↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EWIG(エーヴィッヒ)――帝国騎士と病床の白髪の友が織りなす、戦乱を生き抜く長編戦記【全99話完結】  作者: 黒わんこ
第一巻 第三章 『運命』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/50

第16話 北の魔女

 彼らの馬車が集まっているところから少し離れた所に、他の馬車とは、少し感じの違う馬車が止められていた。

 デスをつれて歩いていたジプシーは立ち止まると、止まっている馬車を指さした。


 「あそこに、ばば様はいる」

 「そうか、手間をとらせたの。がははははは」


 デスは、いつもの調子で答えた。


 「しかし、あのばぁさん、まだこんなぼろっちい馬車で旅をしとるとは。

 いいかげん、馬車ぐらいかえればいいのにのぉ。がははははは」


 デスは、ジプシー達がそばにいるにもかかわらず、大声で言った。


 「ばば殿! ばば殿は居られるか!」


 デスは、大声で馬車に向かって叫んだ。しかし、馬車からは何の反応もない。


 「おかしいのぉ。中で死んどるじゃないか、あのばぁさん。おーい、ばば殿! 居られぬのか!」


 しかし、まだ何の反応もない。デスは、馬車に近づき、馬車の後ろにかけられている布を持ち上げ、中に向かって、より一層大きな声で言った。


 「ばば殿ぉ!! おらんのかぁ!」

 「やかましいわい!!」


 デスの声よりも、さらに大きな声が響いたかと思うと、馬車の中から、先が太くなっている杖が突き出てきた。杖の先は、まるで棍棒のようであった。

 その杖は、馬車を覗《のぞ》きながら叫んでいたデスの頭に、容赦《ようしゃ》無く降り下ろされた。


 バッコォォン!


 すさまじい音が辺りに響く。

 カリュースとルッカは、何が起こったのか、一瞬理解できなかった。


 ジプシー達は、またか、そういった表情で顔を見合わせ、笑っていた。


 「そんな、でかい声で言わんでも、聞こえとるわい!」


 かん高い声が当たりに響く。デスは、殴られた頭をさすりながら、馬車を見上げた。


 「ばば殿! 生きとったか!」

 「おぉ、カネムじゃないかえ。お前さん、ずいぶんとええ男になったのぉ」


 そういう声が聞こえたかと思うと、馬車に後ろにかけられていた布が、ひとりでにはね上がった。


 カリュースは、中の人物を食い入るように見た。デスの人生の師と言うからには、どんな人物が出てくるのか、非常に気になったからだ。


 馬車の中にいる人物は、カリュースらが想像していた、筋肉ばぁでも、怪物でもなかった。


 小柄な体に、薄い灰色のローブを身につけ、頭はフードをかぶり、その上からバンドをしていた。フードがバンドで止められているため、普通のローブをかぶっているみたいに、顔は隠れてはいなかった。


 ばばの顔は、ぱっと見た感じでは、まだ六十か七十ほどに見えた。だが、その目は澄《す》んでおり、知性と威厳《いげん》が十分に伝わってくるものだった。

 笑っているその口元は、綺麗な歯が並んでおり、歳の割にはずいぶんと丈夫そうだった。


 手には、先ほどデスに振り落とされた、棍棒《こんぼう》の様な杖を持っているだけだった。他には何の装飾もつけず、ただの老婆の姿である。


 「ばば殿、相手を確認せずに殴る癖《くせ》は直しておけと、言ったじゃろうが」


 デスは、目に半分涙を浮かべながら、そう老婆に向かって言った。


 「すまないねぇ、かっかっか」


 ばばの様子は、まったく反省する様子もなく、乾いた草木の様な笑い声を立てただけだった。


 「それで、カネム。あそこにいる二人はなんじゃ?」

 「ああ、あれはわしの部下達じゃ。左に立っている軍服の男がカリュース中騎将、右の鎧を着けているのがルッカ小騎将だ」

 「そうかぇ、あれが……」


 ばばは、笑っていた顔を、すっと引き締まらせると、じっとカリュースを見つめた。

 だが、そんな表情はすぐにかき消された。


 「まぁ、こんな所で立ち話もなんだから、馬車へお上がり。ほれ、そこの二人もあがるんだよ」


 そういうと、ばばは馬車の中に姿を消した。デスは何の恐れもなく、ばばの馬車に乗り込んだが、カリュース達は、内心は興味を持っていたが、表面はためらっているふりをした。


