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オーク

 都市攻略戦を一言で言い表すなら【ゾンビアタック】である。


 プレイヤーは死ぬのが当たり前。


 攻略に失敗したとしても、それは次回に活かせる情報を得たという意味だ。


 失敗した原因を追及し、更にはアバターから装備まで変更して再度挑む。


 色欲の都はプレイヤーたちに攻められ続けているわけである。


 テイト、プラチナの両名にしても、今回の都市攻略戦は失敗を想定していた。


 現状、成功する確率の方が少ないと思っていたのだ。


 攻略戦二日目。


 二人は朝日が顔を出すとテントから出て配置につくプレイヤーたちを見ていた。


 周囲に浮ぶ画面には、様々な情報が表示されている。


 テイトがソレを見つつ今までの経験から言い切った。


「……今回は駄目だな。最後に力押しが出来る程の戦力がない。壁を突破してもきっと内部で崩される」


 壁を破壊し、都市内部に攻め込む。


 その段階で自分たちが負けると冷静に判断していた。


 普通ならここで撤退するべきであるが、この世界は仮想世界。


 二人は情報収集を徹底する事に決めた。


「準備を整えて挑めるのは後二回くらい? それ以上は他のギルドが攻略してしまいそうね」


「二回もないさ。あと一回が限界だ」


 攻略組のプレイヤー、そしてギルドは大勢いるのだ。


 自分たちが挑める回数はあと一回だと経験でテイトが判断する。


 それだけに、初日に初参加のエンジョイ勢――ポン助たちがやらかしたのが苛立っていた。


「ルークの紹介だから参加させたけど、あいつら本当に頭がおかしいわよね。今度問題を起こしたら、次は不参加よ」


 プラチナの発言にテイトも同意していた。


 テイトが画面の一つを見る。


「どうやら問題児たちが配置についたな」


 ポン助たちが配置につくのを見て、プラチナが画面ではなく自分の目で現地を見た。ハイエルフというアバターとスキルなどの効果もあって、遠くもよく見える。


 だからこそ気が付いた。


「……あいつら、何をやっているの?」






 人間大砲。いや、オーク大砲とでも言うべきか。


 ポン助が大きな大砲から顔を出した状態で指示を出していた。


 その姿はハッキリ言って間抜けであるが、本人は真剣そのものである。


(ちょっと怖いな)


 大砲に収まり、これから砲弾のように撃ち出されることを思うと少し怖いのが本音である。


「全員、配置についたね!」


 周囲を見れば、同じように大砲に詰められたオークたちの姿があった。


 大砲から顔を出し、頬を赤く染めている。


「くっ、こうして扱われる自分にドキドキしてしまう」

「やってくれ! 早く火を付けるんだ!」

「このギルドに入って良かった!」


 オークたちの言動を聞き流し、周囲は準備に入っていた。


 ライターがノームの小さな体に不釣り合いな大きなレバーを前に、ニヤニヤしている。


「海賊クエストの時の恨みは忘れてないからね。火薬の量は割と痛いレベルで詰め込んでいる。まぁ、死なない程度さ」


 ポン助はライターに怒鳴りつけた。


「てめぇ、この野郎!」


 ライターはレバーを勢いよく引くと、十三もの大砲から次々にオークたちが発射されていく。


 体を真っ直ぐにしたほとんど裸のオークたちが撃ち出され、そして勢いが緩むと放物線を描くようにして壁を越え都市内部に侵入しようとしていた。


 オーク全員が装備を展開し、纏っていく。


 都市内部から迎撃に出て来たモンスターたちは、オークたちに攻撃を仕掛けた。


 ポン助は大盾を構え、そしてそれらの攻撃を受け止める。


「ぬおっ!」


 強力な淫魔のモンスターが放った一撃に、ポン助は壁まで吹き飛ばされた。


 背中を打ち付け落下するが、垂直の壁を転がるように受け身を取って地面に着地した。


 顔を上げると、周囲にはモンスターたちがポン助を見て一斉に反応を示す。


 手をかざす、武器を向ける。


 とにかく攻撃態勢に入っていた。


「敵のど真ん中とか――まぁ、覚悟はしていましたけど!」


 装備を解除したポン助は、オークが持つ特殊なスキル――狂化を使用するのだった。


 ポン助の体が軋む音を立て、そして太い手足は更に大きく。


 角が生え、顔の骨格が変わり、口が大きくなる。


 まるで狼のような頭部。


 モンスターたちが一斉に攻撃を放つが、巨大化したポン助は咆吼すると腕の一振りで周囲のモンスターたちを吹き飛ばした。


 一時的にステータスを引き上げ、強力になる狂化。


 だが、デメリットも当然だが存在している。


 その一つが、敵味方の識別がなくなることだ。


 おまけにコントロールができなくなる。暴れ回るアバターを完全に支配できない状態になるのだ。


(相変わらず操作が難しい!)


