6-1話『収穫日』
今日の委員会活動はとてもいい天気で過ごしやすい気温。暖かくて太陽の光に照らされながら野原でお昼寝だって出来てしまいそう。
自然委員会の活動中の翠は五年生で副委員長の結城 陽向と一緒に、自然委員会が管理して育てている畑の世話をしている最中。
他のメンバーは花壇の世話へ。ようやく畑に植えられていた野菜たちが育ってきてもう収穫できそうに感じる。自然委員会の体験中はまだ小さかったのに。
「この野菜たち結構育ってきてますよね。もうすぐ収穫するんですか?」
「ああ、去年も大体この辺りで収穫してたしもうそろかもな。渚先輩の作るご飯はうまいぞ~。俺もめっちゃ楽しみ!」
「僕が自然委員会の体験に行ったときもそんなこと言ってましたよね。僕も気になります」
「美味しいって言っても渚先輩一人で作るわけじゃなくて俺ら全員で協力して作るから、この委員会にいると自然と料理上手になれるぞ」
委員会体験週間のときも言っていた。自然委員会は自前の畑で育った野菜を収穫して皆で食べるのだと。
この学校にいるとご飯は食堂で作られてるからそこで食べるし、家と似ている部分もある。
「去年は何を作ったんですか?」
「えっとなー、ご飯と玉ねぎの味噌汁、ポテトサラダ、アスパラを醬油とバターで炒めたやつとキャベツと肉炒めたやつ、あとその他諸々だった気がする」
「へぇ~、結構な品数ですね」
「でも少人数で食べるわけじゃないから、意外とペロリといけるぞ。気付いたらおかずなくなってた! ってこともある」
この沢山の大きくなって美味しそうな野菜が更に料理して美味しくなって食べることが出来るのだと考えると、まだ夜ご飯はまだなのにお腹が空いてくる。
想像することで更に空腹を促してしまうことに気付き、翠はぶんぶんと頭を振り一旦このことを考えるのはやめようと、畑イコール料理に繋がらないように委員会の活動中だということを頭に入れ、作業を開始する。
だけど今日ビニールハウスに入ったから分かるが、あまりすることはない。だから渚もいつもなら花壇も畑も皆で一緒にやるのに今日は別行動にして作業をすることになった。
いざビニールハウス内を見渡してみると――広い、広すぎる。
翠はあまり嫌いな食べ物はないし、なんでも食べられる方ではある。渚が作った料理も食べてみたいが、このビニールハウス内にある全部の野菜を自然委員会のメンバーだけで食べるのかと思うと果てしなさすぎて疑問が沸いてくる。
「このビニールハウスにある全部の野菜を委員会メンバーだけで食べれるのかな……?」
「大丈夫大丈夫、俺らは全部食べるわけじゃないから」
「わっ!」
ぽそっと呟いた言葉は、向かいで作業してたはずの陽向が翠のすぐ近くまで来ていたことによってばっちり聞こえていた。
横から急に聞こえてきた声に驚き、叫び声と共にぴょんっとその場から飛び跳ねてしまう。
「び、びっくりしました……!」
「ごめんごめんって」
笑いながら謝る陽向を見ていつも通りの陽向だなと思い、不本意だけれども急に驚かされたことについては言及しないものとしよう。
「全部食べるわけじゃないって……野菜は放置してたら腐っちゃいますよ? それか、冷凍していつでも食べられるようにするとかですか?」
「それは……」
「――陽向、翠、サボらず作業してるー?」
再度問われた翠の問いに陽向が答えようとすると、明るい声がそれを遮った。
声がしたビニールハウスの入口付近に目をやると、六年生で自然委員会委員長の伊集院 渚、三年生の星奈 心優、同じ一年生の望月 叶奏が立っていた。
声をかけたのは渚。もう花壇での作業を終わったような雰囲気だ。
「こっちはもう終わったから様子見にきたんだけどどう? 終わってなければ僕達も手伝うよ」
「大丈夫でーす。ちょうどこっちも終わったところなんで!」
陽向の返事を聞いた翠は急いで使った道具などの片付けを開始。二人が片付け終わると、渚は翠と叶奏を抱き寄せ肩に手を乗せる。
突然の行動に二人は互いに目を合わせ首を傾げる。次に渚の方を見るように上を見上げたとき、
「今日はお知らせ。――今週の休日にこの畑の野菜を収穫しようと思う! その後は皆で調理して食べよう」
「やったー!」
「楽しみですね!」
渚の言葉に手を挙げて喜ぶ陽向に、そんな陽向の方を見て一緒に喜ぶ心優。
先輩方二人のリアクションが別に初めてでもないのに新鮮すぎて一瞬言葉を理解出来なかった翠と叶奏。
