~消火~
更新がギリギリになってしまい、すみません!汗
「うーん……、当たるようにはなったけど」
放った炎が全て当たり、蓮花の先に置いてある的は全て燃えている。
しかし蓮花は自身の掌を見つめると、ため息をついた。
――正確に当てられるようにはなったけど、動いている相手に当てられるかな……。
掌を何度も握っては開き、感触を確かめる蓮花。
思い出したくはないが、盗賊と戦った際に発覚した蓮花の弱点。
――私の炎は、真っ直ぐにしか飛ばない。どうやったら、動く相手にも炎を当てられるようになるんだろう……。
そんな事を考えた蓮花は、セルフィーナが操る水魔を思い出す。
まるで生きているかのように、セルフィーナが放つ水魔たちは自由に動き、相手へ水弾を浴びせていた。
――そう言えばセルフィーナさん『魔力を込めて命を吹き込む~』とかなんとか言っていたっけ。そうすれば私も、自在に炎を操れるようになるのかな? でも……命を吹き込むなんて、どうやればいいのか分からないし……。
ぼうっと自身の掌を見つめていた蓮花。
考え事をしながら、掌に灯した炎へ念を送ってみる。
――命を吹き込む、命を吹き込むっ……。
込める思いに反応するかの如く、どんどんと大きくなっていく蓮花の炎。
「行けっ!」
力を込めて、その炎を自身の掌と共に前へと解き放った蓮花。
しかし魔力を十分込めただけに過ぎない蓮花の炎は、風を突き破るかのように凄い速さで真っ直ぐ進み、数十メートルは離れている訓練場の石の壁へとぶつかっただけだった。
「……やっぱり駄目か」
放った炎に驚いた、周りで同じように訓練している同職の人々。
そんな皆へ謝りつつ、依然燃え続けている自身の炎を確認しようと、蓮花は傍に置いていた水入りバケツを持って走る。
「……何をやらかした」
丁度壁の後ろを歩いていたのか、蓮花が辿り着くと横の扉から鎧塚が顔を出した。
「あっ、鎧塚さん」
消火用にあらかじめ用意していた水入りバケツを抱えつつ、苦笑いをして蓮花は鎧塚へ顔を向ける。
蓮花の視線から外れた炎。
蓮花が炎へ背中を向けた瞬間、注目から逸れた炎はすっと消えた。
「間違えて出しちゃった炎を消そうと思って」
そう言って再び炎へ視線を向ける蓮花。
しかし、気を逸らした一瞬の隙に蓮花の炎は消えてしまっている。
「あれ?」
水を掛けていないのに消えた炎の跡を、蓮花は必死に探す。
「……炎なら今お前がこちらを向いた時に、一瞬で消えたぞ」
慌てている蓮花の背中に鎧塚は声を掛ける。
「ええっ、まさかー!」
そんな事ある訳ないじゃないですか!
持っていたバケツを地面に置き、キョロキョロとしていた蓮花。
掛けられた言葉へ反応するように、勢いよく鎧塚へ振り返る。
「あー……お前、自分の炎の消し方も知らないのか」
ちらりと蓮花が持っていたバケツを見てそう聞く鎧塚。
「えっ? ……一応ちゃんと、毎回出した炎は水を掛けて消していますけど……」
質問の意味が分かっていない蓮花はとりあえず鎧塚にそう答えたが、そのまま首を傾げてしまう。
そんな蓮花の様子を見て、鎧塚は何かを察知する。
「……別に、わざわざそんな事をしなくても炎は消えると思うが」
ぽつりと呟く鎧塚。
その言葉を聞いて「……えっ。」と蓮花は声を上げる。
――いやいや、火を消すと言ったら水でしょ……。現にセルフィーナさんも、いつも私の出した炎を、放った水魔で消してくれていたし。
蓮花は何を言っているんだとでも言うような顔をして、鎧塚の顔を見る。
すると、蓮花の反応を伺っていた鎧塚。
黙って蓮花の傍まで歩いてくると、隣に立って壁を指差し言い放つ。
「……此処に向かって、炎を放ってみろ」
なるべく大きめのものだ。
ゆっくりと言い放った鎧塚にびっくりした蓮花。
「えっ! ……こんな、的じゃない所へ放ったらまずいんじゃないですか?」
言われた事に対して蓮花が躊躇っていると、鎧塚はチラッと視線だけを蓮花に向けてこう言った。
「大丈夫だ、やってみろ」
有無を言わさない鎧塚の圧。
その圧に押し切られた蓮花は、しぶしぶ鎧塚の言う通り掌に炎を溜め、大きくなった炎を壁へと放った。
壁に当たった炎は横へは広がらず、そのまま上へと燃え盛っていく。
あっという間に二人の背の高さを超えた炎の壁を見て、慌てる蓮花と「大丈夫だ。」と蓮花を制する鎧塚。
――っ……うーん! やっぱり駄目だ!
痺れを切らした蓮花。
水が入っているバケツを持とうと傍に置いていた筈の物へ手を掛けようとする。
しかし其処にある筈の物が無い。
視線を落としてやはり無い事を確認した蓮花は、そのまま視線を上げていく。
すると、視界に入った鎧塚。
蓮花が探していたバケツは、既に鎧塚が持っていた。
――あっ良かった、やっぱり鎧塚さんも……
なんて考えかけた蓮花目掛けて、鎧塚はバケツの水をぶちまける。
凄い勢いと共に、蓮花は顔面でバケツ一杯入った水を受け止めた。
突然の事に息が一瞬止まった蓮花。
「なっ!」
何をするんですか!
びっくりした蓮花は、びしょ濡れになった自身の水を振り払いながら鎧塚へ投げ掛ける。
「……でも炎は消えただろう」
そう言いながら空になったバケツを置いた鎧塚。
視線だけで蓮花に壁を見るよう促す。
「……えっ?」
釣られるように蓮花は壁へ視線を向ける。
確かに今まであった炎の壁。
しかし、再び壁を見た蓮花の視線に、自身が放った巨大な炎は何処にも存在しなかった。




