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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第六章

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プロローグ

 色欲の世界。

 そこは仮想世界の中でも最前線である。

 曇天の空に、地上は荒れ果て枯木が所々に生えているだけ。

 都市は黒と灰色で染められ、ペンキで至る所に落書きがされていた。

 空を飛び回っているのは、色欲の世界だけあって淫魔のようなモンスターたちである。

 そんな最前線。

 色欲の世界を支配するボスのいる都には、多くのギルドが攻め込んでいた。

 プレイヤーたちは人を集め、NPCも引き連れ、そして攻城兵器を持ち出して都市に攻撃を仕掛けている。

 火の玉、氷の弾、雷撃、魔法が次々に撃ち込まれるも、都市を守る壁の前に傷をつけられないでいた。

 ゲーム的な話をするのなら、壁の耐久値を削りきれていないのだ。

 色欲の都からも、モンスターたちが出撃し、防衛兵器による攻撃がプレイヤーに降り注いでいた。

 互いに一進一退の攻防が続く戦場は、まさに激戦と呼ぶに相応しい。

 しかし、プレイヤーたちの発する声は――。

「いやぁぁぁ! 溶ける! 課金アイテムの数々が溶けていくぅぅぅ!」
「死んだ! はい、死んだ! これでデスペナ二連続ぅぅぅ!」
「あ、やべっ! 今になってガスの元栓閉めてきたか気になって来た」

 プレイヤーと色欲の世界。

 その両陣営の総力戦にしては、声に緊張感が今ひとつ足りなかった。

 それはギルド“ポン助と愉快な仲間たち”も同じである。

 オークプレイヤーのポン助たちは、用意した攻城兵器で都市の壁を攻撃。攻城兵器を壊しに来るモンスターたちと戦っていた。

 攻略に参加しているが、それでもトップ集団ではないポン助たち。

 今は後方からチマチマ攻撃する役割しか貰えていない。

 ――貰えていないのだが。

「おい、誰が爆弾使えって言ったよ!」
「味方が吹き飛んだぁぁぁ!」
「ライターの鬼畜野郎を探し出せ!」
「野郎、今度こそぶっ飛ばしてやる!」

 以前よりも増えたギルドメンバーたちが探しているのは、ノームと呼ばれる小柄なアバターを使用するライターだった。

 ポン助は、襲いかかってきた股間に角がついた淫魔を右手に持った大剣で斬り伏せ、そして周囲に視線を巡らせる。

「……マジかよ」

 攻城兵器にセットした爆弾が投擲され、色欲の都を守る壁に激突したのは良い。

 だが、中に入ろうとしていたプレイヤーたちを巻き込み大爆発。

 ポン助の元には、大量の抗議メッセージが送られてきた。

『またか、またお前らか!』
『喧嘩ならデスマッチで買ってやるぞ!』
『お前らいい加減にしろよ!』

 壁に取り付き、這い上がろうとしていたプレイヤーたちからの抗議に、ポン助は大急ぎで謝罪メッセージを送る。

 激戦の最中にやる事ではないが、円滑なコミュニケーションのためには仕方がない。

 むしろ、ポン助のギルドが悪いので謝罪をするしかなかった。

「ライタァァァ!」

 激昂するポン助だったが、当のライターは憤慨しながら抗議してきた。

「私じゃない! アレは特攻用で隠し持っていた、とっておきだ! 誰だ、誰が私の爆弾を投擲しやがった! あれは高いんだぞ! レアアイテムを使ったとっておきだと言うのに!」

 小さな体に似合いのナイフを振り回しながら、ライターは周囲をぎらついた目で見渡していた。

 すると、攻城兵器――投石機の形をした物に、オークたちが溜息を吐きながら石やら爆弾などをセットしている。

 十二人に増えたオークたちは、どこかやる気が感じられなかった。

 リーダーであるプライが、流れ作業でレバーを引く。

「……はぁ、鞭が足りない」

 投石機にセットされた岩が飛ぶ。

 壁に当たるのは良いが、登ろうとしていたプレイヤーたちを巻き込んでいた。

 ポン助はその光景を見て唖然とする。

 緊張が続く攻略戦の最中だ。

 オークたちをしばいていられる状況でもなく、彼らを放置した結果がコレである。

 新人オークたちが文句を言っていた。

「くそっ! いつになったらしばいてくれるんだ」
「俺は縛って欲しいな」
「我が輩は見下して欲しい」
「皆さん本当に変態でありますな。拙者は女王様にハイヒールで踏んで欲しいでござるよ」

