害虫撲滅作戦
お待たせしてすみません!
そして長いです。解説的です。
2017/9/20誤字訂正
結構誤字だらけだなぁ…どうもすみません
また何だか物々しいというかトゲのある作戦名だな…
「害虫撲滅作戦」。
もちろん命名は姉上である。
「政権のことしか考えてない貴族なんて害虫以外のなにものでもないでしょ?」
いい笑顔でそういいきるものだから、誰も口をはさめず、
結局犯人のことは「害虫」という呼び名で定着してしまった。
夜が明けて予定通りに作戦は開始された。
エドは隣にいる姉をチラリと見ながら、気づかれないようにそっと息をついた。
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お祭りは、側妃が体調不良で欠席となったほかは何事もなく始まり、今年は初めて姫が出席していることもあってより盛大に行われている。
エドが歌い手に祈りの言葉を捧げ、ティアは片方で柄を持ちもう一方の手で刃を横にして支え、踊り子が跪いて掲げる手に宝具をそっと載せた。
その後、ティアが一歩下がってエドの隣に立つと、
それと同時に拍手が沸き起こり、歌と踊りによる奉納の演舞が始まる。
私は、その歓声を、舞台裏のテントからこっそり眺めながら物陰で息を顰めてじっと時を待つ。
絶対に来るはず…
しばらくして、テントに1人の男が入ってきた。
私がその様子を注意深く見守る中、その男は、この後舞台にいる王族の乾杯に使う予定の杯の前でなにやらゴソゴソしだした。
自分でやる辺り、お仲間は少なそうね?
柔らかな茶色の瞳で優しげな顔に髭をたくわえた―――
「そこまでよ。シュヴァルツ公爵。」
男はビクッと体を揺らしたあと、ゆっくり振り返った。
「おや姫様!ステージに居たはずでは?」
「いますわよ。今も私の姿に似せて作った土人形が。私自身は毒入りのお酒で乾杯するのはごめんこうむりたいと思って、こうして公爵をお待ちしておりましたの。」
「はて?何をおっしゃってるのか…」
全く焦った様子も見せず、穏やかに返すシュヴァルツ公爵。…害虫め。
「じゃあいま後ろに隠した手の中の瓶は何かしら?
貴方が毒を盛った側妃様は無事だし、もうこれまでやったことも全部白日の下に晒されています。早くやったことをお認めになってはいかが?」
「はっはっはっ!この瓶のものはただの香り付けで、杯に一滴垂らすと芳醇な香りを味わえるという一品でございますよ!なかなか市場に出回りませんので姫様がご存じないのも無理はございません。」
こいつ…まだしらばっくれるか。
相手に丁寧にしてるのも馬鹿らしくなって来たな…
「…あまり馬鹿にしないでよね。精霊魔法を使う私からしたらその液体に闇魔法がかかっているのは水に溶かす前の状態で見れば一目瞭然だから。それに言ったでしょ?これまでのこともバレてるって。」
明らかに態度が違う私に、初めて公爵の顔色が変わった。
「どういうことだ…」
「あなたのお屋敷のなか、オーウェン宰相の指揮で査察入ってるから。進行具合を精霊に聞いてみたら、ボロボロと国に害をなした証拠があがってるみたい。ここで逃げられてもあなたに後はないよ。お粗末様。」
「……っ小娘が…!!母親共々邪魔しおって!」
「へぇ、邪魔ねぇ?じゃあ認めるの?あなたが王妃カレン ウィリアムス セレスティナを殺害したこと。」
「ふんっ。あの女には山奥に隠れて暮らしておったところに味方のフリをして行って毒を飲ませたんだよ。せっかく戦争を起こして追い払ったのにまた戻って来られたら厄介だからな。何も知らない姫は勝手に野垂れ死ぬと思って放置したが…こんなことならお前もあの時殺しておけばよかったな!母親と一緒に!そしたら可哀想に孤独を味わうこともなかったのになぁ!!はははは!」
笑い出した公爵を静かに見つめて話しかける。
「…だそうですよ?」
その言葉に応じてカツンと靴音をならしてテントに入って来たのは、騎士団長やフィル、ロード達を伴った父…国王陛下だった。
「シュヴァルツ。貴様という奴は…野心に喰われたか!愚か者がッ!!」
一喝。
凄い迫力だ。肌がビリビリする。
これが国を束ねる者の権威なのか。
「へ、陛下…なんのことだか…」
「しらばっくれるな!ティアの魔法でテントの外にも声がダダ漏れだ。貴様の悪事はこの耳で聞いた。」
「あら、言ってませんでした?風の魔法で声を広範囲に聞かせることができるって。いまの会話、この周辺に居た国王陛下は勿論、皆様聞いていらっしゃいますよ?」
「な…っ」
「――父上、これ以上恥の上塗りはおやめください。」
「!!シ…シェール…!?」
おや、息子がこっち来てたか。
査察終えてオーウェン宰相が連れて来たってとこかな?
