10.類友なんです。
毎回毎回、みんな思ってるだろうけど、ボクの書き出しは滅茶苦茶下手だから注意してね?
頑張って何度か改訂したり、根本から変えてみたりを五、六回してこの出来栄えだからね。……諦めてください。……言っちゃ悪いけど、今年から高校生だからね。今更だけど生暖かい目で眺めてくれると嬉しいよ。
「ねぇ? 一応貴方は運営側の妖精なのよ? それなのに違反行為を許すのはどういう領分なのかしら?」
誰もいない、だたっぴろい訓練場の様な場所で、小さい妖精エミィは、普段の様相からは想像もつかない位冷や汗を流しながら、自らの事を握る、一人の美しい女性に対して「い、いや、その、だよ?」と、土盛り気味で、言い訳気味に言葉を捻りだそうとしている。
しかし、その女性はエミィの言葉を聞く気が無いのか、エミィがどもっている間にもエミィを握る力を強め、エミィはすかさず悲鳴を上げる。
「い、言い分くらい聞いてよぉ!」
「あらっ? 言い分? いい訳ではなくて?」
その中でようやくひねり出された、エミィの悲鳴に近い嘆願は、一応はその女性に受け止められたものの、未だにエミィが劣勢に立たされている事には変わりなく、その小さい頭脳で、必死に言い訳を考えているに違いない。
……また、どうやら、その女性はエミィが正直な事を言うとは思っていない様子だった。
「だって、Limeはわたしを連れてきたせいでチュートリアルが発生してなかったんだよ! だから丁度良いチュートリアルになると思ったし、PVPのチュートリアルも兼ねて戦闘させたんだけなんだよ! あんまり介入するべきとは、思わなかったんっだよぉ!」
そうしてエミィの小さな口から放たれた叫びの様な声は、筋が通っており、また、常識的で、一般的な人がするような言葉を、その女性に投げかけている。……しかしながら、普段のエミィを知っている様子の女性は、そんなエミィの台詞など信じようとしてはいなかった。
それでも、必死に、エミィはその女性に対して訴えかけている。
「で? それで痴漢されるまで傍観して訳?」
そんな必死の訴えかけに、遂には女性は動かされる事はなく、無慈悲にもエミィを更に強く握りしめられ、傍から見れば狂っているとしか思い様が無い程、口角を吊り上がらせて、首を傾けている女性の姿は、精神の幼いエミィにとっては、とても耐えられるものではなく、「ぐすっ」と、鼻水を啜る音さえ見し始める。
「泣いて許してもらえるとでも思ってるの?」
ぐずっているエミィに対し、けれど女性は責立てる。
「うぅ、ごめんなさいぃ」
そんな泣きながら謝っているエミィを見て、ここまでの謎の女性との説教を見ていて、感じた感想は、単純で、一体ボクは何を見させられているんだ。と言う物と、今日何度感じたか分からない、訳が分からない。と言う物である。
「謝るだけだったら、餓鬼でも分んだよ!」
そうして、今まで丁寧な言葉遣いだった女性の口調が急変し、エミィに更に近付きながら、語気を荒げ叫ぶようにエミィの耳元でその言葉を発している。
「う、うぇぇぇ」
――ログアウトしてから四時間ほど経ち、流石のエミィでももう反省しているだろうし、そもそもあれは、事故であったことはどう見ても分かったのに、その場の感情でエミィに暴言に近しい事を言ってしまった罪悪感もあったので、電子世界に再び降りてみたのだが……戻ってきた瞬間に、これはどういう事だろうか。
「聞いてんのかよォ!!」
涙でぐずぐずになっているエミィに、未だに叫び続ける女性に、流石に危機感と懐疑心に襲われたので、厄介ながら仲裁しに行く事にした。……まあ、エミィがいなければ、ゲームのチュートリアルが始まらないから、と言うのもあるけれど、一応保護者やってるつもりだし。
「何してるんですか?」
未だに泣き続けているエミィに対して、説教を続けている女性の手を掴み、ボクは恐る恐る質問を投げかける。その所為か、今までさんざん叫んでいた女性はぴたりと止まった後、ギギギと、なぜかオイルが切れかかっている機械の様に、引っ掛かりながらこちらに顔を向ける。
「……いえいえ、申し訳ありません、本日は本当に失礼な事を――」
一瞬だけホラー展開になるのだろうか、と、少しだけ変な期待をしてしまったが、どうやらこの人はエミィと同じく運営サイドの人間なのだおる。……まあ、エミィ同様AIなのかもしれないが、それにしたってエミィを虐め過ぎだと思う。
幾ら下種なボクだろうと、小さい子供が理不尽に虐められてたら注意しに行くからね?
