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生きる為に。  作者: 井吹 雫
第一部 一章
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~対面~

 『章』という機能にようやく気が付いたので、昨日までに投稿した分のサブタイトルを若干変更致しました。

 内容や文章は、全く変わっていないのでよろしくお願いします。


「おーい。……だめだ。全然起きねえ」



「困りました、ね」



――誰かが呼んでいる。



「起きろって、おーい」


 段々と声がはっきり聞こえるようになり、身体を揺さぶられていた蓮花は重い瞼を開ける。


「おっ、やっと目を覚ましたか」


 ゆっくりと身体を起こしながら、蓮花は辺りを見渡した。


「……ここは?」


 見たこともない石造りの薄暗く小さな牢屋に、知らない人が数人。

 状況が呑み込めない蓮花は、誰にという訳ではないが、そう口にした。


「……。あー、やっぱりそう、だよな」


 おそらく蓮花を揺さぶっていたのであろう、顔を覗き込んでいた男性が諦めたように言うと、そのまま蓮花に背を向ける。


――なにその態度。


 悪意こそ無さそうではあったが、その男が訳も分からずにいる蓮花に向かって落胆した態度を取った為、少し苛付く蓮花。


「それより、ここは何処なんですか?」


 先ほどよりやや強めの口調で、もう一度蓮花は訪ねてみる。


「うーん、それが俺たちにも分からないんだよね」


 傍を離れた男とは別の、スーツ姿の男が着ていたジャケットを脱いで蓮花を包み込みつつ、代わりに答えてくれた。


――あっ……。



「ありがとう、ございます」


 少しばかり肌寒いこの空間には、不釣り合いな格好をしていた蓮花。

 そのジャケットに残る僅かな温もりに心臓が波打った蓮花は、分からないと答えてくれたスーツ姿の男性の顔を覗いてみる。


――若そうには見えるけど……。多分スーツを着ているし、二十代半ば位かな?


 そんな事をぼんやり考えていたら、先程の傍を離れた男が声を発した。


「それより、どうしようか。此処が何処だか誰も分からないんじゃ、どうすることも出来ないし」


 蓮花に……というよりは、その場にいる全員に向かって語り掛けた男は、言い終えると静かに全体を見回す。


「そうですね。最後の頼みだったこの子も、やはり分からないみたいですし」


 ジャケットを貸してくれた男性がそう言いながら蓮花をちらっと見た為、不意を突かれた蓮花とばっちり目が合い、動揺する。


「そうなんだよな。さっき運んできた奴も『これで最後だ。』なんて言っていたから、これ以上誰かが連れて来られてくる……っていうのも、なさそうだしな」


 先程の男が乾いたように笑い、天を仰いだ。


――……えっ、運んできた?


 動揺を悟られぬよう手に力を込めていた蓮花は、覚えのない事を耳にした為疑問を抱く。


「あの……、運んできたって、どういう事ですか?」



「んっ? ……ああ、そうか。君は最後に連れて来られたから、分からないか」


 天を仰いでいた男がそう言って、顔を蓮花に向ける。


「此処にいる皆ね、ある男達によって、眠っている間に運ばれて来たんだよ」


 君も意識を失っていただろう?

 そう言うと、男は蓮花に語ってくれた。


「説明、という程でもないのだけどね」


 男の説明によると、此処にいる皆も蓮花と同じで、意識を失っている間に連れて来られてきたらしい。

 最初に連れて来られたのもこの男で、名前は中森(なかもり) (あつし)

 彼が目覚めるとそれを待っていたかのように、一人ずつ順に眠った状態の皆が運ばれてきたそうだ。

 その後運ばれた皆はすぐに目覚め始めた為、此処は何処なのか、何があったのかを敦は一人ずつ聞いてみたという。

 しかし、誰一人答える事が出来なかったそうだ。

 そこに最後の一人である蓮花が運ばれてきた。

 その際に運んできた男が「これで最後だ。」と告げたので、最後の奴ならもしかしたら何か知っているかもと、僅かな望みを掛けた……という事らしい。


「しかし君も、結局何も知らなかった。だから誰も、どうして此処にいるのか、いまいち状況が呑み込めていないって訳」


 蓮花が自分より年下と、目で見て明らかだからであろう。

 分かっただろう? とでも言いたげな敦は一応優しく接しているが、そのどこか面倒くさそうな言い回しに、蓮花は不満を感じずにはいられない。


――なんなのその、私に説明したところで意味がないような。……やな感じ。


 実際この中での一番の年長者は、きっと敦であろう。

 だが、相手の本質を見ようともしないで、年齢等といった簡単な情報だけで人を判断されたことに、納得がいかない蓮花。


「でも見たところ、此処はそんなに危険な場所、ではない気がするんだよね」


 そんな蓮花の思いには気が付いていないのか、敦は話を進める。


「もし俺たちを監禁とか考えているのなら、眠っている間に暴れないようするとか。それか、手足を縛るとかした方が楽な筈なのに、それもしていないし」


 話を黙って聞いている皆に気をよくしたのか、敦は満足そうに話す事を止めない。


「なんなら、そこの扉の中にはトイレと洗面所、おまけに給水所まであるくらいだからね」


 割と優遇されているのかな?

 なんて、くだらない笑いを誘っている敦。

 価値観がいまいち合いそうにない敦の事は放っておいて、蓮花は一人、この状況について考え始める事にした。




 今日も、もう一ページだけ投稿する予定です!

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