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【02】おまえが原因か

(真実の愛、ねえ)


 あの場所に居続けられるわけがない。羞恥心が爆発する前に、私は急いで支払いをし、さっさとカフェを抜け出した。見世物になりたくない気持ちでひと気のない方へと、自然と足が向いていく。


(すごく稀で、出会えることが奇跡ってイメージだったけれど…… どうやら違うようね)


 そう思うのは理由があった。

 何故ならば、その真実の愛に目覚めた、出会った、遭遇した、という話を、ここ最近、頻繁に耳に目にしていたからだ。


 曰く、目が合った瞬間に「理解った」だとか。

 曰く、前世からの絆があると気が付いた、だとか。


 そんな物語みたいなことが起きたという人が少なからずいる。


(奇妙だな、とは思っていたのよ)


 こんな短期間に、似たような事例が頻発するなんて。


 私の生家は大きな商家だ。

 その跡継ぎ娘という立場上、色々な人間関係が入ってくる。どこの誰が結婚した、別れたくっついたなんて個人的にはどうでもいい話も、取引先の情報としては重要だ。場合によってはお見舞いやお祝いが必要になるし、対応の早さは、商家の評価に繋がる大切なポイントなのだ。


(お客様だけじゃない、友達にだって同じようなことが起きたわ。港運のベラの結婚、猪の突撃みたいに勢い任せだったし…… あんまりうまくいってないみたいだけど)


 そんな、まことしやかな「真実の愛」。

 まさか自分が当事者になるなんて予想外だった。それもフラれる側で。


 ふふ、と思わず自嘲と自棄の笑いが込み上げる。

 傷ついているかと問われていたら、それなりに辛い。良い思い出だって沢山ある。


(……クレイといるのは正直、楽しかった。それは事実なのよね)


 商家の娘としての教育を受けた私は、どうにも損得で物事を考えやすい。

 真逆の性格をしたクレイはいわゆるお坊ちゃんで、人の疑い方を知らなかった。呑気すぎるきらいはあったが、長所でもあった。


 いつだったか、街で人と口論になった。すぐに言い返した私をなだめてくれたのは彼だった。後にやり過ぎたと落ち込んだ時、


『君はとても勇気がある人だ。未来のお嫁さんとして頼もしいよ』


 笑ってくれたのも嬉しかった。

 いい処だって沢山ある人だったのだ。それが――


(あんな風に、いきなり人が変わるなんてこと、ある?)


 いいや、あり得ない。何か原因がない限りは。

 確信して思う。クレイは明らかに異常だった。だったら、一体何が。



「……ですから、心のままにあるべきなのですよ」



 ふ、と。

 路地を通る風に乗って、妙に綺麗な声が耳にまで届いた。

 私は声がした方に視線を向ける。いつの間にかだいぶ大通りから外れて、裏通りの奥の方にまで入り込んでいた。この先は旧市街。あまり治安の良くない、怪しい店が並ぶ黒猫通りに繋がっている。夜は人の出入りがあるが、昼間はほぼ人がいない。

 そんな閑古の薄暗がりに、小さな露店が出ていた。


「占い……?」


 小さな卓ひとつ、その上には数枚のカード。

 座っているのは占い師だった。男か女かも分からない、黄昏の夜空の色をしたフードを被った人物。その向かいには前のめりになった、身なりからしてお忍びの上流階級の青年が腰かけている。


(そういえば、噂になってたわね。よくあたる流れ者の占い師がいるって)


 ちゃんと許可取って店を出しているのだろうか、黒猫通りで出店しているなら出している訳もないか……

 そんなことを思いながら、興味をそそられた私はその場でこっそり立ち聞きした。


「神は貴方を見ておられる。恋する全ての人々に、真実の愛が芽生えるようにと」


 占い師は厳かな声で、卓のカードを指さしながらそう言った。

 おっと、聞き流せない単語が出て来たぞ。非常にデリケートになっている私の耳がぴくりと動く。


「占にもそう出ております。迷いの森、霧深き向こうに出会う光はただ一つと」

「それじゃ、ぼくのこの気持ちは間違っていない、と!?」

「光は青く揺らめいています。覚えはありませんか?」

「ああ、あるとも! ターニャの瞳の色だ、彼女の青く澄んだ瞳の色が、ぼくの出会う光……!」

「御覧なさい、これは炎のカード。しがらみを捨て、自由な心で選び取るべし。そこには真実の愛がありましょう、何者にも消せぬ愛の炎が」

「そうか、そうだよな! やっぱりターニャを選ぶべきなんだ! ありがとう、決心がついたよ!」


 青年は代金を支払って、踊るような足取りで私の隣を駆け抜けていった。

 占い師が青年の背中を目で追い、そして私の姿とばっちりぶつかる。

 目が、あった。


「……あ」


 瞬間―― 私は、叫んでいた。


「あんたが元凶か――――!!!!」


読んで下さってありがとうございます!!最後までお付き合い下さったらとても嬉しいです。

次話もぜひ読んでやって下さい。

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