「いや、まあそれは良いんだけどさ、その娘返してもらえない?」
勿論、この女性が返す気が無いことは分かっている。と言うか、本来の対応としては何一つ間違っていない対応だとさえ思う。しかしながら、数時間くらい関わってみて、エミィがそんな責任のある判断を任せられるような精神をしていないことは分かった。
その癖、あんなに叫んで、泣かせて、理不尽に叱るのは良くないと思う。
「ですが、彼女は規定違反のプレイヤーをみすみす見逃していたのですよ? それを許すわけには――」
と、それらしいことを言う女性だったが、流石に、運営側がプレイヤーにずっと粘る様な事は考えにくいと思う。……それに、この事で絶対的になるのは被害者のボクであるはずなのだ。
と言うか、被害者が配慮されないわけが無い。
「別に大丈夫です。……それに規定違反は多分痴漢された後に規定違反になると思いますけど」
それにあれは事故だ。
「それに――」
「それに、今のボクはエミィがチュートリアルなんですよ? 貴方がごたごた言っている間に、どんどん無駄な時間が増えていくんですよ? いい加減にしてもらえませんかね?」
しかしながら、意外なくらい粘って来る女性に、職務忠実な人だな、と思いつつも、実際にエミィがいなければゲームが進まないので、少しだけ語気を荒げてその女性に向かって言葉を放つ。
女性には悪いけど、本当にそうだし、エミィは一応ボクの相棒なのだ。
「それとも? 貴方たちはこの無駄な時間を補償でもしてくれるんですか? 時でも与えてくれるんですか? 無理ですよね?」
クレーマーに放っているだろうが、ここで引く訳にはいかんのだ。許せ。
「……分かりました、もし、今後不都合があればご連絡をお待ちしております」
そうして、結局、その女性は泣きまくっているエミィをその場において、運営の特殊権限なのか、その場ですぐ様に消え去ってしまった。
「……大丈夫?」
その状態で残ったエミィにすぐさま駆け寄り、声をかける。
「ぅん」
そうすると、今まで見たエミィとは思えない位、か弱い声で返答をしてきてくれたが、返答できるのならば大丈夫だろう。と思い、ボクはそのままエミィをボクの手に乗せる。
「じゃあ行こっか?」
「ぅん」
まだ、ぐずっているエミィを頭の上にのせて、ボクは歩くのだった。
「やっぱ類友って奴なのかなぁ?」
そうやって歩く中、ボクにとっては異常な位に、エミィを擁護した事に、ボク自身に疑問を投げかけたが、結局のところ、そうなのだろうか、とエミィを頭で感じながらボクは思ったのだ。
多分、物語文を書いた事がある人なら分かるけど、書き出しってすごく難しくないですか?
中間部分とかは、割とノリだけで書き上げる事は出来るんだけどさ、書き出しをノリで書いちゃうと後々本当に厄介な事になっちゃうし、かといって、あんまりにつまらないのも変だし。
……実際、本当の本当に、人生で一回も無かったくらい本気言うけど、難しいんだよ。
まあ、言い訳に過ぎないから無視して良いんだけどさ。




