姫様の日常?※10/27微妙に改訂
フィルのおまじないのくだり、ちょっと変えてます。
どこにどうしたのか、入れようと思って忘れてました。失礼しました…
翌朝。
いつの間にかベッドで寝ていた私は、慌てた様子のマリアに起こされた。
「姫様。先日の召還師の件でお話があると、客間にオーウェン宰相様がいらしていますわ。起きてくださいませ。準備致しましょう」
寝ぼけていた頭をなんとかたたき起こして身支度を整えて客間へ向かうと、難しい顔をしてオーウェン宰相と、フィル、ポルナレフがいる。
「姫君、朝早くに申し訳ありません。」
「いいえ…何かわかったのですか?」
黙ったまま首をゆっくり横に振るのをみて、なんだか嫌な予感がした。
「…召還師が、捕らえていた監獄の中で、殺されていました。」
「!!」
「監視の者たち全員が体から一気に力が抜けて気を失ってしまった、目を覚ました時にはもう召還師は事切れていた、と証言しておりまして。なにが起こったのか…」
「……確かではありませんが、向こう側に魔法使いがいる可能性が高い、ですね。」
考えつつ、そう口を開く。
監視の人達は力、というよりおそらく一気に生気を抜き取られたのではないか。
そんなことができるのは魔法使い―――中でも闇の精霊魔法を得意とする者だけだ。
大人数を一気にとなると、かなり強い魔力を持っている恐れがある。
「…………面倒なことになりそう…」
じっとりと湿気を帯びた空からは、ポツポツと雨が降り出していた。
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「…面倒なことになったわ…」
どうやらお披露目が成功に終わったようで、というか、何が刺激剤になったのか、お披露目のパーティーが終わった直後だっていうのに、お茶会やらなにやらのお誘いで引っ張りだこになっています。
召還師が殺されたことでこちらから堂々と動けなくなってしまったため、しばらくは貴族のみなさんとの友好を深めるべく、あちこちに顔を出すことになった。
はい、宰相様の指示です。
貴族のお嬢様方と、うふふおほほと笑いながら微笑みの仮面をかぶる会話は楽しさのカケラもない。
ていうかひたすら面倒くさい。帰りたい。
騎士の訓練見てた方が何十倍も楽しい。
お姫様とはこんなにもバタバタと過ごすものなんでしょうか。
ちなみに普段お世話係のマリアだけど出かけ際に貴族の会話の注意事項をこれでもかというくらいに言っていたけど、侍女長でもある彼女は簡単に城をあけられないので、今回はフィルとポルナレフをお供にやってきた。
お茶会は先日のパーティーほど煌びやかではないものの、みんな華やかな装いで、ゆったりと紅茶と会話を楽しんでいる。
ただ、会話のネタと言えば、平民も貴族も変わらず、恋バナらしい。
あそこの貴族の殿方とあのお嬢様が恋仲だとか、ロマンス小説の話とか、隣国の皇子が素敵なのだとか…昔からこの手の話は聞き役だった私はうんうんと適当に相槌をうっている。
「それにしても…。姫様のお披露目パーティーで不届き者を手を取り合って成敗したお2人の姿…!本当に神々しかったですわ!いまや貴族の間ではディオポルト様と姫様が恋仲なのではないかと噂されているんですのよ!」
「騎士様と姫様の秘密の恋…素敵ですわぁ」
「ディオポルト家のロード様は皆の憧れの騎士様ですものねぇ…本当にお似合いのお2人ですわねぇ」
盛大にむせた。
「まぁ!姫様、大丈夫ですの!?」
「ゴホッ!ぐ…だ、大丈夫ですわ…。ロード・ディオポルトは信頼している騎士の1人ですけれど、その信頼は色恋に代えられるものではありませんわ。物語への憧れからそんな噂が広まっていったのではないかしら。」
むせたせいで少々赤くなりながらもにこりと微笑みを浮かべる。
心の中では、勘弁してくれよ!と叫んでいるけどね!
「まぁそうですの…」
ちょっと残念そうな貴族のお嬢様方。ごめんよ。でもヘタな噂での面倒は回避したい、ホント。
その後も彼女達の会話になんとか返しながらやりすごした。
「はぁ…つっかれた…」
「お疲れ様です。」
「あ、うん…フィルもお疲れ様。」
車内に沈黙が落ちる。
帰りはポルナレフと騎士達数名が外を、フィルが馬車の中の警護している。
行きはポルナレフが馬車の警護を担当していたから、実はあのパーティー前に妙なおまじない…額にキスをされてからフィルと2人きりになるのはこれが初めて。
フィルは全然意識してなさそうだけど…
私はどんな顔をしていいのかわからず、ずっと窓の外を見ていた。
沈黙を破ったのはフィルだった。
「………姫様は、寛容で落ち着きと人望と頼り甲斐がある騎士の方がお好みですか?」
「は?」
いきなりの質問に思わず顔を上げると、目が合ってしまい、慌てて顔ごと横を向いて逸らした。
あ、今の逸らし方は不味かったかも。
「…護衛はロードの方が良かったかと」
小さな呟きに、先ほどご令嬢達がロードの話をしていたのを思い出す。
護衛として近くに控えてたからフィルにも聞こえてたんだ。
「…っ、いや、そんなこと…もちろんロードは頼りになるけど…」
そう言うとフィルの瞳が曇り、ますますしどろもどろになる。
「いやいや、えっと、フィルが側にいると、緊張して安心するというか、えーと何て言うか、とにかく助かっているので…」
手をわたわたさせながらなんとか思ってることをを伝えようとするんだけど、うまくいかない。
さっきみたく信頼する騎士の1人だって言えばいいのに何でこんなに言葉に詰まってるんだろう?
くっと笑い声が聞こえたので顔を上げると、軽く口元を抑えたフィルが肩を揺らして笑いを噛み殺していたけど、こらえきれず吹き出していた。
フィルって、こんな子供みたいな顔で笑うんだ。キラキラした笑顔にドキっとする。
「…失礼しました。というか何故そんなしどろもどろに」
「え、いや、なんで、かなぁ?」
どこまでも優しいフィルの眼差しに何故こんな空気になってるのかわけもわからず、心がざわつく。
「……ありがとう」
口元を緩めるあの笑み。やばい、と…蕩ける。
「いえ!こ、こちらこそお世話になりまあうっ!」
思わず馬車の中だということを忘れて立ち上がってしまい、思いっきり天井に頭を打ってしまった。
「…大丈夫?」
支えて座らせてくれたフィルの手が頬にそっと添えられる。
綺麗なのに予想よりも大きくてしっかりと頼れる、騎士の手だ。
その手に頬をひとなでされ小さく悲鳴をあげた私に、フィルはまた笑った。
待っていて下さった方、すみません!
納得いかず何通りかストーリー書いてみてたらこんなに間が空いてしまいました…
次はあまりあかないように頑張ります!