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姫の依頼

お待たせしました!


長いです。

ガタゴト ガタゴト


馬車に揺られてうつらうつらしながら、改めて考えをまとめておく。



病への対抗策のひとつとして私が提案したのは、ごくごく簡単なこと…道の整備だった。


港町キエムから鉱山の町ヤエムまでの地面や

王都までの道にもある大きな亀裂のせいで、旅人も商人も迂回を余儀なくされている。


その遠回りするところを最短距離で行くことができれば、何か病や事故が起こったとしてもこれまでより早く対処できる、そう思ったのだ。


そうして状況を打開すべく、ティアはロードとディエゴ、兵達をずらりと伴って豪華な王家用の馬車に乗り、あるところへ来ていた。



「なんかこの格好で来るとなると緊張するなぁ…肩凝るし」


「姫様にとってはそうでしょうね。あまりお転婆をされては困りますわよ?」

お世話係ということで同乗したマリアが真面目な顔で言ってくる。



とんだ誤解だ。

馬車だし大勢だし移動に時間がかかって疲れるだけであって、私がヤンチャだから馬車の中だと肩が凝るとかそういうんじゃない。

断じて違う。


今回は公務の一環で、きちんと姫としての訪問になるので正装。


薄くピンクがかったドレスはグラデーションで上行くに従い濃くなり、胸元は大きめのリボンで留められ、

いかにも「どうも!私が姫です☆」的な裾もボリュームのあるタイプだ。


頭には公式行事でものせていたティアラが輝いている。地味に重い。


こんな、好きでもないぶりっぶりの姫スタイルで来たのにはちゃんと理由があった。



「姫様、着きました。ヤエムです。」


「えぇ。…出るわ。」


かしこまりました、と馬車の窓の外で一礼する騎士たちがずらりと馬車の入り口に花道を作る。



「ティア・セレスティナ姫様のご到着である!」


…ぐぅ!指示したの自分だけどやっぱ恥ずかしい!!



よく通る声でロードがそう告げると、街中の人が家の外に出てきていて、歓声をあげた。


ぅゎー大歓迎だなー


そっとロードの手をとって馬車を(自分なりに最大限)優雅に降りると、あちこちから「姫ー!!」「ティア姫様ー!!」と声が飛び交う。


公式行事の時は毎度思うけど…むず痒い。


そんなことを胸中で思っているのはおくびにも出さず、声の上がる方へニコッと笑って手を振っておく。



そうしてるうちに町長がやってきた。

「これはこれは姫様!ようこそ我が町へお越しくださいました。噂に違わずお美しい!

わたくしは町長のカエサルと申します。」


背の低い小太りな男はニコニコと媚を売るように話しかけてくる。

ふんだんに宝石を身につけた姿は豚にしん…おっと失礼。とにかく豪奢だ。


「どうでしょう、何と言っても我が町はセレスティナ随一、宝石が美しくーーー」


「そう、宝石が素晴らしいわね。それで、事前にお知らせした通り、今回は採掘なさってる集落の皆さんにお話があるのですが、ご案内いただけます?」


長くなりそうな町長の言葉をやんわり遮りながらお願いすると、

町長の顔に戸惑いと、かすかに嫌悪するような表情が浮かんだ。


「は、いや、しかしあのような場所…。姫様にはもっと良い場所をおみせできるかと」



その言葉に、すっと目を細める。



「町長。私を、良い悪いが判断できないほど愚か者と思ってらして?…ご案内下さいな。」


一言一言はっきり通る声で圧力をかける。


どうだ!お父様直伝!

王族のプレッシャー攻撃!!


町長は今度は油汗を浮かべてブンブンと首を上下にふって歩き出す。


集落の前まで歩いていく間にどんどんギャラリーが増えていく。

ヤエムに滞在している旅人たちや商人も加わって事の成り行きを見守っているようだ。



内心ほくそ笑みながら前を見据えると、集落の入り口には、ノームアンセスタの皆が集まってきていた。


私の姿を近くで見た何人かが小声で「ありゃティアじゃねぇか?」と話しているのが聞こえたが、気にせず先頭にいたノームアンセスタの集落の長・監督に話しかける。



「初めまして。私はティア・セレスティナと申しますわ。貴方が集落の長かしら?」


久しぶりに見た監督は、以前と変わらずゆったりと荘厳な雰囲気を纏っている。


「いかにも。わたしは集落の長で鉱山の責任者のアーネストと申す。して、姫様がこのようなところまで何のご用でございましょう?」



すっと真意を計るような視線を寄越した監督に、ティアは一歩前へ出て告げる。


「セレスティナ王国より、ノームアンセスタの貴方達に依頼があって参りました。」



周囲が一気にざわつく。

思わず唇を笑みの形にした。



「依頼内容は、キエムとヤエム、そして王都とこの辺りをつなぐ橋の建設ですわ。」


「ははは…っ!姫様、あの大きな崖に橋を架けるなど、出来っこありませんよ!」


町長が無礼にも会話に口を挟んでくる。

「―――貴方達なら可能ではないかしら?」


普通の人間ではあの崖は容易に橋をかけることなどできない。

しかし、数人で器用にツリーハウスをいとも簡単に作り、鉱山の中を縦横無尽に駆け飛び回るノームアンセスタであれば?



町長を無視して長に問うと、「いかにも」と、深く頷きながら短い返答が返ってきた。


「それなら良かった。この国のさらなる発展と民の生活のためとなり、歴史に残る大仕事になるのは間違いないでしょう。

では、詳しい話をさせていただきたいのだけれど、貴方達の集落にお邪魔してもよろしいかしら?」


「そうですな。ここで立ち話もなんですし、どうぞ中へ。」



ざわめく周囲を残して、私やロード達一行は集落の中へと入っていったのだった。


お読みくださりありがとうございます!


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