7-1話『総務委員会からの試練』
時間は放課後、ある教室ではいつも通り委員会活動が行われていた。
「よーっし、とりあえずこれで一通り勉強は終わり!」
五年一組、総務委員会副委員長の夢咲 愛里の言葉で、周りの一年生はようやくだと安堵した。
場所は総務委員会の活動場所である元はただの空き教室の総務室。
総務委員会の活動内容は学校イベントの進行とその企画立案。あとは自分のクラスの管理など。
総務委員会に新たに入った一年生、三組から功雅と沙良、二組から咲弥、一組から悠真。
四人は入った日から今まで歴代の総務委員が考えた企画の暗記と、企画立案の仕方、進行の仕方など、運営の勉強をしていた。大体約一か月くらいの期間で。
その勉強が今日、やっと終了したのだ。
「はぁ、疲れた。やっと地獄の勉強が終わるー」
「日中も勉強して、放課後も勉強して、ほぼ毎日勉強三昧だったもんね。僕も疲れたや」
「よく言うよ。暗記も勉強も一番最初に出来たのは悠真のくせに」
腕を伸ばして背筋を伸ばす功雅。自分で言うのも違う気がするが、どちらかと言えば勉強は出来ない方の功雅にとって今までの委員会活動は苦痛であった。
隣にいる悠真はそう言いながらも、その顔はどこか余裕そうだった。だからか、少々気に障った。悠真は全てにおいて器用だからだ。
「はいはい、ちょっと喧嘩する気配を感じたよ~。抑えて抑えて」
遠くに座る愛里からその言葉が飛んできて、功雅は口を尖らせながらも悠真からプイっと横を向くことで小さい怒りを抑えた。
「でも、今までの先輩たちが考えたイベントを完全に暗記しないでよかったのが私は救いだったかな。暗記が得意なわけじゃないから」
「私は学校に来る前から家でずっと勉強してたし、全然平気!」
「……さすがに全部の暗記はな。僕もなんとなく一通り覚えてるけど、詳細は全然分かんない」
席が隣同士の咲弥と沙良の会話に、さっきまで机に突っ伏して寝ていたはずの三年生の凛空が入る。
総務委員会に入った初日に配られた冊子。それは記録書みたいな役目もあり、今までの歴代学校イベント全部が書いてあるものだ。それを使い、今までのイベントの詳細を覚えていく。そんな日々だった。
「さて」と言って席から立ち上がり顧問の椎名先生と一緒に何かを用意してる愛里たち二人を一年生四人は眺めていると、
「今日は一年の皆にとって試練と言っても過言じゃないよ!」
愛里はそう言って二人で用意してたものを取り出し、皆に見せるように広げる。それはこの勉強中に嫌というほど見た、まだ何も書かれていない白紙の企画書だった。
「これから四人には企画を考えてもらいます! ――四人だけでね!」
「企画書配るぞー」
愛里の宣言に四人は目を丸くしたまま、横から椎名先生から企画書を貰う。
四人が一番驚いたのは他でもない愛里が言った『四人だけで』、という言葉だ。その言葉通りなら、
「総務委員会は代々、一通り勉強が終わったあと一年生だけで企画を考えるっていう決まりがあるの。まずルールは、副委員長の私と顧問の椎名先生は一切関与しないし、しちゃだめ! だから私達は助言もしないし、注意とかも言わないからね。四人が一生懸命考えたっていうのが重要なの」
やっぱり、愛里が先ほど言った通り、『四人だけで』というのは言葉通りの意味だった。
何も書かれていない白紙の企画書を眺めながら、功雅はこの先の不安に超心配になりそうだった。自分も含めて四人もいるから、アイディア出しとしては多分足りるはずだとなんとか自分を勇気付けた。
