姫様の日常?夜会編
登場人物増えてきた…
「あー部屋が落ち着く……」
「姫様、いくらなんでもソファからずり落ちながら寛ぐのはだらしなさすぎます。」
「この適度なうるささ、帰ってきた感じがして安らぐわ〜」
「お望みならもっとうるさく致しましょうか?」
「大丈夫ですすみません。」
むくっと身を起こしながら肩のコリを揉んでほぐす。
「あーあ。明日は夜会か…。行かなきゃダメ…よね」
そう、明日は別の貴族邸で開かれる夜会へのお誘いだ。
お茶会ですら肩凝るのにより大勢の貴族がいる夜会って…
「明日の主催者シュヴァルツ家はセレスティナ国ではかなりの有力貴族なので、無視はできないかと。ご子息の誕生会ですし。」
ソファにのの字を書き出した私を見てマリアは形のいい眉を困ったように下げた。
「明日はエドワード殿下もいらっしゃいますし、私も参りますわ。護衛してくださるロード様、フィリス様も貴族としての立ち居振る舞いは完璧ですから、ご安心くださいませ。」
遠い目をしたままとりあえず頷いた。
翌日、決意とコルセットを固く締め、夜会へと出発。
今日は紺のシフォン素材のドレスで、ふわりと広がるスカートからはお披露目の時と同じような繊細な白いレースが覗く。
背中は編み上げており、そこにシフォンとレースが合わさった大きなリボンがアクセントとしてついている。
理知的、かつ少女らしさも失わないデザインだ。マリア曰くテーマは「女性と少女の狭間」だそうだ。
小さめのエメラルドのネックレスとイヤリングをして派手過ぎない華やかさを演出。
うん、エメラルドは私が着飾る時のお決まりのコーディネートになりそうだね、ドレスを選ぶマリアの。
ただし夜会なので今回は肩口が広く空いて、スースーして落ち着かない。
これ大丈夫かな?肩ですぎじゃない?
「姉上、とてもお似合いです。」
エスコートするために迎えに来たエドがそう言ってくれなければ堂々と歩けなかったかもしれない。
「よし、お祝いの言葉を伝えて美味しいもの食べて帰ろう!」
「恐れ入りますが姫様、貴族の方々が次々にご挨拶に来られると思いますわ」
「げー…」
握りしめた拳を力なく下げ思わずそうこぼした声に、脇に控えてエドと私を警護するロードがくすりと笑った。
「殿下は慣れておいでですから、そのやりとりを見ているだけでも今後のためになるかもしれませんよ。」
「むぅ。エド…先生?」
こてん、と顔を覗き込んだらエドは「せ、先生て…」と言いながら真っ赤になった。
軽いおふざけだったんだけど…嫌だったかな?
「とにかく全力でティア・ウィリアムス・セレスティナをやりきるわ!」
「ふふ…じゃあ姉上、行きましょうか?」
差し出されたエドの手をとり、中に入っていくと、一気に会場中から注目が集まった。
まずは主催のシュヴァルツ家のご当主と、お誕生日のご子息に挨拶……
ていうかそんなに一挙手一投足注視しなくてもいいじゃないか!
別に何もしないっての!
「シュヴァルツ公、この度はお招き感謝する。」
「おぉ殿下。よくお越しくださいましたなぁ!」
にこにこと優しげな表情で答える髭面のこのおじさまが、シュヴァルツ公爵か。柔らかな茶色の瞳がゆるりとこちらを見る。
これが百戦錬磨の貴族のプレッシャー⁉︎あ、圧が…
「そして…姫様も、ようこそおいでくださいました。お披露目の時は大変でしたね。」
私は姫になって最大重量のネコを装備した。
「お招きいただきありがとうございます。陛下と殿下、騎士達のおかげで何も大変なことなどございません。」
「何をおっしゃいますか!姫様のお力、しかと拝見しましたぞ。」
「まぁ…おほほ。はしゃぎすぎてしまってお恥ずかしい限りですわ。」
恥ずかしげに俯き顔を扇子で隠す。
「父上。そろそろ私もご挨拶させていただきたいのですが」
「おぉ!すまんな。殿下、姫様、これが息子です。」
「殿下、そして強く美しい姫様。お目にかかれて光栄です。シェール・シュヴァルツと申します。」
なんかチャラい…
肩まである薄茶の髪にアメジストの瞳を持つシェールは、マリアによるとフェミニストで女性との噂も絶えないのだとか。
そんなシェールが、自然な流れで手をとり唇を落とす。
貴族の挨拶とはわかってはいるけど前触れもなくされるとちょっとビックリしてしまう。
ちょっとだけ嫌悪感が顔を覗かせたが全力で押さえ込んで微笑む。
「…この度はおめでとうございます。こちらこそ、お会いできて光栄ですわ。」
にっこり笑ってから挨拶待ちの次の貴族へ場を譲ったけど、このあとの夜の長さを思い、扇子の下で密かに溜息を零した。
ティアは溜息をつき過ぎて幸福が逃げそうですね。
もう少しで話が動く………
もうすこし……いけるかな…(笑)




