新たな絆
またまた長いです。
くそっ!
俺たちが着いていながら姫様を攫われるなんて!!!!
焦るディエゴにフィリスが言葉を飛ばす。
「俺が追う!ロードたちに連絡をとれ!途中印を上げておく!」
後を追って風のように走って行ったフィリスとは別の方向に、しかし、今できる最善のことをやるべくディエゴも駆け出した。
うーん、ちょっとマズイかなぁ。
あっという間に攫われて、今いるのはどこかの山小屋。
気を失っていたようで、正直どのあたりにいるかも想像がつかない。
ジメジメして薄暗い小屋で、
相変わらず手足を魔力を封じる糸で縛られたまま、猿ぐつわをかまされて床に転がっている。
周りには調教された狼でもいるのだろうか、獣の鳴き声が不規則に聞こえてくる。
私を捉えた男達は私を捕まえてすぐにどこかに行ってしまった。
ふぅ、と一息つく。
この糸なんとかならないかな…
壁にこすりつけたりしてみたけど、
やっぱりそんなものじゃどうにもならないらしい。
かわりに手がこすれて真っ赤になってしまった。痛い。
そういえばフィリスさん、あれ気づいてくれたかなぁ…。
そんなことを考えていたら、
先ほどの男と一緒に、にやにやした笑みを貼り付けた男達がやってきた。
そのうちの1人でいかつい男が私の顔をじろじろと見て、頬をなでる。
「へっへ、肌が絹みてぇだ。ほんとに上玉じゃねぇか!俺達が山に登るなんて、と思ったが来てよかったなぁおい!これは高値で売れそうだ。」
頬を撫でるその手つきに鳥肌がたつ。
「なるべく遠くに売り飛ばせ。」
最初に私を捕まえてきた男達がそんな事を言った。
どういうこと?
私どこかに売られるの?
よくわからないけどこの下衆い男達のところにいくの??
先程男に撫でられた時の不快感が蘇る。
「おい嬢ちゃん大人しくしてろよ~!」
大人しくなんかするわけがない!
「んんー!んんんんっ!!!」
担ごうとする男に捕まるまいと暴れる私に、男が腕を振り上げた。
殴られる!
ギュッと強く目をつむったその時。
外からものすごい音がして、狼達の鳴き声が次々と響く。
「なんだ?!」
どがぁっ!!!!
外を確認しようとした男ごと、ドアがあった辺りが一気に吹き飛ぶ。
それと同時に、
土煙の中から物凄い力を感じた。
何、この魔力…?
普通の魔道師のそれとも違う、
かなりの力を持った魔物のような…
それは、黒いオーラを纏って近づいてくる。
現れたのは、フィリスさんだった。
「く…っ」
高い魔力で圧力を感じつつも男達はなんとか向かっていこうとするが、
その前に距離をつめたフィリスさんの剣で沈んでいく。
あっという間だった。
男たちを倒したフィリスさんの姿をじっと見つめると、
彼の右腕の異変に気づいた。
なに、あれ…?
腕から剣にかけて黒い力がからみついている。
そのあまりの禍々しさに、目が離せずにいると、フィリスさんもこちらを見た。
「…俺が怖い?」
「え?」
その青い瞳が寂しげに揺れるのを見て、
私は何を言われたのか理解した。
確かにこんなに禍々しい力を目の当たりにするのは生まれて初めてだ。
しかも色々返り血とか浴びてるし。
でも、不思議と恐怖は感じない。
溶けるように魔力が消えていったその腕に縛られたままの手を思わず伸ばすと、
フィリスさんはビクッと肩を揺らした。
「助けられて、何を怖がることがあるんです?」
そう言うと、フィリスさんは驚いた顔をした。
いつもクールなフィリスさんのその表情が珍しくて、自然と笑みがこぼれてしまう。
「フィリスさん、来てくれて、ありがとうございます。」
フィリスさんは暫くフリーズしたと思ったら、突然口を押さえて蹲った。
「え!?大丈夫ですか?どこか怪我しました!?」
「いや…なんでもない」
しばらくしてゆっくり立ち上がったフィリスさん。
何故か目を合わせてくれないけど、確かに怪我はしてないみたい。ほっ。
「……ティア姫様。」
糸を解いて自由になった私の手をフィリスさんがそっと握った。
顔をあげると、視線がぶつかる。
その熱い眼差しに、思わずドキっとしてしまう。
「此度はお守りできず、不安にしてしまったこと、お体に傷をつけてしまったこと、誠に申し訳ありませんでした。」
「えっ!?いえいえ!
そもそも私が女の子だからって警戒しきれなかったのが悪かったですし。」
「姫様!!!!!!」
そこでロードさん達が飛び込んできた。
「ご無事で…!!!お守り出来ず、誠に申し訳ありませんでした!」
早々に物凄い勢いで頭を下げるロードさん達。
「あの…頭を上げてください。
それ、今同じ事を言われていたところです。今回は私が警戒せずに女の子を懐に入れたことが問題だったので、
みなさんは悪くありません。」
「いいえ。姫様を危険にさらした失態、罰をもって償う所存です。」
「いやいやいや!!それは困ります!むしろ失態犯したの私ですから!」
しかし…と騎士達はまだごねている。
うーん。。
「じゃあ、このあと王宮まで無事に送り届けてもらうことが償いということでどうでしょうか?」
騎士のみなさんは驚いたように目を瞠った後、複雑そうな笑みを浮かべた。
「では……この失態、これから国王陛下と同じく姫様も我々の主としてお仕えしてお返しすることを許していただけますか??」
「え…あの、私そんな仕えられるほどのものじゃないんですけど…」
「いいえ。改めて、あなた様にお仕えしたいと、心から思っています。
これは、我々全員の願いです。どうぞ受け入れていただきたい。」
見ると、フィリスさんはじっとこちらを見つめていたし、ディエゴさんたちも真剣な目でうなずいている。
「はぁ…えぇと、では、みなさんが仕えるのに相応しい人間になれるように努力させていただきます…」
正直、急なことで自分が姫とか王族とかそういうのに気持ちが追いつかないんだけどな…
その言葉に今度こそ苦笑した騎士達は、
それでもその場で跪き、最上級の敬意を表したのだった。
長文を読んでいただきありがとうございます。
短くまとめられるスキルが欲しい…
そろそろフィリス視点かなぁとか思っております。