「……あ、さっき陽向先輩が言ってたやつですか!」
「委員会体験週間でも言ってた。私、少しだけ楽しみだったの」
「ふふ、二人は初めてだよね。さっきも言った通り今週の休日にやるよ。もう食べ頃だからね。朝ごはんを食べたら軍手を持ってここに集合」
「はーい!」と、渚除く自然委員会メンバーの声が揃い元気良く返事が響いた。
◆◇◆◇◆◇
渚のお知らせから数日。今日はやっと休日。ということは、今日が畑の収穫日だということ。
朝ごはんを食べたらすぐ集合と言っていたため、朝早くから野菜を収穫して皆でそれを料理して食べるのだろう。
いつもの三人、彗斗と諒の三人で食堂に向かう。
着いたらすぐに朝ごはんをもらい、即効で食べる。食べる速度が早い方でもない翠はいつも通りのゆったりとしたペースで食べれば遅れてしまいそうだと感じたため、慣れない早食いに挑戦。
急いでご飯を口に頬張り、素早く喉に流し込む。
いつものような食べ方じゃない翠にいち早く気付いた彗斗と諒の二人は目を見開き、少し焦ったように、
「翠、なんで今日そんなに早く食べるんだよ。ちゃんと噛まないと喉詰まらすぞ?」
「彗斗の言う通りだよ。翠、今日自然委員会以外に何か急ぎの用事あったっけ? もうちょっとゆっくり食べた方が……」
「大丈夫! 遅刻しちゃうかもしれな……ゴホッゴホッ!!」
「あーもう、言わんこっちゃない!」
二人の心配のあとに見事に喉を詰まらせそうになり咽る翠。彗斗は予感の的中に呆れのような態度を見せつつ、翠に対してそう言いながらもなんだかんだ背中をさすってくれる。
諒は置いてある水が入った翠のコップを渡す素早いファインプレーを見せた。
喉の苦しさから一気にコップの水を飲み干し、最後は大きいため息。二人の早い対応のおかげで翠は助かることができた。
「あ、ありがとう……二人とも」
「ったく、言った側から。翠は昔からあんまり早食いする方じゃないんだから無理しちゃだめだろ」
「とりあえずよかったよ、一安心」
そう言ってずっと背中をさすってくれてる彗斗にもう大丈夫だよ、と断りを入れる。
両隣から飛ぶ二人の心配の声にちゃんと反省し、無茶な早食いはやめようと思った翠だった。
一度無茶をしたため、もう一度しないかどうか心配する二人の監視の目がきつかったが、その中でもなんとか早く食べ切った。その場で二人とは別れて集合場所に向かう。
「――翠くん! 私も今向かうところだから一緒に行こう」
「あ、星名先輩。はい、一緒に行きましょう!」
廊下を歩いていると後ろから心優の声が。翠は承諾して二人で集合場所に向かう。
着くと集合場所には既に渚と、詠田先生が。
「伊集院先輩に詠田先生~!」
「え、詠田先生もやるんですか?」
手を大きく振りながら二人の元に歩く心優と、顧問の先生ではあるがいないことの方が多い一年一組の担任でもある詠田先生がいることに驚く翠。
「そうだよ、自然委員会の『皆』でやるんだからね。詠田先生も顧問なんだからメンバーの一人でしょ?」
「私はっていうか、委員会は自主性を高めるために基本生徒たちにやり方も方針も任せてるから。顧問と言ってもあまりそれらしいことはしないから翠くんが驚くのも当然ね。ちゃんと顧問してるのって、保健委員会とか監査委員会とか総務委員会とか……あ、あと晴峰先生は元から本好きなのもあって、図書委員会にはよく出入りしてるみたい」
渚の正論な説明に確かに、と頷くしかない翠に、詠田先生から顧問事情なるものが説明される。
委員会体験週間のときは全部の委員会に顧問はいた。だけどあまり話しかけてこず、遠くから見守る立場のような感じだった。詠田先生の言う通り、いないことの方が普通なのだろう。
「先輩、先生!」
「遅れちゃってすみません」
明るい声でこちらまで来る陽向と、最後にやってきたということで一番最初に謝罪が出てくる叶奏。
翠と同じく、ここも二人でやってきたらしい。
「全然大丈夫だよ。よし、全員揃ったし、収穫開始だ!」
ビニールハウスに入り、全員軍手を装着。スコップやハサミなどの道具の用意も完璧。
いつも第七区画の学習校舎で誰もやっていない花壇の世話はやったことがある。学校に来てから畑の世話も経験済み。だけど野菜の収穫というのは初めてで、翠は少しワクワクしていた。
「アスパラ美味しそう」
「皆よく育ってるね。後で調理して食べるのが楽しみ!」
収穫したアスパラガスを手に取ってその長さに美味しそうと零す叶奏と、隣で一緒に作業している心優が明るく反応。畑に生えている野菜全部肥えて育っている。見た目だけでも美味しそうだ。