 「なにをやっとるんじゃ。早く上がらんかい」


 デスが、中からそう叫ぶと、カリュースらは、小走りに馬車に近寄り、馬車の中に入った。



 馬車の中は、思ったより明るかった。馬車には窓はなかったのだが、周りに灯された、奇妙な蝋燭《ろうそく》が周りを照らしているからだった。

 馬車の中央には、丸いテーブルが置かれ、その上には銀色のカードが束ねられていた。カードは背面が上を向けられており、その背には、ジプシー達が着けていた装束や飾りの模様と同じ、三日月と太陽が描かれていた。


 馬車の隅には、得体《えたい》の知れない薬草が詰められた瓶や、コウモリの頭をもぎ取ったもの、からからに乾かされたにんにくや、宝石が付いた円盤、ルーン文字の書かれた古文書らしきもの──などが置かれていた。


 馬車の奥には、少しへこみがあり、その前には台がもうけられていた。そのへこみには半鳥半人の姿をした小さな像が立っていた。


 像は、胸元で手を中央で合わし、顔は横を向いており、その顔にはくちばしがあったが、目は人間だった。

 体は、人間の男のものだが、その背には立派な羽が生えている。足は、二本足で立っている人間のようであったが、その足の形は、鳥のものだった。体は、布のようなものをまとっているように作られていた。

 その像の前には、周りに灯《とも》されている蝋燭《ろうそく》とは少し違った、蝋燭《ろうそく》が置かれいたが、火は灯されていなかった。


 馬車の中は意外と広く、大人の男が十人くらいは、ゆうに入れそうな広さである。

 ばばとカリュースが、丸テーブルで向かい合うように座り、ばばの右にはデス、左にはルッカが座っていた。


 「しかし、ばば殿は変わってないのぉ」


 デスは、ばばの顔を見て言った。


 「よしとくれよ、あたしゃそんな若くはないよ」


 ばばは、照れ隠しにデスの頭を例の杖で叩こうとした。だが、デスはそれを察知して、さっと身を後ろに避《よ》けると、杖の先はカリュースの目の前を通り過ぎ、ルッカの顔に当たった。

 ゴスン!


