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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第六章

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都市攻略戦

 色欲の世界。

 そこに集まった数百のギルド――プレイヤーの数だけならば一万人を超えていた。

 記念参加をしているようなギルドもあれば、真剣に攻略を考えているギルドもある。

 その中、中途半端な立ち位置にいるのがギルド“ポン助と愉快な仲間たち”である。

 記念参加組と違い、質と量に優れ準備もしてきた。

 だが、攻略組のガチ勢程に優れているわけでもない。

 その中途半端な立ち位置にいるギルドが、ギルドマスターを集めた会議で吊し上げにあっていた。

 会議の中心ギルドは、数と質が揃っている二つのギルド。

 そのギルドマスターの二人が中心になっていた。

 本来なら攻略組はもっといるが、時間帯的にログインしていないギルドも多い。

 ギルド“ハンドレッド”のギルマス【テイト】が、ポン助を前に額に青筋を浮かべていた。

 赤髪の短髪で、ハイヒューマンの彼はギルドの運営を中心に行っており、プレイヤー的な強さは中堅クラスだ。

 しかし、組織運営に優れているギルドマスターだった。

「ポン助君、君のおかげで初日は予定よりも大幅に壁を削れたよ」

 褒めているが、けして喜んでいないことをポン助は理解していた。

「……申し訳ありませんでした」

 二メートルを超えるオークが、先程から地面に正座をして謝っている。

 テイトの隣にいる女性【プラチナ】は、金色の目をしているハイエルフのアバターを使用している。

 彼女は“ゴールデンアイ”のギルドマスターで、彼女自身も今日のためにアバターを作り直したガチ勢のプレイヤーだった。

「でも、予定よりプレイヤーの消耗も多かったけどね。デスペナで戦力がガタガタなんですけど? 分かる? ねぇ、分かっているの?」

 デスペナとは、プレイヤーが死ぬと単純にレベルが少し下がるというものだ。ガチ勢にはその程度は数日で取り戻せるが、現在は決戦中。

 レベルが下がるという事は、それだけ戦力として価値が下がるという意味だ。

 ポン助たちは、壁の破壊に大きく貢献したが、味方を巻き込んでしまい大幅に味方の戦力も削ってしまった。

「本当にすみませんでした!」

 ギルドメンバーの不始末を謝罪するギルドマスターポン助だが、中身は高校二年生という学生である。

 周りがイライラしている中で、助け船を出すのはリアルでも友人である陸――ギルド“銀翼”を率いるルークだった。

 百人を超えるプレイヤーが集まる中で、ルークはポン助をフォローする。

「友人が本当に申し訳ないです。でも、それくらいにしませんか? ほら、こいつ攻略戦初心者ですし、それに壁の破壊に貢献したのは事実ですし」

 テイトが渋々という感じで認めていた。

「君が言うならここまでにしよう。中堅勢のまとめ役は君だ。機嫌を損なわれても困るからね」

 言葉に棘があった。

 プラチナも同じだ。

「ルークの支援がないと困るからここまでにするけど、これ以上足を引っ張られても困るのよね」

 ルークは攻略組ではないが、それ以外の中堅勢をまとめていた。そのため、会議でもそれなりの発言権があったのだ。

 つまり、ルークがフォローしなければ、ポン助の吊し上げは続いていたことになる。

 テイトがポン助に告げる。

「アイテムと素材リストを渡すから、それを提供してくれるなら今回は許そう。言っておくけど、君たちが攻撃したギルドへのお見舞いみたいな物だから断ったら帰って貰うよ」

 ポン助はリストを受け取った。

 攻略戦で使用するアイテムは桁違いに増えるため、少しでも多く確保するのが普通だった。

 ポン助たちギルドから出せる数字だが、痛くないとは言えない数字でもある。

(……流石にこれは断れないか)