 思うように動かない体を、なんとか門の方へ向けようとしていた。


 周囲に気を配れば、都市内部に打ち込まれたオークたちが狂化して巨大化。モンスターや建物を次々に破壊していた。


 彼らは全て紫色の肌をしているのに、ポン助だけは赤い色をしている。


 十三体のオークたちが暴れ回っている都市内部。


 しかし、次々にわき出てくるモンスターたちを倒し尽くすことなど出来ない。


 強敵も存在しており、このまま時間を潰していればポン助たちが逆に狩り尽くされてしまうだろう。


(なんとか門を開けないと――って!)


 すると、都市内部で暴れ回っていた狂化オークが睨み合っていた。敵味方も分からない状態で、プレイヤーの操作をまともに受け付けない状態。


 つまり、自分以外は全て敵である。


 二体が咆哮を上げると、そのまま周りのモンスターを無視して戦い始めた。


(お前らなにやってんのぉぉぉ!)


 ポン助は一人心の中で叫ぶと、自分の体が急に動きを変えたことに気が付く。


 大きな両腕を地面に突き刺し、そこから無骨な大剣を二本引き抜いていた。


(お、おい、急にどうした? お前、何を――)


 移動を止めて大剣の二刀流を見せるアバターの周囲には、同じような姿のオークたちが三体。


 ポン助を囲んでいた。


 その中の一体はプライだった。


(プライさん! このままだと味方同士で潰しあいになります。なんとか互いに退きましょう!)


 ポン助がメッセージを送ると、プライからも返事が来た。


(……ポン助君、常々思っていた。いや、気が付かないようにしてきたつもりだった。だが、どうやら君はこちら側の人間ではないらしい)


 今そんな事を言っている場合ではない。


 そう思ったが、プライたちは真剣そのものだった。


(ギルドマスター。いや、ポン助! お前が真のドMかここでハッキリさせてやろう!)


(いつも一人だけ女王様たちを侍らせやがって! お前はそれでもドMか! 放置されて喜び、蹴られて跪き! 鞭を貰って感動する! そんなオークにどうしてならない!)


 三体が地面に腕を突き刺し、岩で出来たような武器を手に取った。


 まるで完全に制御下に置いているような動きだった。


 プライが叫ぶ。


(死ねぇい!)


(お前、実は僕のことを恨んでいるだけだろうが!)


 狂化オークたちが争おうとした瞬間だった。


 都市内部に優しい音が響き渡る。


(笛? いや、違う――オカリナか!)


 同士討ちを始めたオークたちの動きが止まると、パラシュートで降下してきたナナコがオカリナを吹いていた。


 狂化オークたちが嬉しそうに集まってナナコの着地を支援する。


(ナナコちゃんや! ナナコちゃんが来たぁぁぁ!)

(姫来たぁぁぁ!)


 大喜びのオークたち。そして、その中身であるプレイヤーたち。


 だが、落下してくるナナコを攻撃しようとモンスターたちが襲いかかっていた。


(ぶち殺すぞぉ!)


(何しやがる、この淫魔共!)


 そんなモンスターたちを攻撃するオークたち。


 だが、空の上に攻撃は届かない。


 ナナコのパラシュートに攻撃が当たり、破壊されナナコが落ちていく。


(ナナコちゃん!)


 ポン助は駆け出すと道を塞ぐモンスターたちを蹴散らしながら進み、そしてナナコを受け止めるために飛び出した。


 丁度、地面を背に。


 両手を広げお腹で受け止める体勢だ。


 そのまま落下して背中を強く打ち付けるも、ポン助はナナコを受け止めて守っていた。


「ポン助さん!」


(だ、大丈夫。少し痛かったけど)


 そんな姿を見て、プライが涙を流していた。


(ポン助君、君って奴は……まさか服従のポーズでナナコちゃんに踏まれに行くなんて……私が間違っていた。君は我々の仲間――いや、同志だ!)


 そんなどうでも良いことを無視して、ポン助は肩にナナコを乗せた。


 モンスターテイマーであるナナコは、オカリナを使って音でモンスターたちを操る。


 それは狂化したオークにも有効で、ナナコの下に十三体のオークが揃った。


「皆さん! 門を破壊してください!」


 ナナコが命令を出すと、オークたちが咆吼して次々に門へと向かう。


 途中、邪魔なモンスターたちは蹴散らして進む。


 門に辿り着くと、そこには門を破壊した後に出てくる強いモンスターが配置されていた。


 オークたちよりも大きな体。


 オークたちよりも高いステータス。


 引き連れたモンスターの数は一千を超えているのだが……。


(どけどけ! 姫様のお通りだぁぁぁ!)

(ヒャァァァ! 強そうな奴がいるぜ!)


