序章
1.
昨日も今日も同じ。
毎日を暗い部屋の中で過ごす。辺りには変わらぬベッドに変わらぬデスク。広さ6畳ほどの俺の部屋は、最早、聖域へと化していた。
………高校受験に失敗してから早一週間。
親は俺に何も言わない。ただ、その行為が、親の心境を物語っていた。
デスクにあるPCを起動し、何も考えずに動画を視聴する。そこには、再生回数を稼ぐ為に自ら進んで馬鹿馬鹿しい事をする、羨ましい者が映っていた。
画面を閉じる。
「何やってんだろうな……俺」
ため息よりも先に、諦めが俺の元へやって来た。
過去を悔いるのは高校に落ちてから散々やってきた。
どうしてもっと真面目に取り組まなかったのか。俺はどうして学校に行かなかったのか。上げていけば恐らく一朝一夕では終わらないだろう。
そう判断し、ベッドに横たわった。
ーーーコン、コン。
部屋をノックする音が聞こえた。親か……。
ベッドから起き上がり、ドアノブに手をかけるーー。
「ーーこんにちは。あなたが小戸、優太君ね?」
俺の眼界へ飛び込んだのは、俺よりも少し背が低く、セミロングの髪をした、綺麗な女性だった。
状況を理解できずに立ち尽くしていると、女性は続けて言葉を発した。
「私は、美稲侑子。少しお話ししましょう?」
笑顔で話す美稲さんに押され、冷静であっても断れなかった。
美稲さんは、俺の部屋に入ると、ベッドに腰掛けた。
俺は気遣いから半年振りぐらいに部屋の電気を点けた。
鋭い光は俺の体を焼くように照らした。
「……肌白いね、羨ましい〜、私に分けて欲しいくらいだよ〜」
俺の肌の白さに驚いたのか、感嘆の……いや、驚嘆の声を上げた。
まぁ……望んで白くなったわけじゃ無いんですけどね、心中はむしろ黒々してますけどね。
「いえ、あなたはそのままでも綺麗だと思いますよ」
一応、社交辞令は言っておく。いくら外に出る回数が少なくとも、この位は身につくさ。
「え……本当?」
少し頬を赤らめながら真偽を問うてきた美稲さん。
まさか本当に信じたわけじゃ無いよな……。
自身を軽く納得させながら、社交辞令を続けた。
「えぇ、本当ですよ」
俺の言葉を聞いた途端に彼女は突然立ち上がり……。
「決めた!あなた私のところでバイトしない?」
そう、告げてきた。俺からすれば、考慮するまでも無いとても良いお誘いだ。中卒の資格しか無い俺をいきなり雇うと言いだしたんだからな。
理由は……よくわかんないけど、気に入られたってことか? こんなの……答えなんて決まってるじゃ無いか……。
「断る! 怪しすぎ、展開が早すぎ、等の理由でな」
当然だ、この状況で引き受けるのはとてもじゃないが信じられたものでは無い。早い展開に小休止を打つべく、俺はキャスター付きの椅子に腰掛けた。
それまで目を向けていなかった美稲さんに再び目を向けると、目を閉じて……瞑想? していた。
「あの〜、美稲さん?」
呼びかけると、パチっと目を開き、おもむろに部屋を出て行った。
「何だ、帰った……のか?」
訳も分からず呆然としていると、再び帰ってきた美稲さんが笑みを浮かべながら俺にとって良く無い話をしてきた。
「あなたはこれから私の元で働くことが決定しました! イェーイ!」
目の前で掲げられた紙には、契約書と書かれていた。それを美稲さんから受け取り、内容を読んでいく。
……省略して言えば、あなたに強制的な労働を課す。
これに反した場合、違約金として五百万の料金が発生する。ただし、俺が真面目に働いた場合には、これを免除、給料として、社宅の無料貸し出し、月三十万+出来高払いの給料を支給する。
株式会社、代表。美稲侑子。その後に俺の親と、美稲と書かれた印鑑が押してあった。
「……代表?」
絞り出した言葉は、とても短かった。
それでも美稲さんは、はっきりと俺の欲しい言葉を話してくれた。
「うん、今日からあなたは私の会社の社員であり、私の部下になるの」
拒否権が無いことは、俺にもわかっていた。
あの後すぐさま荷物をまとめられ、俺は美稲さんが運転するワンボックスカーに乗り込んだ。
隣で運転する美稲さんに話しかける。
「美稲さんの会社ってどこにあるんですか?」
社宅に住むので会社に向かうわけだが、外にほとんど出ない俺からすると、少し車で家から離れただけで未開の土地。そんな感覚だった。
「後ちょっとで着くよ〜」
目を前に向けながら俺の質問に答える。
後ちょっとで着く。
そう自分に告げて、俺は身を背もたれに預けた。
「ついたぁー!」
ーーーユサユサ。
「起きて〜、ついたよ〜」
美稲さんの声に起こされ、瞼を開く。
窓から見て取れるのは、ここがガレージであることだけだった。
車から降り、トランクの荷物を下ろす。
「はい、じゃあついてきて〜」
美稲さんに促され、後をついて行く。
クルマの後ろにドアがあったようだ。
そこを開けて中に入っていく、俺も続く。
その中は3畳ほどの空間になっており、少し向こうに3段ほどの階段があった。
重たい荷物を持ち上げ、階段を上ると、そこは16畳ほどの空間になっており、いわゆる応接室だと思えた。
「それじゃあ、ちょっと休もっか」
入って左手には社長が近いそうなウッドデスクがあり、右手には、三人掛けのソファが、ガラステーブルを挟んで向かい合っていた。
俺はソファに促された、荷物を横に置き、ソファに座る。
「………疲れた」
全体的に綺麗なこの部屋には、妙に落ち着く雰囲気が漂っていた。
が、それに反応する気力が、俺には残っていなかった。
どうもこんにちは、どうせ多くは見られまいと思って好き勝手やろうと今さっき心を決めた、鈴木マルです。
しょうじき自分の実力がまだまだなのは承知しておりますので、皆様からのご意見等待ってます。
酷評だけだとあれなんで、優しくお願いします。
あ、フリじゃないですよ?