 次々に鳴り響く抗議のメッセージコールに、女性陣が動き出した。

 マリエラとアルフィーを筆頭に、オークたちをしばき始めたのだ。

「そんなに暇なら、あんたらを投擲してやるよ!」

 マリエラがボコボコにして顔に青痰を作ってやったプライを、攻城兵器にセットする。

 アルフィーが無表情でレバーを引くと、ボコボコにされて嬉しそうなプライがサムズアップをしながら壁に放り投げられた。

「リィィィダァァァ!」
「羨ましい! 次、俺な!」
「おい待てよ。次は俺が――ぶほっ!」

 厚底ブーツを履いた、アンリがオークの顔面に蹴りを入れる。

「五月蝿いんだよ、豚ぁ!」

 吹き飛ぶオークだが、それを見ていた周囲のオークたちは歓声を上げた。

「ヒャァァァ! アンリちゃんのキック出た!」
「俺、鳩尾に一発欲しいっす!」
「罵って! もっと罵って!」

 喜ぶオークの集団を前に、シエラが冷たい目を向けていた。

「……キモっ」

 すると、オークたちが何人もバタバタと倒れ、恍惚とした表情で震えていた。もう、彼らは手遅れだった。

 ポン助が手で頭を押さえる。

(どうしてうちにはまともなプレイヤーがいないんだ)

