第23話 国宝と尋問
――試験結果を待つ間、青い扉の部屋にいたセブンシア、赤い扉の部屋にいたルナだけが別室へと呼ばれていた。
試験の案内役だった老人の前に置かれた椅子に、二人は座っている。
どちらの居ずまいも美しく、緊張した様子もない。
「お時間をいただいてしまって申し訳ありませんな。セブンシア嬢、そしてルナ嬢」
王室の事前調査では、二人の素性に問題はなかった。
ルナは隣国辺境近くの侯爵家の四女で、セブンシアの二つ名である白薔薇は伯爵家の家名より有名だった。
「お呼び立てしたのは他ではございません。あの難問を全問正解されたお二人へ直にお祝い申し上げたかった。そのためにございます」
「ありがとう存じます」
二人は声を合わせ頭を下げる。
「ご安心ください」
老人はチラリとルナを見た。
「養殖された全問正解者にはこの栄誉は授けるつもりはございませんので」
セブンシアは不思議そうな顔をし、ルナはただ微笑むだけだった。
「ところで、お伺いしたいのですが、最後の赤文字の問題、隣国の国宝の正式名称ですが、いかにしてお知りになったのでしょうか」
(本題はそれか)
ルナの口元の動き、瞬き、肩の揺れ、僅かな変化も見逃さないと老人の鋭い視線が言っているようだ。
隣国の国宝である白色の小さな人形。
目鼻はなく、丸い頭部に短い胴体、指のない手足。
材質も製作者も国宝として祀られている理由も公にされていない。
拝観を許されるのは王位継承または王家直系の婚礼時のみで、その存在を知っているのは王族ですらごく少数だった。
「我が家お抱えの研究家が各王家の国宝について執筆しておりますの」
先に答えたのはセブンシアだ。
「出版に際して正式な許可をいただいていたようですわ。その草案を見せていただいたのは少しズルでしたかしら?」
悪戯めいた微笑みを惜しみなく披露する。
その顔はただただ美しい。
「なるほど。もしよろしければ、その研究家の名を教えていただきたいのですが」
枯れた老人はあくまで事務的に話を進めていく。
白薔薇が名前を告げると、老人はどこかへ意味深な目配せをした。
どうやら、この部屋自体も魔術師の監視の対象らしい。
シェルトドーガが初日に言っていた騎士や魔術師の大量配置について、点と点が結ばれ始めた。
「ルナ嬢はなぜご存知だったのでしょうか」
「知っていたからです」
「……」
「それ以上のお答えは難しいです」
空気が張り詰めるのを感じる。
まるで尋問だった。
「白薔薇にはたくさんの品種、そして花名がありますね?」
ルナはセブンシアへ話題を振った。
「ええ。神話の女神や童話のお姫様から愛された女王の名を冠したものまで様々ですわ」
「それらの名前を知った経緯を全部、記憶されてますか?」
「さすがに全部は難しいです」
(ありがとう。その答えがほしかった)
ルナは改めて老人と目を合わせた。
「つまり、私もそうなんです。土地の謂れを、調味料の味を、美しさを例える形容詞をいつの間にか覚えたように、いつの間にか隣国の国宝名を記憶に刻んでおりました」
あ、とわざと思い出したふりをしてみせる。
「我が家が隣国の国境にございますので、言の葉が風に乗って流れてきたのかもしれませんね」
老人は指示棒で何度か掌を打った。
しばらくして、魔術師の診断が終わったらしい。
「お答えいただけたこと感謝いたします。ところで、とても希少な紅茶があるのですが、一杯飲んでいかれませんか?」
結果は白と出たようだ。




