3-4話『保健委員会と安全委員会の適正』
盛り上がる話題は一旦置いて、話を戻し伊月の話に。
時間は遡り委員会体験週間四日目の木曜日。伊月、彼汰、功雅の三人はその日見学する委員会は保健委員会。
伊月達は木曜日の委員会体験で初めて他のクラスの人達と一緒になった。
集合場所の保健室に着くと保健委員メンバー四人と先生二人、そして他のクラス男子二人、後の自己紹介で一年一組のクラスの男子達だと分かった。
「あ、こんにちは! 三人だから……君たちが三組の子達だね。……よーし、一年生達全員揃ったから委員会始めよっか!」
伊月達に声をかけた上級生の水色の髪をミディアムにしている女の子。少し癖毛がついていてちょっと気になるところだ。
「一年生の皆、保健委員会にきてくれてありがとう! 私は六年二組の橘 水萌です。保健委員会の委員長やってます! よろしくね」
先ほど伊月達に声をかけた上級生の女の子が保健委員会の委員長だった。水萌は癖がついた髪を押さえながら自己紹介をする。水萌自身も癖毛を気にしているのかも。
にへーっと頬を緩ませる表情は場が和みそうな笑顔で自然とこっちもほっこりする。
「五年一組、保健委員会副委員長の御山 快斗。よろしくな」
水萌の隣にいる金髪のスラッとしてる上級生の男の子。今見渡す限り見学者一年生の除き、先生も含めてこの空間には女の子、女性ばかり。快斗は唯一の保健委員会の男子といえる。
委員会体験週間の説明と各委員会の説明をしてくれた小豆沢先生が言っていた通りだ、保健委員会は女子のメンバーが多いって。
「四年二組の闇堂 雪華。よろしく」
一番保健室の入り口近くにいた上級生の女の子。容姿は黒髪をショートだと思うけど横髪が長い、言ったらヘンテコな髪型をしている。
そしてこの空間で一番異様な雰囲気を纏っている女の子でもあると直感した。瞳には輝きがない、自己紹介の声色が低い、彼汰と同じで無表情。だけど彼汰と同じじゃない。
雪華は何かしら抱えてる。そう感じるには充分だった。
「二年一組の和実 晴琉です。よろしくお願いします!」
黄緑の髪を三つ編みハーフアップにしている下級生の女の子。ぱあっと笑顔で自己紹介する晴琉は水萌とまた違う笑顔で皆をほっこりさせる。
「保健委員会顧問の久遠 雄哉よ。普段は保健室の先生をしているの。皆、よろしくね!」
保健室入って奥に置いてある机に座っている白衣を着た先生。茶髪をミディアムにしているおそらく男性の先生。にしては口調も髪型も女性寄り。だが久遠先生の身長が小豆沢先生と少ししか変わらないように見えるため多分男性。
「四年二組の担任、保健委員会の副顧問の来栖 灯です。皆よろしくね!」
雄哉の隣に立っている金髪を長さはミディアム、髪を三つ編みハーフアップにしている女性の先生。穏やかな雰囲気を纏っている先生で、側にやってきた雪華の頭を優しく撫でている。その雪華の表情は心なしか柔らかくなったような気がした。
「一年一組の羽鳥 悠真です。よろしくお願いします」
「い、一年一組の、影澤 廉……です。よ、よろしくお願い、します」
伊月達も自己紹介をした後一組の二人も続いて自己紹介をした。
悠真は青色の髪をした男の子で緊張している廉とは対照的にそんな素振りもなくサラッと自己紹介をやってのけた。
委員長の水萌から保健委員会の活動内容と今日やることの説明が入る。
保健委員会の活動のほとんどは小豆沢先生が言っていたことを同じ。だが『薬草・傷薬の管理』は水萌から新たな言及が。それは薬草・傷薬は山に行って直接採取することもある、ということだった。薬の類は学校の備品として定期的に入ってくるらしいが、保健委員会の意思で自分達で山に入り採った薬草も薬として使用することもあると言っていた。
今日やることは保健室に置いてある医療道具の手入れ、備品の整理など色々。
水萌が棚から出した医療道具をタオルで拭いたり、今日入ったばかりの備品の整理を行うことに。取り扱う物は全部実際に使うものでもあるため、一年生は全員保健委員一人が付いて作業することに。
その時に伊月は悠真と一緒に作業していたのだが、
「あれ、これどこにしまうんだっけ」
「包帯は全部こっちの箱だよ。そのハサミはこっち」
二人がしていた作業は備品の整理。悠真は側に付いている保健委員の快斗に教えられたこと全て一回で覚え、同じ見学者のはずなのに伊月が悠真に教えられているという光景が誕生した。
その後は特に悠真自身何も失敗なく、整理、手入れ仕事を終わらせていたのだ。全て完璧で、非の打ち所がない。伊月はあの日だけを見ると悠真には短所が存在しないように見えた。
・・・・・・
「へぇ~、すごい……」
「わー、すごい!」
話し終わった伊月を見ながらその光景を想像して翠と來香は『すごい』それしか言葉が出なかった。
「いやー、すごいよな。保健委員の人達も超びっくりしててさ。悠真、一緒にいた御山先輩に何も言われないでミスなくやりきったんだぜ? 本当にすごいよな!」