 混沌とする戦場で、ポン助たちのギルドは途中から味方を放り投げるという奇怪な行動をしていたと後で吊し上げられることになった。

 ポン助が肩を落とす。

「ようやく攻略戦に参加出来た、って言うのに」

 ゲームを始めて一年が過ぎようとしていた。

 ポン助もようやく最前線に辿り着いたのだが、初日から駄目な行動が続きまったく役に立てていなかった。

 事の発端は数日前。

 現実世界でポン助――明人が攻略戦に誘われた事から始まった。



「攻略戦?」

 学園の教室。

 友人の陸と話をしている明人は、提案に聞き返してしまった。

「なんで不思議そうなんだよ。お前たちも人が集まって、ようやく最前線に来られたんだろ? なら、攻略戦に参加してみるのも悪くないぜ」

 陸にパンドラへと誘われて一年が過ぎた。

 明人はようやく友人と同じレベルに到達したと言える。

「いや、でもうちは攻略組みたいにストイックになれないよ。まだ時間が欲しいんだけど」

 ただ、ゲームを楽しみたい集団の集まりである。

 正確には、今後攻略を目指すが、相応にゲームも楽しもうという集団だ。

 ガチの攻略組ではない。

 陸は少し呆れていた。

「そんなんでいつ攻略に参加するんだよ。どうせやる事は後ろから攻城兵器で支援するくらいだ。お前たちにも出来るから、今の内に参加しとけよ」

 友人に言われ、それもそうかと思った明人は頷いた。

「分かった。準備を進めるよ。でも、参加しても邪魔にならない?」

 陸は首を横に振る。

「普通に手伝って貰えるだけで助かるんだ。別に大量に課金してくれとか言うつもりもないし、後ろから支援で十分。前に出るのは壁を壊した後だな」

 攻略戦には段階がある。

 まずは都市を見つけるためにクエストを行う。

 その後、攻城戦の用意をして戦争を始め、壁を壊すとプレイヤーたちが都市に入ってモンスターたちと戦う。

 トップ集団が城の中を進み、ボスと戦って勝利すればプレイヤーの勝利だ。

 明人は話を聞いて妄想する。

「いつかは城の中に攻め込んでボスと戦いたいよね」

 陸は力なく笑っていた。

「無理、とは言わないけどきついぜ。実際、今度の攻略戦は三度目だからな。情報を集めた攻略組は、アバターから作り直して準備を終えたところだからな」

 ボスとの戦闘のために、最適解を導き出して戦力を揃える。

 明人にも陸にも、それだけする気力はない。

 ないというか、愛着のあるアバターを放棄するのが無理だった。

「攻略組は頭がおかしいよね」

「あいつら絶対変人だよな」

 明人と陸が笑う。

 すると、陸は話を変えてきた。

「それより、もうすぐ夏休みだけどどうする? お前、またアルバイトで潰す気?」

 明人も色々と考えているが、アルバイトも成績に影響するので手が抜けなかった。労働は評価される。

「シフトは入れているけど、別にアルバイトだけじゃないよ」

「なんだ、他に予定もあるのか?」

「友達と海に行くよ。取りあえず、レンタカーは借りる予定。予約も入れた」

 海と聞いて教師にいた男子たちが、明人に視線を向けた。

 その視線には様々な感情が込められているが、明確にあるのは一つ。

 嫉妬である。

 明人も陸も察したが、ここで話を切り上げると変な憶測を呼んでしまう。

 陸が話の続きを求めた。

「そ、それはアレか? 恋人と二人きり、とか?」

「ははは、そんな訳ないじゃないか。……ア、アルバイト先の知り合いと海でナンパをしようと思って」

 明人はわざとらしく笑い、そして適当な嘘を吐く。

 本当は摩耶に別荘に誘われ、八雲にも声をかけている。

 別に恋人ではないが、女子と海に行くなどと言えば男子に何をされるか分からない。

「ちっ、誤解させやがって」
「ナンパも失敗すれば良いんだ」
「成功したら呪ってやる」

 男子たちが興味をなくすと、明人も陸も安堵するのだった。

 陸は小声で話を続けた。

「なら、夏休み中に暇な時間を作ってくれよ。出来れば……終盤が良いな。その頃には大型アップデートも終わっているだろうし」

 大型アップデートと聞いて明人は首を傾げる。

 今までもそうだったが、大型アップデートがあるのは大抵が世界を解放した後。つまり、攻略が終わった後である。

 今の段階でする話ではなかった。

「まだ攻略は終わっていないよ」

 陸は意味ありげに小さく笑う。

「あぁ、でも時間の問題だ。ついでに言えば、運営側もそのつもりで準備を始めているからな。別に攻略されていなくてもいいんだ。ただ、夏休み終盤に会えればそれで良い」

 明人は溜息を吐く。

(そう言えば、陸もセレクターで情報屋と知り合いだったな。その手の話は仕入れられる訳だ)

「そういう事ね。別に良いけど、何かあるの?」

 陸は少し考え。

「まぁ、その時に話をするさ」

 そう言って切り上げるのだった。





 八雲の通っている女子校。

 昼休憩中、女子が弁当箱を持ち寄って食事をしていた。

 八雲は普段よりも量が少なく、それを見ていた女子の一人が――。

「八雲、あんたもしかして……夏に勝負するつもり?」

 その言葉に八雲が噴き出しそうになるのを我慢すると、何度か胸を叩く。大きな胸が揺れた。

「な、何を言うのよ。最近少し太ったかな、って」

 視線の泳ぐ八雲を、友人である女子たちが目を見開いてみていた。

「……別に太ってないよね」
「というか、最近絞り込んでいるよね」
「あ、そういう……」

 夏に向けて準備していると思われた八雲は、焦りながら答えるのだった。

「いや、ほら、夏休みだから海とかプールに行きたいじゃない。そのための準備よ。うん、他意はない!」

 女子たちの視線が冷たかった。

「他意しかないよね」
「男か。そんなに男が欲しいのか」
「あんた別にそれ以上絞らなくても良くない?」

 責めるような女子の視線に晒される八雲の体は、一年前よりも良くなっていた。具体的に言えばスリムになった。

 肉付きが欲しい部分には付き、それでいてバランスも良い。

 元から良かったが、今は磨きがかかっている。

 八雲は内心で焦る。

(ま、まずい。ポン助にあう前に絞り込んでいるのがバレちゃう)

 一人がニヤリと笑う。

「男たちの視線を集めたいなら今のままでも十分だよね。でも、それ以上を目指す、っていうことは……これは狙っている男がいるな」

 その言葉をきっかけに、鋭い目付きをする友人が一人。

「今まで男なんか興味もない、って態度だった八雲が男? それはちょっと気になるわね」

 八雲は一人、冷や汗を流すのだった。





 夜、摩耶は自室で体重計に乗っていた。

 周囲には運動器具が転がっている。

 体重計の数字を見て、摩耶はスマホにデータを入力していた。

「……ふむ、このまま行けば目標値よりもう少し絞り込めるわね」

 一人、黙々とトレーニングをしている理由は、夏に向けて引き締まった体を手に入れるためである。

 日々、運動もしているが……それでも、振り向かせたい相手の近くにはライバルがいる。

「あの女にだけは負けられない」

 体調管理も手を抜かない摩耶だが、夏に向けてライバルである八雲に勝つため気が抜けない状態であった。

 摩耶から見ても、八雲はスタイルが良い。

 そんな八雲が近くにいる明人を振り向かせるとなると、やはり相応の準備が必要だった。

 摩耶は汗を拭いながら、パソコンの画面を見る。

 色々と調べているが、やはり水着が問題であった。

 男を惑わす水着特集というページには、色々な水着が掲載されている。

 可愛いからセクシーまで。

「あんまり過激だと男子も引くのね。これにはちょっとビックリ」

 過激な水着なら気を引けるかと思ったが、どうやら駄目だと知ったようだった。

 摩耶は真剣な顔をしていた。

「冬休みは失敗したけど、この夏休み中には絶対に……決める!」

 決意する摩耶。

 だが、それは八雲も同じである。

 こうして、仮想世界では攻略戦が。

 現実世界では、明人攻略戦が始まろうとしていた。
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