 十三体も揃ったオークたちの前に、率いていたモンスターたちは蹴散らされていく。


 門を守っていた中ボスも、オークたちに囲まれボコボコにされ赤い光になって消えていった。


 ポン助が門をその両手に持った大剣で破壊すると、門が吹き飛んでいく。


 外にいたプレイヤーたちの顔が見えた。






 テイトとプラチナは口を開けて唖然としていた。


 何やら大砲でプレイヤーを撃ち出していたが、戦力の逐次投入など馬鹿のすることだと思っていたのだ。


 しかし、しばらくすると門が吹き飛んでしまった。


 内部に攻め込めるようになってしまった。


「う、嘘だろ。あいつら、仲間を躊躇いもなく壁の中に撃ち込みやがった!」


「有り得ない。何よ。なんであの程度の数で中から門を破壊出来るのよ」


 ポン助たちのやった事を試したプレイヤーは存在する。


 存在するが、撃ち出され内部に侵入出来たプレイヤーたちは中にいるモンスターたちに討ち取られるだけだった。


 つまり、使えない方法とされたのだ。


 攻略戦の中心人物である二人の下には、次々に指示を求めるメッセージが送られてくる。


『おい、どうなっているんだ!』

『攻め込む準備なんか整ってないぞ!』

『攻城兵器を捨てて攻め込んだ方が良いのか? なぁ、どうしたらいいんだよ!』


 急な事に周りも対応出来ていかなかった。


 そもそも、門を破壊出来ても五日目以降――その位を想定していた。


 二日目に破壊出来るなど異例中の異例だった。


 テイトが声を張り上げる。


「ぜ、全ギルドに通達。都市内部戦の準備をして、門前に集合! ルークには門の前でモンスターたちの相手をして貰え」


 頼りになるルークのギルドに、門の前を任せ自分たちはすぐに準備を整え都市内部での戦いに備えるのだった。


 プラチナが半笑いである。


「あいつら……本当に有り得ない」


 攻略組すら失敗した方法で、門を内部から破壊したポン助たち。


 大勢の前で偉業をなした瞬間だった。






「ちくしょうぉぉぉ!」


「お前ら、この野郎ぉぉぉ!」


 金の鞭と銀の鞭。


 ソレを振るうアルフィーとマリエラは、苛立って十二体のオークたちに八つ当たりをしていた。


 オークたちはお腹を見せて服従のポーズを取りながら、巨体で可愛らしい鳴き声を出していた。


 クゥ~ン、などと犬のように鳴いており、その様子を見ていたポン助は唖然とする。


(え、何あれ?)


 ポン助の肩に乗ったナナコが、困ったように笑いながら経緯を説明するのだった。


「じ、実は私以外にもテイマーの方たちで乗り込んだんです。けど、無事に降りられたのは私だけで、他の皆さんは途中で倒されたみたいで」


 ポン助たちのところにナナコしか来なかった理由は、それ以外が到着前に倒されたことにあった。


 アルフィーとマリエラは、ポン助の肩に乗れなくて暴れ回っているのだ。


(なんて迷惑なんだ)


「で、でも、オークの皆さんも喜んでいますし、ご褒美が欲しいと言っていたので止めるわけにも行かなくて」


 リアル中学生に見せてはいけない光景である。


 唖然としているポン助たちのところに、ルークがやってきた。


「ポン助、よくやったな!」


 ポン助はルークに顔を近づけた。


 ルークが笑っている。


「狂化したら、オークはマジでモンスターにしか見えないぞ。それにしても、オークは強いな。羨ましいぜ」


(まぁ、使い方次第じゃない?)


 今まで冷遇されてきたオーク種。


 しかし、都市攻略戦でその有用性を見せつけられたのは、ポン助としても嬉しかった。


 ルークは自慢の大剣を肩に担ぐ。


「まだしばらく全員が集まるまで時間がかかる。俺たちとお前たちでしばらくここを守る事になる。攻略組も驚いていたぜ」


 他のギルドは、都市内部に攻め込む準備で忙しく駆けつけられない状況だった。


 門の破壊が予定外……破壊するのが早すぎたのだ。


 そんなルークの下に一人の女性プレイヤーが近づいて来た。


「ルーク、貴方が来ないとまとまらないわよ」


 ポン助は彼女を見て少し不思議な感覚を覚えた。


「お、そうか。すぐに行くから待っていてくれ」


「早くしてね、ギルドマスターさん」


 女性プレイヤーが離れていくのを見て、ポン助はルークに話しかけた。


(あんな人いた?)


「前からいるぜ。少し不思議系? まぁ、なんていうか独特な雰囲気は持っているよな。頼りになる副官、って感じの人だ。強いんだぜ」


 自分の仲間を自慢してくるルークを見た後に、ポン助は自分の仲間たちを見た。


 そして顔を伏せる。


(……自慢したいけど、なんていうか今は出来ない)


 凄く優秀なプレイヤーの集まりなのに、素直に自慢出来ないポン助だった。


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