「見て! 先生、詠田先生見て! めっちゃでっかいじゃがいも採れた! これ俺が食べたいなぁ」
「今年の春野菜は全部美味しく育ってそうね。あまり傷んでる野菜が見当たらないから」
土を掘ってじゃがいもを収穫する陽向。収穫途中、彼が見つけた中でも一番大きいじゃがいもを見つけ、興奮のあまり隣にいる詠田先生に嬉しそうに報告する。そんな詠田先生は微笑みを崩さず、周りを見渡しながらそう言った。
「キャベツ一玉すごく大きい! ……さっきまで色んな野菜でびっちり埋まってたのになぁ。まっさらになっていくと少し寂しいですね」
「そうだね。次は夏野菜を植えるんだよ。だから、今日みたいな景色はまた見られる。次もちゃーんとお世話しないとね」
収穫していく内に、段々とさっきまでびっちり野菜で埋まっていた畑を思い出し、ちょっぴりまっさらになっていくことに寂しさを覚える翠。渚はそんな翠を見て、次の予定を話す。
『次も』と言われてなんだか胸が暖かくなった気がした。
皆で力を合わせて、ビニールハウス内の畑の野菜を全て収穫完了。
広さはあまりないけれど、びっちり植えられている野菜たち。とても疲れたが一つよかった点は、色々な種類の野菜が植えてあったから飽きずに全部収穫できたことだ。
翠たちは持ってきていた水筒を飲み、一息つく。
まだ本格的な夏ではないから暑さで疲れることがないのもいい点だ。そう思うと、次渚が言っていた夏野菜。これは当然夏のどこかで収穫するのだろうし、大変だ、と人知れず感じながら冷たい水を味わう。
「よし、そろそろ休憩は終わり。次は野菜たちを食べる用と持っていく用に分けるよ。ダンボールを何個か持ってきたから皆で詰めよう」
数十分休憩したのち、渚が立ち上がり手を叩きながら次やることについて促す。
「先輩、ここにあるダンボール全部小さめのものばかりですけど、大きいやつはないんですか?」
「大きいダンボールに詰めちゃうとこっちが持てなくなっちゃうから小さいサイズしか持ってきてないんだ」
皆で手分けして収穫した野菜を詰めているときに思った疑問を渚に聞くと、翠に説明しながら渚は実演するように詰め終わったダンボールを持ち上げる。
翠は試しに隣に置いてあった詰め終わったダンボールを持ち上げてみると、持てはしたが想像以上の重さに目を見開く。
「ふふ」
目を見開いて驚く翠が面白かったのか、隣から渚の笑い声が聞こえた。
これをこれよりも大きいダンボールに詰めていたと思うと、沢山入りはするけど持つ方が大変ということを味わい、そっと渚の言っていたことを理解するのだった。
収穫した次はダンボールに詰め――詰める作業が終了し、周りを見渡すと沢山のダンボールがまとまって転がっていた。翠はやりきった達成感と共に汗を拭うと、
「あの、ここにあるダンボールはなんなんですか?」
少し遠くから叶奏の声が聞こえ、そっちの方に目をやると沢山のダンボールから離されるようにダンボールが二箱置いてあった。
叶奏がそれを持ち上げようとしたときに力を入れていたため、あれにも収穫した野菜が入っているのだろう。
「それが僕らが食べる分だよ」
「え、それじゃあここにある野菜たちは……?」
渚の説明に、翠は素早く目の前に置いてある野菜が入っている沢山のダンボールの方に目をやる。
ダンボールの大きさからして自分たちが食べるのは収穫した三割か二割程度しか残っていない。じゃあ残っている大量の野菜はどうなるんだという話になるのだが。
「これからダンボールを持って食堂に行くよ」
「私達が食べる分の野菜は私が持っていくわ。置いてきたら私もそっち手伝うから」
「はい、ありがとうございます」
渚がお礼をすると、二箱ひょいっと持ち上げて一足先に詠田先生は校舎の方へ。
「よし、皆無理しない程度にダンボール持って。早速食堂にお届けしようか」
陽向と心優の元気な「はーい」が響き、陽向は二箱、心優は一箱持ち上げる。それを見た翠と叶奏も一箱づつ持ち上げる。
皆それぞれダンボールを持って、校舎に入る。食堂に辿り着き、渚は迷うことなく翠達が一度も入ったことない食堂のキッチンの方へ向かう。
入っていいのかと思っていると、
「日葵さーん、収穫したての新鮮春野菜をお届けにきました~」
「はーい、今行きまーす」
キッチンを覗き込み大きな声で渚が言うと、キッチンの奥の方から女性の声で返事が響いた。