「で、もちろんだけど既存の学校イベントをそのまま真似するのは当然禁止! あと友達に手伝ってもらうのも無し! 友達の言葉からアイディアを得たとかならいいけど、一緒に考えてもらうのはだめだよ。期限は五月以内まで。四人が考えてくれた企画は七月にイベントとしてやるつもりだからよろしく!」
愛里は親指を立てて明るく言う。なんだか愛里の笑顔が無責任にしか感じないのだが、総務委員会は代々、という言葉を使っていたから凛空も愛里も既に通った道ということだろう。
今日の委員会は残りの勉強とその説明をするためだったらしく、久しぶりに早い時間に委員会が終わった。
その後四人は移動し一年一組、悠真の教室に集まった。期限は五月以内でまだ三週間もあるが、後回しにすると後々絶対辛いから、今日はどうやって企画を考えるか。それだけでも考えておこうということで解散せず集まることに。
「とりあえず集まったけど、まず功雅と沙良は四月の終わりごろに三組の皆で花見をしたんでしょ? それも一種のイベントなわけだし、二人はそれをどうやって思いついたの? まず僕はそこを聞きたいな」
椅子を集めて座ると同時に悠真の発言で功雅と沙良に目が向けられる。だが実際にあれは二人で考えたものではない。
「いや、あれは俺らがっていうか沙良が強引にやりたいって言うから……」
「ちょっと! まあ間違ってないけど、言い方が酷いじゃないの!」
頬を膨らませながら距離を詰めてこちらを見つめる沙良と目が合う。功雅は失言してしまったなと、内心焦りながら沙良とこれ以上目を合わせないように逸らす。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。それで、沙良はどうやって思いついたの?」
沙良の両肩に手を置いて、なんとか沙良を宥める咲弥。だけどそのおかげで不満は残ってそうだが沙良も離れてくれた。
「んー……あれはなんというか、桜と花見っていう単語が合わさって思いついただけだし……春と言ったらお花見なんでしょ? 私は今まで一度もやったことはないけど言葉としては知ってたから」
沙良の言葉に何も進展がなくて三人は頭を悩ませる。一人、悠真は今までの歴代のイベントが書かれている冊子を見ながら、
「二人がやった花見はイベントではあるけど、総務委員会が考えるものとは違う。総務委員会が考えるのはどちらかといえばゲーム、遊び。……これは季節とか、僕らの幼少期の思い出とかから何か着想を得た方が早いのかな……」
考え込んでいるあまり、冊子を見つめながらまるで独り言のように呟く悠真を見て咲弥は、
「とりあえず、今日は各々で考えてみるっていうのはどう? それで考えたものを明日の放課後に談話室に集まって発表し合うの。明日は委員会もないから時間もあるし!」
今日は何もアイディアが浮かばずなため、全員咲弥の提案に賛成しその後解散となった。
◆◇◆◇◆◇
夜ご飯、入浴、そして宿題も終えた功雅は寮の自室で机に向かう。
部屋には同室の伊月と彼汰もいるから企画書は出さずに、ただの白紙のプリントを広げた。
さっき言っていた悠真の言葉を思い出し、まず、自分の幼少期を思い浮かべる。何か自分の記憶に役立つものがあれば、そこからアイディアが広がるかもしれない。
同時刻、沙良、咲弥、悠真も同じように寮の自室の机に向かっていた三人はそれぞれイベントを考えていた。功雅と同じように自分の幼少期を思い起こしていると――四人は同時に気付く。
(……あれ、まともに誰かと遊んだことあるっけ?)
――そう、これこそが四人の共通点と言っていいだろう。四人は、誰かとまともに遊びもゲームもしたことがないのだ。
(うわ、これ結構致命的なんじゃないか?)
