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49 王子の旅6

 村人からボコボコにされて村から追い出されたシューフライとヴォルフ。

 ふたりは馬車に跳ね飛ばされた路傍の石のように、道端に転がっていた。


 シューフライは思いもしていなかった。

 昨日までは、なに不自由ない暮らしをしていたというのに。


 歩くだけですべての人間が膝を折り、なかには額を地面にこすりつける者までいたというのに。

 髪を剃られ、服を奪われただけで、彼はなにひとつ変わってはいない。


 しかし今は、誰からの尊敬も得られないずにいた。

 最下層だと思っている農民にすら罵られ、あまつさえ暴力まで振りかざされる。


 そして彼らの羨望はあろうことか、あの(●●)女に……!


 シューフライは屈辱に呻きながら、ホコリとアザにまみれた顔をあげる。

 そこには、すでに起き上がってあぐらをかいているヴォルフがいた。


「うっ……うぐぐっ! ヴォルフ、てめぇ……!

 なんで、この俺様を守らなかったぁ……!?

 なんで、アイツらをブチ殺さなかったんだぁ……!?」


 シューフライは怒りに燃えていた。

 ヴォルフもシューフライと同じくらい傷だらけだったが、息ひとつ乱さず佇んでいる。


 己の主を見下ろしながら、噛んで含めるように言った。


「理不尽な暴力なれば、守りもしましょう。

 しかし彼らの怒りは正当なるものでした。

 私は農作業を手伝いながら、彼らの不満を感じ取っていましたから」


「不満だと!? この俺様の国に、いったい何の不満があるっていうんだ!?」


「彼らが今まで、なにを召し上がってきたかご存じですか?」


「ああ、さっき食わされただろうが! 泥が混ざってるせいで、石みたいにカチカチになっちまったパンだ!」


「違います。

 あなた様がひと口で吐き出したあのパンすらも、彼らにとっては何よりものごちそうなのです。

 なぜならば彼らは今まで、ジャガイモしか口にできなかったのですから」


「ハァ!? ジャガイモだけだと!? なに意味の分からねぇこと言ってやがる!

 あの村には小麦畑がたくさんあったじゃねぇか!

 お前は剣しか取り柄がないバカだから知らないだろうが、城で食ってる白くて柔らかいパンは、あの小麦からできてるんだよ!

 ったく、学がねぇヤツはこれだから!」


「パンが小麦からできていることは、あの村の小さな子供でも知っています。

 しかしあの村の小麦は、彼らが決して口にすることはできないのです」


「なんでだよ!? ぜんぶ馬にでも食わせてんのか!?」


「違います。収穫された小麦はすべて税金として徴収されてしまうからです。

 表向きは救荒用の備蓄とするためという名目ですが、その実は中流階級以上で小麦を独占しているからです。

 そのような法律を制定したのは、あなた様自身であるということをお忘れですかな?」


「な……なにぃ!? この、俺がっ……!?

 そんなはずあるかっ! 法律を決めたのは大臣が……!」


「いいえ。立案は大臣ですが、最終承認を下したのはあなた様です。

 あなた様はおそらく、説明された法律の内容をよく吟味もせず、承認されたのでしょう」


 ゴールドブレイブ帝国の最高権力者は、現帝王であるキングヘイローである。

 しかし王位継承者第1位の者が現れた時点で、その者にも権限の大半を与えられる。


 理由としては、ゆくゆくは帝国を治める王となるので、その予行練習を兼ねてのことであった。

 ヴォルフは諭すような口調で続ける。


「小麦の徴収率が100%になったことで、この村は苦しめられました。

 いくら大豊作になったとろころで、すべて国に持っていかれてしまいますからな」


「なら小麦をやめて、他の作物を育てればいいじゃねぇか!」


「いいえ。税収のための作物は、農民には選ぶ権利がありません。

 小麦を食べられなくなった彼らは、じゃがいもを育てはじめたのです。

 じゃがいもであれば、痩せた土地でも育ちますからな」


「ううっ……! じゃ、じゃああのパンは、じゃがいもで作ったパンだってのかよ……!?」


「違います。あれは『ライ麦パン』といって、ライ麦という品種の麦から作られたものです。

 ライ麦だけは税収の対象外とするように、あるお方が大臣に掛け合ってくださったのです」


「あるお方!? まさか、リミリア……!?」


 これまでは間違いだらけのシューフライであったが、ここにきて初めて正解を引き当てた。

 ヴォルフの厳しい瞳が、わずかにほころんだ。


「そうです。リミリア様です。

 あの方は、小麦農家の窮地をご存じでおいででした。

 リミリア様は小麦の徴収率を少しでも元通りにしようと大臣に掛け合っておりましたが、承認を得ることができませんでした。

 なぜならば彼らは一度手にした利権は、そう簡単には手放そうとしませんからな。

 大臣以上の権力で命じられれば別でしょうが、婚約者であるリミリア様にはなんの権限もありません」


「それでリミリアは、『ライ麦』に目をつけたってわけか……!」


「そうです。ライ麦を税収の対象外にするように、大臣に掛け合ったのです。

 ライ麦は上流階級の者たちが口にしなかったので権力者からの反対もなく、またリミリア様の熱意に負けて、大臣も認めざるをえなかったようですな。

 それにライ麦には農村にも多くのメリットをもたらしました。

 まず、じゃがいもと同じで、痩せた土地でも育てられるという点。

 しかも小麦の農村にとっては、品種は違えど同じ麦を育てられるので、手間が省ける点。

 さらにライ麦で焼いたパンは小麦のパンと比べて日持ちがするという点などがあるのです」


「日持ち、だと……!?」


「そうです。農村にはパンの焼き窯などありませんから、近くの街に生地を持っていき、パン屋に頼んで焼いてもらっていました。

 小麦のパンは日持ちがしないので、彼らにとってはパンは非常に贅沢品だったのです。

 しかしライ麦パンは大量に焼いても保存ができますから、彼らにとっては好都合でした。

 おかげで彼らは、毎日のようにパンを口にできるようになったのです」


 ……ガガァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 晴天の霹靂に打たれたようなショックを受けるシューフライ。


 彼は、自分以外の人間は全員バカだと思っていた。

 リミリアなどは身の回りの世話しか能のない、メイド同然の女だと決めつけていた。


 しかし彼女は、彼のあずかり知らぬところで、とんでもないことをやってのけていたのだ……!


 ワナワナと震える見習い勇者に、付き人は言った。


「……これで、村人たちが怒った理由……。

 そしてリミリア様が、像になるほどに崇められている理由がわかりましたかな?」

最後は勇者サイドになってしまいましたが、これにて第1章の完結です!

続きのネタとやる気もちょうど尽きましたので、ここでいったん更新停止とさせていただきます!

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました!


そして、開けましておめでとうございます!

本年もいろんなお話を書いてまいりたいと思いますので、読んでいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 明けましておめでとうございます、今年も面白い小説を執筆されますよう頑張ってください。 凡人ならリミリアの功績を知り反省すべきところですが、コイツが反省しようとは到底思えませんw
[良い点] 新年に王子悟る! これから少しでも屑はマシになるのかっ!? ※ならない予感(笑) 次回も期待っ!! [一言] 新年あけましておめでとうございます~! 今年も楽しく拝読させて頂きますので…
[気になる点] これで反省すれば見込みもあるんだけどねぇ(-_-;) 喉元過ぎれば……じゃぁなければ良いけどね(^_^;)
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