 鈍い音が辺りに響く。ルッカの顔には、赤いラインが入っていた。


 「ばば殿、狭い中でそんなものを振り回すでない。危ないじゃろうが。

 のぉ、ルッカ。がはははははは」


 デスは、自分が避けたせいでルッカの顔に当たったのも、全く気にせず、大声で笑った。


 「しかし、カネムもずいぶんと歳をとったねぇ。あたしが最後に見たときには、まだまだ、かわいい男の子だったんだがねぇ」

 「ばば殿から見たら、男はみんなかわいい男の子じゃわい」

 「そうだねぇ、かっかっか」


 乾いたばばの笑い声があたりに響く。


 「で、ばば殿は何でこんな所におるんじゃ? 大体ウィフィツィのジプシーは、一定の所に三日といないはずじゃろうに」

 「それは、キソウ神のお導きがあったからじゃ」


 ばばの声は、今までのように甲高《かんだか》く、頭に響くような声ではなくなっていた。その声は低く、いかにも占い師と言った様子に変わっていた。


 「儂《わし》が、ここに現れたのは、偶然でも気まぐれでもないのじゃ。全て星にでており、儂の運命に従うためにここに来たのじゃ」

 「運命?」


 カリュースは、呟《つぶや》いた。


 「そうじゃ。儂も、カネムも、そこの鎧の男も全て、人神ツォールの駒なのじゃ。


 人神ツォールは、ありとあらゆるものを駒としてその御心《みこころ》のまま操《あやつ》られる。いわば、天にある巨大なチェスの盤の上にある駒が、儂らと言うことじゃ。


 全てのものの運命は、人神ツオールによって、支配され、導かれる。それは、星の座となって現れ、儂ら、未来を読む者はその星を見るのじゃ」


 ばばは、そう言いながら、テーブルの上にあった銀のカードを切り始めた。


 カードを切る、軽い音が静かに聞こえる──


 ばばは、言葉を続けた。


 「運命とは、人神ツォールの操る駒の動きであり、星の座の動きなのじゃ。


 今はまだ、小さく弱い星じゃが、いずれは大きくなり、全てを飲み込む星がある。


 それが、おぬしの星じゃ」


 ばばは、カードをきる手を一旦止めると、カリュースを指さした。

 そして、その指を今度はデスに向けた。


 「この子もまた、巨大な運命の星の一つじゃった。儂は、この子の運命を見守るため、この子と一緒に旅を続け、そして、運命に従い別れた。


 この子の星は、その運命に従い、徐々に力を強めていった。

 じゃが、数年前、その星のそばに小さな星が生まれた。その星は、この子の星を引きつけ、いつの間にかこの子の星を自分の属星としてしまった。


 そして、その小さな星はすさまじい勢いで大きく育っておる。その星は、あらゆる星に影響を与えながら育つ。

 影響を受けた星は、この星に引かれるのがほとんどじゃ。


 じゃが、引きつけられない星は、その星と対極に位置するか、あるいは消え去った」


 ばばは、そこで言葉を止めると、指を下ろし再びカードをきり始めた。


 「その星とは、先も言ったおぬしの星じゃ、カリュース」

 「俺の星?」

 「そうじゃ。おぬしの星は、計り知れない運命を背負い、周りの星々を引きつけ、あるいは滅ぼす。


 カネムの星は、今は、おぬしの巨大な運命に引きずり込まれてはいるものの、飲み込まれてはおらぬ。おぬしのそばで、その力を保ちながら、制止しておる。


 そして、おぬしの星のそばには、影のように輝く白い星がある。その星は、おぬしの運命に、引きずり込まれるのを必死で抵抗し、自分の運命に逆らって、存在しておる。


 その白い星は、カリュースの運命と自分の運命の狭間《はざま》で、苦しみ悶《もだ》えておる。それ故に、決して通常の状態では、存在してはおらぬ。お分かりか?」


 ばばは、手にしていたカードを、さっと返すと綺麗にテーブルの上に並べた。三日月と太陽の模様が、一列に並び不思議な模様を描いている。


 「儂は、自分の運命に従い、この地に現れたのじゃ。つまり、おぬしの星が、儂の星を呼んだのじゃ。

 よいか、これから言うことを良く聞くのじゃぞ」


 ばばは、真剣な目つきでカリュースを見ると、並べられたカードの左端に手をかけた。


 「おぬしは自分の運命に逆らってはならぬ。たとえ、おぬしの周りにいる星々が、おぬしの巨大な運命に飲み込まれ消えてしまったとしても、おぬしは運命に逆らってはならぬのじゃぞ。


 逆らうならば……」


 左端のカードをゆっくりと返す。表に向けられたカードには、白い人骨が人の形をしており、その落ちくぼんだ目の中には、赤く、人の嫌悪感を誘う光が描かれていた。手には、巨大な鎌を持ち、鎌を持っている手とは逆の手には、人の生首が握られている──死神のカード。


 「運命に逆らわず、従うならば……」


 今度は、カードの右端に手をやり、そして、そのカードを返した。表を向けられたカードには、青い豪華なマントを付け、左手にはレッド・ルビーがはめられている杖を、右手には黄金の剣を握っている男の姿が描かれていた。

 その頭には、数々の宝石をちりばめた宝冠をつけ、威厳《いげん》に満ちた雰囲気を、全身に漂わせている、玉座に座った男──皇帝のカード。


 「よいか、運命に従うならば、おぬしには皇帝が付いておる。じゃが、運命に逆らうならば、死神がおぬしの後ろに付くことになるじゃろう」


 ばばは、そういうと、一呼吸おき、カリュースの反応を確かめた。


 カリュースは、顔には何の表情も出すことはなく、じっとばばの言葉に聞き入っていた。

 ばばは、安心したように目元を和らげると、再び言葉を続けた。


 「とにかく、儂は偶然ここに居ったわけじゃないんじゃよ。


 おぬしは、これから大きな転換期に入る。そのきっかけは、今日現れるじゃろう。そして、おぬしの探している人物は、北におる。

 じゃが、焦って北に向かうでない。


 おぬしの運命に大きく関わる紫の星が、南から近づいておる。その星を見つけてから、事を起こすのじゃ。


 全ておぬしのそばにある、白い星が運命の取り次ぎをしてくれる。

 白い星を信じるのじゃ。決して疑ってはならぬ。


 それから、カネム」


 ばばは、デスに向きなおった。


 「お前さんは、近い内にきっと儂を必要とする。その時は、儂がいるrということを、忘れるでないぞ」

 

 ばばは、それだけ言うと、カードをきり束ねて置いた。その目には、もはや先ほどの、北の魔女の、静かな、神がかり的な光はなかった。


 タロットは、その行く末に静かに口を閉ざしていた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。