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3.後編

「愚かな真似をしたものだ」

クリステーヌの座るソファーに腰を下ろした国王は溜息をついた。


果たしてそうだろうかとクリステーヌは思う。

我が子の名前も知らぬままマルグリットは命を絶ったのだ。

そう、あの時クリステーヌは「母親が健在であるのに母にはなれない」と言った。

マルグリットであればそのまま受け取るだろうと理解した上での発言であった。

男児が産まれた場合、マルグリットが取れた道は2つ。

ひとつが産まれた子だけでも守る道。もうひとつが、茨の道を覚悟しマルグリット自身が子を守る道。

マルグリットは子を守る為に確実な手段を選んだに他ならない。

普段のマルグリットからは想像出来ない行動であったので多少驚きはしたが、それが母の強さなのだろうか。

クリステーヌは自らの腕の中で眠るマルグリットの子を見つめながら考えた。


「陛下の子は母としてわたくしが立派にお育ていたします。ご安心下さいませ」

子を抱く反対の手で国王の腕にそっと触れながら、労わるように微笑んだ。

クリステーヌ…と呟き、国王はクリステーヌの肩に頭を預ける。

「其方は私には勿体ないくらいに出来た王妃だ。私は誰よりも其方に世継ぎを産んで欲しかった。

其方が皇帝の妹御でなければ、我が国に帝国と並ぶだけの力があれば、18になるまで其方に触れないという約束事など取付けずに済んだのに…。

其方は気を遣い他の女人で紛らわせる事を許してくれたが、其方さえ居れば他の女人など…」

吐き出すように言葉を発しながら、国王はクリステーヌの腰に腕をまわし抱き寄せた。


白い結婚。兄である皇帝が妹を嫁がせる際に求めた約束事。この約束でクリステーヌは未だ国王の手がついていない。

手がつかない以上、子は成せない。

それを兄である皇帝が望んでいる以上、男児が生まれたところで国に戻る必要はなかった。


「申し訳ございません。兄はとても過保護で、幼い頃に嫁いだわたくしを心配して無理難題を申し上げました」

「ああ分かっている。今日もまた義兄上から其方に手紙が届いていたようだな。全く仲の良い兄妹だ」


抱き寄せた手を緩める事なく苦笑する。

子が苦しくならないよう気を遣いながらクリステーヌは国王の胸に顔を寄せた。

「わたくしも早く本当の妃になりたいと願っております」

国王はクリステーヌの言葉に満足したのか、「ああ、その時が待ち遠しい」と満面の笑みを浮かべた。





国王が去り、子も乳母に預け、クリステーヌはひとり、窓際に佇んでいた。

見上げた夜空には雲ひとつなく月が輝いている。


あの時もこのように雲ひとつない夜空でしたね。

クリステーヌは両手を胸の前に当てながら、今は遠い場所に居る兄を想う。



『かの国が欲しい。…だが、正当な理由が見つからなくてな。征服は容易いが禍根を残さぬよう、かの国を手にいれたいのだが…』

兄は月の光に反射して輝くクリステーヌの髪を梳きながら囁く。

『わたくしに内から壊せというのですね』

『流石は我が妹だ。僕の望みを理解してくれるのはクリステーヌだけ』

ふたりきりの時だけ一人称が『僕』になる兄は、クリステーヌの髪を一房すくうと髪に口付けた。

『3年。僕のクリステーヌには国王ですら触れさせない。3年の間に壊せるかい?まあ、それ以上は僕が耐えられそうにないのだけどね…』

「帝国の華」と呼ばれるクリステーヌでさえ、ハッとするほど艶やかに微笑む兄。

『頼れるのは其方だけだ』

先程までの妹に向け囁く兄の声音では無く、為政者の声。

クリステーヌは両手を胸にあて跪くと、ただひとり敬愛する王を見つめながら恭順の意を示した。

『…御心のままに』



もうすぐ約束の3年。

お兄様の望みを叶えるための種は撒いた。

あの男に布越しでも触れられるのは鳥肌が立つけれど、実がなるまであと少し…。

もう少しだけお待ち下さいませね。


そう、クリステーヌは月に向かって微笑んだ。

それは兄を彷彿とさせる艶やかな微笑みであった。







国を内側から壊す手段も考えたのですが、長くなりすぎるので割愛しました。

少しだけネタばらしすると、

・子供が産まれなかったのは子供は出来たけど産ませなかった。男爵令嬢に子供を産ませたのも計画のひとつ

・皇帝の「3年しか待てない」は「待たない」の意味。※クリステーヌも兄の意図は理解しています。

幼い皇女にそんな事出来るのか、については付き従った侍女達が優秀だからでした。

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