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生きる為に。  作者: 井吹 雫
七章
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~故郷~

 セルフィーナの種族についてのお話です。

 この回は、多分人によっては賛否両論あるかと思います。一応言葉を選んで、なるべく共感出来るように書いたつもりですが、もし意見が合わなかったら、申し訳ございません。


「それって、つまり……どういう事ですか?」


 必死に頭の中で答えを導き出そうとした蓮花だったが、結局答えは分からなかった。

 そんな蓮花の反応を見て、笑っているセルフィーナ。


「それが、私達にもよく分からないのよねー。でもどういう訳か、生まれてくる子どもは、みーんな性別が女なの」


 不思議でしょう?

 そう言ってはにかむセルフィーナを見て、蓮花はある事に気が付く。


「えっ、でも……そうしたら、どうやって子どもを作るんですか?」



――男の人がいなかったら、子どもは出来ないんじゃ……。


 更に困惑する蓮花を見てセルフィーナは一瞬きょとんとしたが、みるみるその顔に笑みがこぼれる。


「さあ、……どうやってだと思う?」


 まるで、いたずらっ子のように笑っているセルフィーナ。


「どうやって、子どもを作っていると思う?」


 戸惑う蓮花を楽しむように、セルフィーナはずいっと顔を近付けるので、蓮花は少し後ずさる。


――ええ……、そんな事を言われても……。


 何とかしてこの答えを蓮花に言わせたいのか、セルフィーナの視線は、じっと蓮花を捕えている。

 必死に考えた蓮花だったが、本来蓮花が知っているやり方以外に、考えが浮かばない。

 しかしその答えは、先程セルフィーナが言った『男はいない。』の一言で有り得ない事を物語っている。

 必死に答えを探している蓮花へ更に迫るように、目で訴えてくるセルフィーナ。

 そのキラキラとした視線に、ついに蓮花は耐えられなくなって、口を開いた。


「おんっな……同士でも、子どもが作れる、から?」


 恐る恐る言ってしまった為に、自分でも何を言ったのかが分からなくなってしまった蓮花。

 一方のセルフィーナも、恥ずかしがる蓮花を楽しんではいたが、まさか答えが返ってくるとは思っていなかった様子。

 素っ頓狂な声で「へっ?」と聞き返した後、蓮花の放った言葉の意味を考えて、大笑いをした。


「あんたっ、お~もしろい事、言うわね~!」


 まるで転げ落ちるようにして、セルフィーナはひとしきり笑うと、涙を拭きながらこう答えた。


「違うわよ! 人間の男と、するのよ!」


 女同士で子どもが出来たら、びっくりよ!

 蓮花の想像以上の返答に再び笑いが込み上げてきたのか、セルフィーナはそう言い終えると、ケラケラと笑いながら運転しているアルタへ話を振る。

 きっと、蓮花とセルフィーナの会話を聞いていたのだろう。

 蓮花が顔を赤くしながら馬車の運転席を見ると、アルタは「そうだなー。俺が生きてきた中では、女同士で子どもが出来たって話は、まだ聞いた事ないな。」と笑っていた。


――だってっ! 男はいないとか言うからっ!


 恥ずかしさのあまり、膝を抱えて顔を俯かせる蓮花。

 耳まで真っ赤になっている蓮花の横で「まあ技術が発達したら、いつかは女同士や、男同士の間でも、子どもが出来るようになるんじゃないのかしら。」と、話していたセルフィーナ。

 アルタと会話を終えると、再び蓮花へ話し掛ける。


「私たち種族は、どうやっても女しか生まれないのよ。だから大人になったら、私たち種族は、人間の伴侶を探すのよ」


 そう言ってほほ笑むセルフィーナ。

 その顔を蓮花は横目で見るが、まだ恥ずかしさが消えた訳ではない。

 やや俯き加減のまま「……でもさっき、故郷に男はいない、って……。」と呟く。


「ああ! それは私たち種族の男がいないって事で、伴侶の人間の男はいるわよ」


 ごめんなさいね、言い方が悪かったわ。

 依然顔を上げない蓮花の頭に、手を軽く乗せたセルフィーナ。


――本当だよ、紛らわしい言い方して……。


 すでに恥ずかしさはなくなった蓮花だったが、騙された気分が若干残っている為、そのまま顔を上げないでいる。

 するとセルフィーナは、置いていた手を戻して、何処か遠くを見ながら語り出した。


「別に、種族は違うけれど、普通に人間の男としても、子どもは出来るのよ」


 セルフィーナの声色が落ち着いたものになったので、顔を上げた蓮花。

 その横でセルフィーナは、言葉を続ける。


「でもね、中々いないのよ。私たち種族の女と、結婚しても良いっていう人間の男が」


 静かに話していたセルフィーナは、蓮花の視線に気が付くと、その表情を和らげる。


「まあ、自分と違う生物を妻として、更にその間に出来た子も、皆自分と違う種族の女しか生まれないってなったら、それは躊躇う気持ちも分かるけど……」


 和らげていた表情が、段々と寂しそうになっていくセルフィーナ。

 言葉を無くしたように口を閉ざしたセルフィーナを見て、蓮花はゆっくりと聞いてみる。


「生まれてくる子は、皆必ず、セルフィーナさんの種族……なんですか?」



――お父さんは人間なんだから、人間の子が生まれてくる可能性も、あるんじゃないのかな……?


 いくらセルフィーナの種族が女しか生まれないからと言って、父親側は人間なのだから、人間の子が生まれる可能性もあるのではと考えた蓮花。

 しかし、そんな考えもセルフィーナは否定する。


「うん。生まれてくる子は、どんなに頑張っても、何度試そうとも、みーんな私たちの種族の子しか生まれない」


 すごい遺伝子の強さよね。

 なんて笑ったセルフィーナ。


「だから、私たち種族の女と結婚してくれる男が、中々いないのよ」


 だってまるで、後世を残す為にとしか、必要とされていないみたいでしょ?

 そこまで話すと、セルフィーナはわざとらしく大きな声で話し出す。


「という訳で! 私たち種族は、段々と少なくなっているの」


 蓮花に突っ込まれないように、言葉を続けて落とすセルフィーナ。


「だから、その数少ない人間の伴侶を見つけられた女は、出来る限り子どもを作り続けるわ」


 産める限りね。

 まるで、セルフィーナも覚悟を決めているかのような言い回し。

 蓮花はそんなセルフィーナを見ていた。

 すると、やっと蓮花の方を向いたセルフィーナ。

 おどけたような声で「それが私に、姉妹が多い理由よ~!」なんて言うと、蓮花へ抱き付き大げさに揺れる。


「ちょっ、苦しいですって」


 透き通っているような水色の肌をしたセルフィーナの腕の中で、もがく蓮花。

 そんな蓮花を笑いながらセルフィーナは腕を解くと、大きく伸びをして話題を変える。


「それより、そろそろお腹が空いたわ」


 そう言うと、セルフィーナはにっこり笑った。


「さっきのパン屋の、フルーツサンドだったかしら? 食べたいな~」


 甘えるように、蓮花へお願いするセルフィーナ。

 蓮花は、そんな明るいセルフィーナの顔を見て笑う。


「そうですね、食べましょうか」


 良ければアルタさんもどうぞ。

 鞄の中からフルーツサンドと飲み物を出しながら、蓮花はそう言うと、二人に食べ物を手渡した。




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