 しかし、ここで断れば攻略戦に参加出来なくなる。

 それは困るので、ポン助はアイテムを差し出すことを認めるのだった。

「すぐに用意します」

 ポン助の返答を聞いて、プラチナが少し感心する。

「あら、準備が良いわね」

 全て揃えられるとは思っていなかった様子だが、アイテムを確保しているポン助たちを少しは評価したらしい。

 ルークが肩をすくめた。

「ポン助、俺からも少し出そうか?」

 ポン助は首を横に振る。

「いや、迷惑をかけたのは僕たちだから、僕たちで用意するよ」

 攻略戦初日は、こうして波乱の幕開けとなっていた。





 ギルドの野営地は、色欲の都から少し離れた場所に用意されていた。

「糞豚共を吊せぇぇぇ!」

 アルフィーの号令の下、柱に括られたオークたちの足下に火が付けられた。

 十二人のオークたち全員が、ギルド内の制裁で火あぶりにされていた。

 松明を次々に投げ込むギルドメンバーたち。

 狂気とも言える光景だが、ポン助と愉快な仲間たちの狂気はここから更に加速する。

「熱っ! でも興奮してきた!」
「出来れば拷問の方が良いけど、火あぶりも良いよね!」
「おい、火力弱いぞ」

 火あぶりにされたオークたちが、嬉々として喜んでいるのだ。

 マリエラが弓を手に取り、矢をつがえて放つ。

「お前ら的にしてやんよ!」

 矢がオークたちに突き刺さり、叫び声が周囲に響く。

「ひゅぅぅぅ!」
「最高です!」
「おかわりお願いするっす!」

 反省しないどころか、大喜びしているオークたちの歓声とギルドメンバーたちの罵詈雑言。

 おまけに攻撃を続けているプレイヤーたちもいる。

 とても仲間にする行動ではない。

 周囲でその光景を見ていた他のギルドのメンバーが、慌てて駆け寄ってきた。

「おい、お前らなにやってんだ!」
「怖いんだよ。迷惑だから止めろよ!」
「またお前らか!」

 他のギルドのプレイヤーたちが、大慌てでオークたちを救出する。

 しかし、助けられたオークたちは白けていた。

 プライが肩を落とす。

「ここで助けるとか……君たちは空気を読んだ方が良い」

 これには助けたプレイヤーも唖然とするしかなかった。

 ポン助と愉快な仲間たちを知るプレイヤーが、両手で顔を覆っていた。

「もう嫌だ。こいつらなんなの」

 混乱する状況の中、職人たちを指揮するライターは叫んでいる。

「急げ! 急ぐんだ! とにかく粗悪品でもいいから数を揃えるんだ!」

 ポン助からのメッセージで、大急ぎでアイテムを揃えるために作成している職人集団。

「ライターさん、なんか良い感じで出来ました!」
「俺も良い感じっす!」
「私も!」

 一人が回復薬を良い感じに仕上げると、それを見たライターがニヤリとする。

「在庫にある粗悪品と交換だ。良い感じのアイテムは私たちが使う!」

 性能的には粗悪品と呼んでいる回復薬も問題ないが、アイテムを渡すのが悔しいライターはとにかくギリギリの性能を持つ回復薬を現地で大量生産していた。

 周囲で困惑している他ギルドのプレイヤーたちには、人当たりの良いブレイズが対応していた。

「本当に申し訳ありません。すぐに止めさせますんで」

「本当にいい加減にしろよ!」

「はい、すぐに止めさせます」

 帰っていく他ギルドのプレイヤーたちを見送るのは、ギルドの新人組であるイナホだった。

「……初日から大変ですね、ブレイズさん」

 ブレイズは好青年のアバターを使用している。

 苦笑いをするブレイズが一言。

「もう慣れたよ。それより、ポン助君が吊し上げを受けているみたいだから、そっちも大変そうだね」

 プライを踏みつけているアルフィーが、ブレイズに振り返った。

「そう、ポン助ですよ! こいつらのせいでポン助が! ポン助が!」

 ヒールでガンガン踏みつけるアルフィーだったが、プライは頬を染めて地面に倒れている。

「わ、我が人生に悔いなし」

 イナホは思う。

(もう少し悔いた方が良いと思う。というか、反省した方が絶対に良い)

 すると、テントの中から目の下に隈を作ったリリィが出て来た。

 基本的にエンジョイ勢の彼女は、まるで戦場のような攻略戦に乗り気ではない。

「ちょっと静かにして。ベッドもないテント生活で気分が滅入っているのに」

 テントの中では、中学生組――ナナコ、シエラ、グルグルや、他の低年齢プレイヤーたちがスヤスヤ眠っていた。

 イナホはテントの外で騒ぐ集団を見てから、またテントの中を見て思う。

(テントの中は平和で良かった)