にしても、父親のしてたことに気付いて裏から色々と調べていたこの人がいなければ、こうもスムーズに悪事を暴くことはできなかったかもしれない。
チャラい雰囲気が苦手だけど、能ある鷹は爪を隠すってこういうことなのか。
フェミニストで常に優しい微笑みをたたえていたそのアメジストの瞳を今は細めて厳しい表情で父親である公爵を見ている。
「恐れながら、陛下。シュヴァルツ家の当主が今日付で私・シェールに変わったことに関するご挨拶はまた後日改めてさせていただきたく。」
「うむ。そなたは実力、思考、知恵が備わった優れた当主になりそうだな。楽しみにしている。」
「ありがたき御言葉…」
「なな、な、何を言っている!?シェール!!」
おー取り乱しちゃって。
優しげな表情はどこへやら、鬼気迫るギラギラした目でシェールへ詰め寄ろうとするが、シェールが目にも止まらぬ早さで剣を抜き、喉元につきたてたことで動きを止めた。
「父上。何度も言わせないでいただきたい。これ以上シュヴァルツ家の名を貶めるのはおやめください。」
その温度のない声にようやく自分の状況が最悪だということに気付いたらしい公爵は、頭をかきむしる。
「……………っ!!くそ…!くそぉぉ!お前っお前さえいなければ!」
くるりと向きを変えて私に突進してくる。
手には、仕込んでいたのだろう、短刀を構えながら。
『―――緑の鎖』
静かに唱えた呪文によって地面から物凄い勢いで蔦が飛び出し、公爵を拘束。
ナイフを取り落とし、がんじがらめになりながら蔦を解こうともがく姿は
優しい品行方正なシュヴァルツ家ご当主様のそれとは最早かけ離れていた。
「――お父様。これって、正当防衛よね?」
「あぁ勿論。私の分も頼むぞ!」
即答でかなり真剣に言われたその言葉に、思わず笑って手をヒラヒラ振る。
「りょーかい。害虫にはお仕置きが必要だからね。」
そういいながら恐怖で目を見開く公爵の目の前までとことこ歩いていく。
少し風の魔法で簡単に身動きはとれないようにしておきながら蔦を解除して、そのまま拳大の塊にする。
それを振りかぶり―――
どごぉッッ!!!!
「ぐふぅアッ!??」
鳩尾へ真っ直ぐ蔦の拳をぶち込む。
喘ぎながらも、無理矢理たたせているから倒れることはない。
「今のは父さんのぶん。続きまして勝手ながら側妃様のぶんー。」
蔦を掌型にしてもう一発今度は後頭部からどつく感じで――
ベキャアッ!!!!
「……ッゴァ…ッ!!!?」
あ、すごい音したけど平気かな?
まだ意識を失われちゃ困るから手加減したんだけど。
軽く覗き込むと、肩で息をしながら、
血走った目がこちらを睨んできた。
うん、大丈夫みたい。じゃあ心置きなく。
地魔法の蔦も拘束してた風魔法も解除すると、力が抜けたのか、公爵は地面に膝をついた。
「これが最後」
足を踏ん張って、固く握りしめた拳を、公爵の顔に渾身の力で叩き込んだ。
ばきぃっ!
「ごぱふゥ!!?!」
後ろに吹っ飛んで白目を向いた公爵を、肩で息をしながら冷めた目で見下ろす。
「…これは、あんたのせいで無用な戦いを強いられて苦しんだ人たちのぶん」
そう言ったわたしに、「王妃様と姫様の分はよろしいのですか」と騎士の誰かが尋ねた声が聞こえてきたけど、私は害虫が吹っ飛んでいった方を虚ろな目で見やり「………死ぬよ…?」とだけ答えた。
少なくとも私の分の怒りをぶつけて止められる自信はない。
近くにいた騎士が、両脇を抱えて公爵を連行した。
そう、死なせては困るのだ。
法的に、国として裁かなければただの自己満足で終わってしまう。
公爵と自分の血にまみれて真っ赤になったままの拳にそっとエドが触れ、
さらに父さんが背中をそっと支えてくれて、冷えた心がじんわり心が温かくなる。
そう…私にはまだまだ守りたい人達がいるんだ。
うん、守りたいこの人達と過ごす何気ない日々を、大切にしていけばいい。
母さんの分まで。
ふと顔を上げると、フィルとロードもこちらを見ていてその顔があまりにも心配そうだったので、なんだか可笑しくなって小さく笑った。
視界が明るくなって、優しい空気で包まれていく。
私は母さんが死んでから久しぶりに穏やかな気持ちになれた。
こうして、長い間苦しめられた割にはあっけなく害虫捕獲は終わったのだった。
読みづらい文章を読んでくださりありがとうございます!
というか、ダラダラした文章になってしまい申し訳ありません…
コンパクトにしようとしたらものすごい時間かかっちゃって、
もう無理だと思ってこのまま(苦)
よっしゃー!あともう少し!…です!