風邪をひいたそうです
恋愛偏差値低い人しかいないなこの物語…
「ロードが?」
「…はい、体調不良で今日は休みを取っています。」
フィルが首肯して答える。
「あのロードが体調悪いって…どうしたんだろう」
いつも完璧な彼が体調を崩すなんて想像できない。
「お見舞いにでもいこうかな」
「え、いや、男性騎士の部屋に姫が入るとなると問題があるような…」
ディエゴが焦ったように反対してくる。
「そうです。姫様、いけませんわ。それに風邪がうつったらどうなさいますの?」
「えぇー」
「えぇー、じゃありませんわ!」
ティアがマリアに怒られているその頃。
ロードは部屋のベッドで横になっていた。
昨日雨に長く当たりすぎたらしい。
いつもならそれくらいなんともないのだが、季節の変わり目の雨は冷たく、見事に熱を出してしまった。
熱を出すなんて、何年ぶりだろう?
…まぁどうせこんなに頭が混乱している中で訓練してもどうしようもないか…
昨日のフィルの言葉が胸に突き刺さったままだ。
護りたいのは、ティアとしてなのか、王妃様の形見である姫様としてなのかーーー
王妃様が守りきった姫様を、次は私達が守らなくてはいけない――
そう思ったのは確かだ。
ただ、今姫様を護りたいという気持ちがどこからくるのか、自分でもよくわからない。
寝返りを打っては壁を睨みつけ、まどろみの中、ロードはひたすら考え続けた。
大陸最強と言われるセレスティナにおいて、ディオポルト家は代々、国のために勤めてきた一大貴族。
ロードの他の兄弟達も戦場で名を残したり、英知を発揮して外交や政務で活躍していたりする。
幼い頃から厳しい訓練、礼儀作法などを叩き込まれてきたディオポルト家の兄弟達には言い寄ってくる異性も数知れず。
どの女も打算的で自分のことしか考えず、優雅に暮らすことにしか興味がない。
陰で罵り合いながら自分の前では媚びるような笑みを見せてすり寄って来る女達を、ロードは貼り付けた微笑みであしらいながらも、心底軽蔑していた。
そんなロードが身内以外に尊敬してやまない唯一の異性が王妃、カレン・レイチェル・セレスティナだ。
美しい翡翠の髪をもち、そのエメラルド色の瞳は、常に国と民とその先を見据え、国王や民からの彼女への信頼は厚かった。
初対面で、これまでの女性と同じように対応したところ、こう言われたことがある。
「あなたは仮面をかぶるのがお仕事なのかしら?面と向かえない相手を信頼するのはとても難しいわ。どうしてもと言う時以外やめてちょうだい。」
言外に、その上っ面の笑みをやめろと言われたのだ。
不思議と嫌な感じはしなかったし、歯に布着せぬ言い方は、これまでロードの周りにいた女達と違い、好感がもてた。
そんな懐かしい思い出を振り返っていたら、いつの間にか眠ってしまったらしい。喉が乾いた…
のそりと動くと、まだ熱があるせいか頭痛が酷い。
「みず…」
「はい、どうぞ」
目の前に渡された水を受け取り、ゆっくり飲み干す。
ふぅ…………
「ーーーっ⁉︎」
ガバァッ!!
「わっビックリした!」
飛び起きたロードのベッドの脇にいたのは、ロードの頭を悩ませている張本人、ティアだった。
「あ、おはよう?って夜中だけど。勝手に入ってごめんなさい。ノックしても起きなかったから…」
コレお見舞い、と香りに解熱効果のある薬草を燻りながら、ティアは笑った。
「…こんな時分に男の部屋に入ってはいけません。姫様に妙な噂がたったら…」
叱りたいのだがいつもの覇気が出ない。
「うん、みんなに止められたんだけど…やっぱり心配だから、ちょっとだけ様子見に窓から出てこっそり来ちゃいました。」
こっそり帰るから安心して!と自信満々に言われては何も言えない。
「具合はどうですか?」
これ以上心配をかけてはいけないと笑みを作り体をしっかり起こす。
「お陰様で大分良くなりました。」
薬草を燻りながらじっとロードを見つめたティアは、薬草を机に置き、つかつか近づいて来て顔を覗き込む。
その近さに思わず固まったロードの頬を、ティアは何を思ったか両手でつねった。
「⁉︎」
「勝手なことしたのは悪かったけど。作り笑いは嫌いなの。どうしてもと言う時以外やめてください。で、辛いなら寝てる!」
どこかで聞いたような台詞を言い放ったティアに、「はい、寝る!」と、ばしばしベッドを叩かれ、ロードは脱力したように横になる。
「熱は…少し下がってきたかな。早く元気になってくださいね。」
額に置かれた手は冷んやりとして、なんだか心のわだかまりもほぐしてくれたようだった。
「ティア、様…」
ロードは、その冷んやりとした手にそっと手を重ねた。
読んでいただきありがとうございました。
ひとつめのエンドに向かいつつあります。
そこまでひとまず頑張ります!