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聖騎士少女の多難な任務  作者: いかぽん


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1/12

賊徒に襲われる村

 夜闇の中、村の入り口付近で、いくつもの松明の火が踊っている。


 今、村は賊徒に襲われていた。


「くくくっ……。さあお前たち、金でも女でも、好きなだけ奪いなさい。歯向かう者は殺しなさい。欲望に素直に生きることこそ、私たち人間の本懐なのですから」


 賊徒の頭目と思しき大男が、手下の男たちに告げる。

 勢いづいた賊徒は、応戦する村の男たちをなぎ倒していく。


 賊徒の数は、全部で二十人足らず。

 斧や剣、槍など思い思いの武器を手にし、革鎧や鎖かたびらを身に着けている。


 対する村人たちは、総数こそ百をゆうに超えるものの、女子供や老人を除けば三十人にも満たない。

 農具を手に戦うものの、まともな防具はなく、戦い慣れている者もほぼ皆無だ。


 しかも彼らは、賊徒に不意を打たれた。


 統率の取れた戦いなど到底できず、散発的な抵抗を行なう村の男たちは、賊どもの暴力によって次々と蹂躙されていく。


 また一人、鍬を手にした若い男が、賊の剣で切り倒された。


「あなた! あなたぁあああっ!」


 切り倒された男の妻は、別の賊の手で取り押さえられていた。

 妻は暴れるが、屈強な男の腕からはとうてい逃れられない。


 倒れた男はおびただしい血を流し、地べたを這いつくばりながら、賊の男たちを睨みつける。


「くそっ、貴様ら……こんなことをして、ただで済むと……聖騎士団が、貴様らを──ぐわぁああああっ!」


 皆まで言う前に、賊の剣が男の心臓を串刺しにした。

 男は口から血を吐き、体はやがて力を失い、瞳からは光が失われた。


 賊は男の背から剣を引き抜き、血を振り払う、

 男の妻が絶叫する中、ニヤニヤと笑う。


「はっ、聖騎士団がどれほどのもんだよ。来るなら来てみやがれってんだ」


「なぁに、聖騎士様だろうが、うちの大将には敵わねぇさ。『アレ』だっているしな」


 賊徒はさらに、村人たちを蹂躙していく。


 今宵、村人たちを救う者は現れない。

 力なき者たちは、強大な暴力の前に屈するしかないのが、この世の習いであった。



 ***



 ある爽やかな朝のこと。


 聖王国アルディシアの王都の一角に、庭で朝稽古をしている少女の姿があった。


「せいっ、やっ、はあっ!」


 齢十七ほどの少女は、はじける汗をきらめかせながら、一心不乱に剣を振るう。


 背まで伸ばされた輝くような金髪に、サファイアブルーの瞳。

 まだあどけなさを残した美貌は、異性ばかりか同性をも魅了しかねないほど凛々しいものだ。


 白銀色の軽装鎧を身に着け、盾をも構えた姿で剣を振るっているのは、実戦装備の重量感を体に染みつかせるため。


 細腕の少女でありながら、長剣を軽々と振り回すその姿は、年若い彼女が命気(オーラ)の力を使いこなすひとかどの剣士であることを物語っていた。


「ユニスちゃん、今日も精が出るねぇ」


「あ、セラおばさま。おはようございます」


 近所の知り合いから声を掛けられ、ユニスと呼ばれた少女は剣を鞘に収め、挨拶を返す。

 近くに引っ掛けてあった布を手に取り、額の汗を拭いた。


「稽古の邪魔になっちゃったかしら。これ、オレンジのジャムを作ったの。ユニスちゃんにおすそ分け」


「わあっ、ありがとうございます。稽古はそろそろ終えようと思っていたので」


 ジャムが入った瓶を手渡され、年相応の笑顔を見せるユニス。

 手渡した中年女性も、ほがらかな笑顔を返す。


「ユニスちゃんも本当、立派になったねぇ。ご両親が早くに亡くなっちまったときには、どうなるもんかと思ったけど。あたしたちもひと安心だよ」


「いえ、そんな。私など聖騎士としては、まだまだ修行不足の身です」


「でもこの間も、ヨシュアのとこのせがれの怪我を治してくれたって話じゃないか。剣だけじゃなく神様の奇跡まで使えるってんだから、大したもんだよ」


「ありがとうございます。このジャム、パンに塗っていただきますね」


 ユニスは礼儀正しく頭を下げて別れを告げ、自らの家の扉をくぐった。


 リビングで武具を脱いでから、魔道具の設えられたキッチンで手早く朝食の準備を済ませ、一人で食事をする。


 ジャムをたっぷり塗ったパンと、ハムエッグ、サラダとミルクを綺麗に平らげると、片づけをしてから再び武具を身に着けた。


 仕事に向かうため家を出ようとすると、扉の向こうからノックの音ともに、声が聞こえてきた。


「ユニス、おはよ。準備できてる?」


 扉を開くと、ユニスと同い年ぐらいの少女が立っていた。


 ゆったりとした褐色のローブを身にまとい、手には魔導士の杖。

 セミショートの銀髪と、エメラルドグリーンの瞳が、ユニスにも劣らぬほどの美貌を彩っている。


 ラヴィニアというのが、この少女の名前だ。

 ユニスの幼馴染みにして、無二の親友である。


 ただ親友と呼ぶには、少々難儀な性癖を持ってはいるのだが。


「おはよう、ニア。今日も早いわね。今日こそこっちが迎えに行こうと思ったのに」


「そりゃあユニスの綺麗な顔を、少しでも早く見たいからさ。朝から目の保養ができるんだから、寝坊助のボクだって早起きになるよ」


「はあっ、今日も相変わらずね。ニアだって綺麗な顔立ちをしているんだから、自分の顔を鏡で見ればいいじゃない」


「ふふふっ、自分のほうは否定しないんだ」


「その顔で謙遜はいっそ嫌味だって、ニアが言ったんじゃない」


「そうだっけ? 覚えてないけど、過去のボクはいいことを言うね。じゃあユニス、おはようのちゅーしていい? んー……」


「な、なにが『じゃあ』なのよ! こら、やめっ──このっ!」


 ──ごんっ。


 唇を近付けようとしてきた美貌の幼馴染みを押し返そうとし、それでも止まらないのでグーで後頭部を殴りつけたユニス。


 ラヴィニアは殴られた頭を押さえて屈み、涙目になった。


「痛ったぁ~……。ユニスが殴ったぁ~」


「はあっ、はあっ……! 殴りぐらいするわよ。まったく、こんなのが聖王国の誇る宮廷魔術師の一人だっていうんだから、世も末だわ」


「聖騎士のユニスに並び立てるように、ボクだって努力したんだよ?」


「よく言うわ。私が正規の聖騎士になるより先に、宮廷魔術師になっていたくせに。この天才が」


「ユニスも聖騎士になれたんだから、結果オーライだよ。それに人のことは言えないと思うけどな。十七歳で正規の聖騎士の資格を得たのって、今の騎士団長以来なんでしょ?」


「それはそうだけど……不毛だわ。行こう」


「そだね」


 幼馴染みの二人は連れ立って、王城へと続く道を歩んでいった。


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