでも見つかる。


 ただ、そうは言ってもゲーム内には流行廃りもあった。


 オールラウンダーがもてはやされた時期もあれば、専門分野を極めたプレイヤーがもてはやされた時もある。


 デュームは肩をすくめた。


「まぁ、結局は自分の拘りやパーティーとの連携、それらを考えて選ぶのが普通だな。どうせ攻略組みが都市攻略を終えてしまえばまた状況も変わるわけだし」


 現在の攻略組みは、慈愛の都を拠点に怠惰の都がある怠惰の世界を攻略中という話だった。


 それが終わってしまえば、大型アップデートが待っており、その時に新しい職業や今までの職業などが見直されれば状況は嫌でも変わる。


 ポン助は、攻略組みがその度にアバターを作り直していることを思い出す。


「攻略組みの人たちは大変ですよね。やっぱり、遊ぶなら自分たちのペースが一番かな」


 それを聞いてデュームが笑った。


 意外に刺々しい態度を取っていたが、話してみると普通に良い人だった。


「攻略組みは攻略組みで楽しんでいるだろうけどね。まぁ、自分たちのペースが一番だというのには賛成だ。俺たちも希望の都をまだ完全に制覇したとは言えないからね」


 それを聞いてマリエラが少し引きつった笑みになった。


「もしかして、NPCに蔑んだ目で見られるっていう奴?」


 デュームが勢いよく頷いた。


「周りの連中が変態過ぎてついていけないが、俺は俺で楽しんでいるよ。最近のお気に入りは、特定の飲食店で屈むと背中に座ってくるNPCがいる事に気がついたんだ。あ! 他のドM共には言わないでくれよ」


 アルフィーが先程までデュームに向けていた視線が、段々冷めていくのをポン助は見逃さなかった。


「いや、そんな事を言われても教える気にもなれませんよ」



 現実世界。


 アルバイトも終わって家に帰って来た明人は、PCのモニターを前にして動画などを見ていた。


 他には攻略情報を確認しながら、オーガとの戦闘風景を見ている。


 オーガはオークよりも体が大きく四メートルもの大きさだ。


 棍棒などの武器を持っている個体も多く、戦闘になると追いかけて来て武器を振り回してくる。


 誰かがネタで撮影したオーガから逃げる動画は迫力もあり、再生回数も多かった。


「……アイテムの数もこれまで以上に揃えないと駄目だな」


 クエストをクリアする事で貰える報酬は、オーク種を使うプレイヤーにとっては喉から手が出るほどに欲しいものだ。


 女神の加護を受けられないオーク種は、こうした強化クエストを地味にこなしていくしか強化できないだろう。


 明人は思い出す。


「そう言えば、そろそろ二人もパンドラの加護を受けに神殿に行くって言っていたな」


 オーガ討伐を前に、二人はパンドラの加護を貰うために神殿に行く準備を進めていた。


 この加護というものは、基本的にアバターの強化である。


 成長率を上げる、もしくは種族的な弱点を補う、長所を伸ばす、という事が可能になるのだ。


 その気になれば、器用さが特徴のノームを前衛の戦士とすることも可能だ。


 生産職に至っては、作成時の成功率なども上げることが可能らしい。


 もっとも、タダで加護は受けられない。


 これまで受けてきたクエストや、倒してきたモンスターの数によって受けられる加護が決められる。


 いきなり強力な加護が受けられる、という事はない。


「オークもそういった種族的な強化が出来ればいいのに」


 最初から前衛として恵まれているオークが、どうしてネタ扱いを受けているかと言えばこの加護が受けられないからだ。


 自分のキャラをカスタマイズする楽しさを、オークは捨てているとも言えた。


 それに外見も敵のようで、NPCたちの態度も悪い。


 一部のプレイヤーに大人気だが、それでもやはりネタ種族であった。


「でも、なんでこんな種族を作ったんだ? 今後に変更でも待っているのかな」


 オーク種の救済を期待しつつ、明人はオーガ対策の攻略情報に目を通すのだった。


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