翠と來香はうんうんと頷きながら気付けば小さめな拍手をしていた。それだけ完璧な性格をしているということ。ミスなく、逆に伊月に教えられるのは本当にすごいことだと思う。
「えっと、それで金曜日にー……あ」
伊月がそう言った瞬間、何かに気付き言葉を零した。
伊月の目線の先には寮の入口。入口の側にいるのは彼汰だった。彼汰は図書室帰りだろうか、手には数冊の本を抱えている。
彼汰を捉えた伊月は「ちょっと呼んでくる!」と言って席を立ち彼汰の元へ。
「彼汰呼んできた!」
「森蔦に雛本……三人はここで何をしているんだ? 見る限り三人で集まって宿題をしているわけではなさそうだが」
引きつれた彼汰を伊月は椅子に座らせ強制的にこの輪に入れる。何か目的があって集まっているわけではなさそうな三人に彼汰は目を丸くさせ首を傾げながらそう聞く。
翠が趣旨というかこういう目的があって集まっていると言うと、彼汰は「情報収集か」と納得していた。
「ねえねえ、彼汰くんが持ってる本は図書室で借りてきたの?」
「ああ、俺は安全委員会に選ばれたからな。あまり他区画の奴らを守る意味が分からないが、それで俺自身が襲われたらここで知見を広めるという目的が達成できない」
無邪気に聞く來香をよそに、やっぱり彼汰は翠より根っからの兵士としての思考を持っている。軍の教育機関を卒業した彼汰だから自分の区画を守ること、戦うことについてよく分かっている。
「安全委員会は主にお前ら生徒を守る仕事。俺は軍の教育機関を卒業しているし、多少の年齢的な差でも上手く戦える自信はあったが……二年の安全委員の生徒と訓練をしていたとき、俺は成す術もなく負けてしまった」
「えーーーー!?」
彼汰以外の三人は口を揃えて驚いた。中でも一番声を上げて驚いていたのは伊月。
「実技で組手してたとき、全員とやっても一回も負けなかった彼汰が!?」
「ああ」
驚いたそのテンションで問いかける伊月に彼汰はいつも通りの声色で返す。
だけども驚くのも当然だった。この前実技の授業で組手をやったのだが、強すぎる彼汰に美園先生が全員と一回ずつやってみろ、と言われやった結果、全員彼汰に成す術もなく負けていったという話だ。
「俺の相手は安全委員会の二年の女子だったんだが、力も教育機関で学んだことも、相手は全部俺に勝らなかったのに負けてしまった。……多分、経験の差だと思う」
「経験?」
聞き返した伊月に、
「俺の予想だが……俺達一年以外の安全委員は――おそらく全員人を殺したことがある」
彼汰の言葉に三人今度は驚きで声が出なかった。
自分達の区画以外の人達を倒す、イコール殺すことを目標にしている皆。そのために兵士になるのだから。彼汰が言った安全委員は人を殺したことがあるというのは状況的に学校に現れた侵入者のことだろう。
「その経験の差……ってこと?」
「ああ」
少し控えめに聞く翠にこれまたいつも通りの声色で返す彼汰。
そういう経験は翠達も必須だ。いつか兵士になるから。整備委員会の体験で悟が言っていた『安全委員は全員下級生でも銃を所持できて、実弾も持てる』と。つまりはそういうことなんだろう。
「その敗北のおかげでまた自分を見直さなければと思って、図書室で使えそうな本を何冊か借りてきたんだ。経験はこれからいくらでもしていくだろうから知識の方をもう一度、と思った」
「そういえば彼汰くんはいつ安全委員会に選ばれたの?」
「委員会体験週間の説明が終わってすぐの放課後に小豆沢先生に呼び出された。学校に正式に入ってすぐ委員会体験週間をやらない理由が見定めの時間が必要だかららしい」
來香の質問に答える彼汰。
担任の先生は委員会体験週間までにクラスから安全委員会に適正がある生徒を一人見つけないといけないらしい。彼汰が言った『見定め』の期間、それが初めて授業を受けた日から委員会の説明を受けるまでの期間だった。彼汰は教科担当の小豆沢先生、実技担当の美園先生、どちらからも満場一致で適正があるとみられていたと語った。
「へえー、そうやって決まってくんだな」
「でも考えてみたら彼汰くんは軍の教育機関を卒業してるし、適正はばっちりあったのかもね」
彼汰の実力を知ってるからこそ翠は否定的な考えは浮かんでこなかった。実技の授業、教科の授業、どちらも満遍なくこなす彼汰だからだ。
「ね! せっかくだから彼汰くんも一緒に話そーよ!」
「お、それ賛成! 結構委員会体験のとき別れて作業してたから彼汰から見て、とか話せるかもだし! その方が翠ももっと聞きたかったことが聞けるんじゃないか?」
「僕はありがたいけど……」
二人が勝手に話が進んでいって肝心の彼汰の意見を聞いてない。翠はそっと彼汰の顔色を窺うと、
「そんなに長くならないなら別にいいぞ」
「え、いいの? 彼汰くんありがとう!」
これでもっと情報が手に入ると思ったら自然と声が大きくなっていた。そのことにはっと気づいてすぐに口を閉じ辺りを見渡し、周りの人達には何も迷惑はかけていないと分かりホッとする。