功雅は幼少期、周りより顔が少し怖いから強そうという理由で他の男子たちと戦いごっこという名の殴り合いを何回も強制させられてから周りのノリと離れるようになり、人気のない場所で本を読んだり昼寝をしてたりしてた。戦いごっこのせいで無駄に怪我をするからというのもある。
戦いごっこは冊子に書いてある遊びとはまったくと言っていいほど遠いもの。これはアイディアとして出せない。
(そうだった……すっかり忘れてたわ)
沙良は第二十区画の武器製造を司る家系の娘。当主になるために家の敷地から出ることを禁じられて、ずっと勉強してきた。そのため、同年代や友達といった存在の交流がそもそも学校に来るまで皆無だった沙良にとって、遊びなんて一番縁遠いもの。優依が同じ区画出身だと知ったのも学校でなのに。
(う~ん……嫌なところに気付いちゃったなぁ)
悠真は昔から器用でなんでもできるせいで頼られることは何回もあれど、友達のような距離感の存在が一人もいなかった。だからいつも一人で家で勉強するか、学習校舎か図書館に入り浸ってる毎日だった。もちろん誰かと一緒に遊んだこともない。
(ど、どうしよう……)
咲弥は昔から姉が誰より優秀だと一番妄信的に信じていた。当時は姉以外の人を内心見下していた節も少しあり、そのせいで友達のような人は一人も作らなかった。だからといって姉と一緒に遊ぶこともほぼなく、ただ優秀な姉の邪魔にならないようにと徹底していたため誰かと遊んだことはないに等しい。姉とは最後は――あ、苦い記憶が思い返してきた。
と、言うように四人は誰かと一緒に遊んだ記憶が一切なかった。
「功雅、そんな机に突っ伏してどうした?」
ハッとした功雅の隣には心配そうに見る伊月がいた。さっきまで伊月はベッドに寝ころんでいたはずだが、遠目から見ても自分の様子がおかしかったのだろうか。伊月の表情を見るに心配をかけられていたらしい。
「あー……伊月ってさ、学校に来る前って何して過ごしてた?」
ちょうどいいから伊月の昔のことも聞いてみることに。伊月なら色々な人と遊んでいそうだし、初日の自己紹介のときスポーツが好きとも言っていたからそんな感じで遊んでいそう。これを本人に直接聞くのはルール違反ではないはず。
「何して? えっと、まあ学習校舎通ってー」
「あ、そういうんじゃなくて、誰かと遊んでたりとかした?」
「遊んで?」と聞き返した伊月は顎に手を当てて大げさに考える素振りを見せたあと、軽快な口調で、
「昔は兄ちゃんと遊んでたことが多かったかな。軍の教育機関を卒業して兵士になってからは妹と遊んだりしてた!」
「お前兄と妹いるんだな」
「うん、妹は女の子らしい遊びが好きというか、おままごととか俺の髪いじったりするのが好きなんだ」
話を聞いている途中で伊月の長い髪が目に入った。腰まで伸びてるその髪の毛は普通の男性ならここまで伸ばすことはない。功雅的にはすごく邪魔に感じる。
「もしかして……お前の髪が長いのって妹のためだったりする?」
「そそ! 髪結んでみたいってお願いされてさ。だから頑張ってここまで伸ばしたんだ」
自分の髪を両腕で鷲掴みして高く上げて見せてくる伊月に笑いそうになる。
「功雅は兄弟とかいないの?」
「え? ああ、ねえやがいるけど」
「へぇー、お姉ちゃんいるんだ! 功雅のお姉ちゃんはどんな……」
「ちょちょちょ、話がどんどんずれてってる!」
功雅は誰かと遊んだ経験がまったくないため、たまたま伊月が近くに来てくれたから色々聞いてみようと思ったのにどんどん話が逸れていく。
「ゴホン! 兄弟以外で誰かと遊んだりは?」
「えーっと、近所に住んでる人達とバスケしたりするし、小さい子達と鬼ごっこもしてたし、学習校舎に行ったときに知らない人も集まってドッチボールしたりしてた!」
「妹が絡まなければお前の遊びは大体体動かしたりとかスポーツなんだな。お兄さんとはどんな感じで遊んでた?」
「さっき言ったこととあんまり変わんないよ? 兄ちゃんと遊ぶってときもサッカー、野球……そんな感じだったなぁ」