 そんな混沌とする状況の中、ポン助が重い足取りで戻ってくる。





 主要メンバーを集めた会議。

 ポン助は、明日の予定を話すとマリエラが驚く。

「私たちが前に出るの? 本気? だって、前に出るのって基本的に攻略組か中堅でも強い連中よね?」

 参加したいだけのプレイヤーたちは、後ろから攻城兵器を使って壁を削るのが仕事である。

 それが、前に出ることになって全員が驚く。

「壁に取り付いてなんとか中には入れれば攻略も早いからね。まぁ、なんていうか……お前らも俺たちの苦労を知れ、みたいな?」

 後ろから味方に撃たれる恐怖を経験しろと言われたのだった。

 ライターが嫌そうな顔をする。

「それアレだよね? 意趣返しというか、もう単純に仕返しだよね? 絶対に後ろから攻撃されちゃうよ。ヤダよ」

 ポン助がライターを見る。

「ヤダよ、じゃねぇよ。爆弾が誰の所有物か言ってみてくださいよ、ライターさん」

「つ、使ったのはプライさんたちだ!」

 プライは興味がなさそうだった。

「いや、だってそこにあったから。セットしてレバーを引けば良いって言うから」

 自分たちは悪くないというライターとプライ。

 ブレイズがヤレヤレと肩をすくめ、ポン助を見るのだった。

「やるのは良いとして、何も考えていないとただ敵と味方から挟み撃ちにされてしまうね。攻略戦の初陣でこれはちょっと嫌だね」

 ポン助だってそんな状況に放り込まれたくはない。

 すると、アルフィーが思いついたのか明るい表情になった。

「なら、アレをしませんか! ほら、イベント戦でやった奴ですよ」

 マリエラも気が付く。

 ポン助やプライを見ながら。

「確かに良いけど、使うとポン助たちが今後の攻略戦に参加出来ないわよ」

 そんな話をしている二人に、話し合いに参加していたノインとフランが首を傾げていた。

 近くにいたイナホに話しかける。

「イナホちゃん、アレって? イベント戦って何?」

「私たちは知らないな」

 イナホは手を横に振る。

「いや、私も知りませんよ」

 アルフィーが腰に手を当てる。

「流石に切り札ですが、二日目でボコボコにされるくらいなら今使うべきですよ。運が良ければ、都市内部に入って暴れられますからね。門を破壊して内部に入れるかも知れませんよ」

 ブレイズがアゴに手を当てて頷く。

「アレか。もう少し様子を見たかったけど……そうなると、全員がいいかも知れないね」

 新人組は訳が分からないと言う顔をしていた。

 ポン助が少し悩む。

(アレか。アレ、あんまり使いたくないんだよね。デメリットも多いし、一回使えば三日目以降の攻略戦にも参加出来ないし)

 しかし、味方から後ろから撃たれるのが分かっていて、黙っているわけにもいかない。

 そもそも、自分たちが原因で起きた問題だ。

 ライターがポン、と手を叩く。

「あ、なら海賊イベントで使ったアレがあるよ。人数分用意しているけど使う?」

 アレ、ソレ、コレ、などという会話が続き、新人組がついていけない。

 ポン助は決断する。

「……このままだと切り札も使えないで終わりそうだし、やろうか」

 マリエラが手を上げる。

「私がポン助に乗る!」

 アルフィーがマリエラに掴みかかった。

「ポン助の背中には私が乗るんですよ! マリエラは他のオークに乗ってください!」

 マリエラがアルフィーの頭部を掴む。

「お前が乗れ! ポン助には私が乗る!」

 ギャーギャーと騒がしい二人を放置して、ポン助は取りあえず話を進めるのだった。

 周りも見苦しい喧嘩を無視していた。

 良くも悪くも見慣れた光景である。

「なら、モンスターテイマーを修得している人を探して、乗って貰う感じで。十三人いましたかね?」

 ブレイズは頭の中でテイマーの職業を持つプレイヤーを数えているようだ。

 だが、どうにも足りるとは思えないらしい。

「流石にそこまで数が揃うかな? うちも人は増えたけど、テイマーは人気職じゃないからね。獲得してそれなりに鍛えているプレイヤーは流石に少ないと思うよ」

 ライターがニヤニヤしていた。

「よし、とっておきの爆弾を人数分用意して、負けそうになったら自爆して貰おう。これで都市に与えるダメージ量を稼げる。活躍しただけ報酬が貰えるんだから、頑張らないといけないね」

 イナホたちが最後まで理解出来ないまま話が終わる。

 こうして、ポン助たちは都市攻略戦に本格参戦することになった。
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