~対面~(2)
「しかし、どうしたものかね」
依然、答えを出すつもりのない敦たち。
――確かに……、私たちを捕らえておくのなら、手っ取り早く縛っておいて、無駄な問題が起きないようにすればいいのに。これじゃむしろ、自由に調べても良いですよ? ……とでも言っているみたい。
牢屋の中を見回してみても、これといって何かヒントになるような物もない。
異常なまでに落ち着いている空間の中、蓮花は自分の限りある知識を使って推理をしようとしたのだが、一向に答えが出てきそうに無い為行き詰る。
――あーっ、もう! やめやめっ! いくら考えても無理だ、全っ然分からない! だったらこの状況の中で、出来る事を考えよう! ……この中で出来る事~……。
いつのまにか無駄な雑談も終わっていて、皆はそれぞれ押し黙っていた。
この状況に耐えられなくなった蓮花は何とか空気を変えたくて、様子を伺っている皆にある事を提案してみようと、声を掛けた。
「あのっ、自己紹介……しません?」
そう。
この閉ざされた空間の中で出来る事……それは情報収集だ。
いくら考えたところで、分からないものは分からない。
だったら自分たちの情報を出し合って、少しずつ考えていけばいい。
皆に合わせて、いつまでも見つからない答えを考えている……そんな振りをしている人が、蓮花は嫌いだ。
そのくせ誰かが新たな一歩を踏み出そうとする時だけ、待っていましたとばかりに食って掛かる……そんな、他人の揚げ足ばかりを取る中身が空っぽの人間は、もっと嫌いだ。
だからこの、皆で分からない状況を考えている振りをしている空間に、蓮花は苛々した。
「いや、別に今は……そんな呑気な事をしている場合では、ないんじゃないかな」
案の定、敦が制止に掛かってくる。
「でも、分からないのにいつまでもこうしている方が、無駄じゃありません?」
蓮花も食らい付く。
反抗的な態度にカチンときたのか、敦の顔からやや笑みが消えた。
「っ! 君は、ここにいる皆が、一生懸命考えているのを『無駄』と思っているのか?」
「そうじゃありません。でも、八方塞がりのままいつまでもこうしていたって、何も解決しないじゃないですか! っだから……」
皆からの感情のない、冷めた視線に段々と声が小さくなる蓮花。
――どうしてそんな、他人事のような態度なの!
蓮花からもう、これ以上の言葉は発せられないと感じたのか、敦は言わんこっちゃないとでもいう顔をして口を開いた。
「……そうやってね、分かりもしないのに自分の意見を押し通そうとしちゃだめだよ」
よほど自分より若い、格下と判断していた蓮花に口ごたえされたのが嫌だったのであろう。
君は若いんだからまずは周りをよく見て、黙って大人の意見に従っていればいいんだよ。と、付け加えられた。
――その大人たちが一向に話を進めないから、言ったんじゃん。
大人のルールなんて知らない。
しかし、それに対して何も言い返せなかった自分が悔しくて、蓮花は心の中でモヤモヤする。
すると、敦ではない別の、低くて優しい声が聞こえた。
「……でも確かに、何も分からないままよりかは、お互いの事を少しでも知っておいた方が良いかもしれないですね。それにもしかしたら、そこから何か突破口が見えてくるかもしれませんし」
先程のジャケットを貸してくれた男性が、静かにそう言うと蓮花に微笑んだ。
「このままこうしていても何も出てきそうにないですし、ここはこの子の言う通り、自己紹介でもしてみません?」
話を蒸し返された敦は不服そうな顔をしてスーツの男性を見るが、そんな敦を敢えて見ず、男性は他の皆の様子を伺って意見を求める。
「……。っそう、ですね。それがいいと思います!」
蓮花と丁度対向線上に座っていた女性が、そう言って同意をしてくれる。
それを合図に、皆も徐々に言葉を発し同意し出す。
それを見た敦はまだ若干納得はしていないようだったが、皆が同意した流れになっているので、蓮花から顔を背け、口を紡いでいた。
「じゃあ、皆さん賛成ということで……やりましょうか自己紹介。うーん、まずは自分からしますね。俺の名前は、水野大樹。どこにでもいる普通のサラリーマンで、営業をしています。二十七歳です」
――えっ? この人も大樹って名前なんだ……。
話をまとめてくれ、蓮花の意見も聞き入れてくれた男性、水野 大樹。
彼もまた、蓮花の恋人と同じ名前だった事で一気に親近感が沸いた蓮花は、順番に自己紹介をしていく皆の顔を見ながら、水野越しに大樹の事を思い出していた。
今日の更新はここまでです!