伊月との話で分かったことは、まだ一か月くらいしか学校生活を共にしていない功雅でも伊月の幼少期って多分こんな感じだったんだろうなと想像したことが大体合っていたことだった。
「彼汰、お前は昔何して……」
「俺はずっと訓練していたし、九歳から軍の教育機関を受けてた。誰とも遊んだことはない」
「ですよね」
ついでに彼汰もと思った功雅は、机で宿題と予習をしていた彼汰に声をかけて聞いてみるがばっさり切られるのだった。
結局功雅含め、四人は何もイベントのアイディアは出ず、そのまま翌日を迎えることとなった。
◆◇◆◇◆◇
「……で、皆、何かアイディア出たか……?」
翌日の放課後。授業や教室掃除、それぞれ終わらせ四人は寮の談話室に集まっていた。
椅子に座り、おずおずと口を開いた功雅の一言に、他三人は苦笑いしながら言葉が詰まったみたいに口をつぐんでいた。
四人の結果は惨敗。各自考えてみたもののアイディア元になる記憶がないため、まだ始めて一日しか立っていないが非常に難航していた。
だが何も考えを持ってきていないなんて知られたら、周りになんて言われるか。
そんな考えがよぎり、四人は『何も思い浮かばなかった』という一言を言い出せずにいたのだった。
これはプライドのようなものなのだろうか。四人はせっかく集まったのに、お互いが相手になんて言われるか。どう詰められるか不安で黙ったまんまの硬直状態が続いた次の瞬間、咲弥がそっと口を開いた。
「……あのぉ、じ、実は……」
口を開いた瞬間、咲弥は三人の方を向いて勢いよく頭を下げる。
「ご、ごめん! 昨日、私が各々で考えてみようって皆に提案したのに。私、ぜ、全然、何も思いつかなくて……! わ、私、誰かと遊んだこととかまったくなくて! それで、何にもアイディア、浮かんでこなくて……」
俯きながらも全てを話した咲弥を見て、悠真は表情が緩み、
「……実はさ、僕もなんだ。僕も咲弥と一緒で誰かと遊んだことなくて。友達も、廉が初めてでさ……僕も昨日一生懸命考えたけど、何にもアイディア思いつかなかったんだ」
眉を下げて、恥ずかしそうに頭を掻きながらそう伝える悠真に、功雅も沙良も気が付けば口を開いていて――、
「ごめん。俺も、その……まったくもって」
「わ、私も……」
咲弥を始めに、四人は昨日のことを包み隠さず伝えていた。
その事実に四人は伝え終えたあと、顔を見合わせて、次の瞬間には笑っていた。
変に互いを意識し過ぎて、何も思いつかなかったという弱みを伝えられずにいた四人。これはお互いが敵同士であるから。
どんな些細なことでも弱みを握られたら、こちらが劣勢になってしまう。そんな当たり前の感性が邪魔をして、本当のことを伝えられずにいた。
「ふふふっ、三人も思いつかなかったのね。私だけかと思ってた」
素直に言えば、同じ仲間がいたのに。
沙良はそんな自分が馬鹿らしく感じた。
四人はひとしきりに笑ったあと、残った問題を忘れることは出来ず、再度姿勢を正し顔を見合わす。
「笑っちゃったけど、問題は残ったままなんだよな」
「うん……どうやってアイディアを練ればいいんだろう。私達以外の誰かを引き入れて一緒に考えてもらうのはだめなんだもんね」
「ああ、夢咲先輩も椎名先生も頼れないし……はぁ、こういうとき伊月と來香がいたら、あいつら無限にアイディアを出してくれそうなのになぁ」
「私も果帆や世羅がいてくれれば、すんなり企画も決めれそうなのに……」
そうやって他人任せに身近で適任そうな人物の名前を出しても、今この場で一緒に考えられないことは功雅も咲弥も分かっている。
だが足りない想像力を担ってくれそうなのはこの四人だ。普段から明るいし、元気な四人だからこそ、遊びやゲームは大好きなはず。今この場にその四人がいれば、あの四人だったらやりたいこと、やってみたいことが多すぎてアイディアを得るどころかありすぎて困る、なんて自体にもなりえそうだ。今はそんな困ることがとても必要なのだが。
「……とりあえず、このままここにいても何も思いつかないだけだろうし、少し学校を見て周ってみない?」
悠真の提案に、誰も反対する者はいなかった。




