無防備もほどほどに
※2017/9/20誤字修正
「姉上、大丈夫ですか⁉︎」
あの後部屋に戻ってマリアの淹れてくれた紅茶で一息ついていると、心配したエドがやってきた。
私の姿を見て、色が…とつづけたので、何故焦ってやってきたかわかった。
体から色が抜け、髪も目も透明で、特に目は血管が透けて赤くなってしまっているので、普段とは全然違う姿になってしまっている。
もともと魔力量自体は多い私だけど、魔法の濃さや使いようによっては精命力を削られて、色素が抜けてしまうのだ。
「私は大丈夫だよ。少しずつ使えばたくさん魔法使っても問題ないんだけど…ちょっと一気に高濃度の魔力使ったからね。休めば魔力と同時に戻っていくから。」
ちょっと眠くてうとうとしちゃうけど…
「白銀の髪に紅の瞳…なんだか物語に出てくる神様のような姿で、姉上がどこかに行ってしまったように感じてしまいました…」
随分持ち上げる言い方するなぁと思いつつ、きゅ、と座る私の袖を掴んでそんなことを言うもんだから、あまりの可愛さに頭をぎゅむっと抱きしめた。柔らかい髪に頬ずりするとエドは気持ち良さそうに目を細めた。
「でも、結局用意したものも無駄になっちゃったなぁ…」
そう言うと、エドが抱きしめられたまま、なんのことですか?とこちらを見上げる。
「あぁ、私が魔法を使えるってことを明かして、刺客差し向けても無駄だってことを理解してもらおうと思ってたんだ」
本当はさっきみたいに魔物をガツンと倒すのが一番わかりやすかったんだけど。
「さすがにお父様もエドもいるところで危険なことできないし…と、思って宰相と相談して【見て楽しい、実は怖い、魔力披露会☆】を考えてたの」
種から一気に花を咲かせるフラワーシャワーでも見せたら出し物的でいいかも、とか話して用意した種が無駄になってしまった。
また別の機会にでも使うか……
「なるほど…」
「これから私に近寄ってくるかもしれない貴族達へのけん制にもなるし。魔法使いの姫なんて扱いづらいし怖いだろうと思って。」
「言い寄ってくる輩は後をたたない気もしますけれど…しかし、それであれば大丈夫かもしれません。」
「え、そうなの?」
「はい。姉上が退室した後、‘ティアを政や己のために利用するなど、言語道断、そのようなことをした暁には、そなたらの未来がどうなるか考えておくことだ’…と父上が貴族達に釘は刺していましたので。」
流石お父様!伊達に国王陛下やってないですね。
「じゃあ結果オーライって感じかなぁ。よかった。」
「…殿下、姫様。そろそろお休みになられた方がいいのでは?今日はお疲れでしょうし。今日捕らえた召喚師の件で明日は朝から動きがあるかもしれませんので。」
ロードにやんわりそう言われて私は渋々エドを離す。エドも少し不満げだったから、ちょっと嬉しくなった。
「じゃあ姉上、おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。マリアも今日は下がっていいよ」
「畏まりました。食器類を下げてそのまま失礼致しますね。」
そうやって皆が部屋を去り、最後にフィルが一言挨拶を述べて部屋の前で警備するために扉に向かっていく。
怒涛の一日が終わって気が緩んだのか一気に眠気がきて、まどろんでしまう。
うー、と声を出すと、こちらを軽く振り返ったフィルがこちらに戻ってきた。
「…姫様、大丈夫ですか。」
「むぅ、ねむい…ふぃる」
こちらを覗き込むフィルになんとか笑顔を作って、おやすみ、と声を出したところで意識を手放した。
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俺は試されてるのか?
緩み切った笑顔でおやすみ、と呟き寝息を立て始めたティアを見てフィルは頭を抱えた。
デジャヴだ…
「なんで毎度毎度こうも無防備なんだ。」
自分に無防備に接してくれるのは嬉しいが…というか他の男の前でなんて絶対にこんなことさせないが。
おそらく俺のことを男として全く意識されてないのだろう。
鈍いにも程が有る。
深いため息をついてから、起こさないように抱きかかえ、ベッドへ運ぶ。
光を通して銀色に見える髪に陶器のような肌、そして今は閉じている瞳の紅を思い起こす。
魔物を倒した後、気づくとその姿になっていたティアを見た時には、儚さに驚き、目を離すと消えてしまうんじゃないかと思った。
だから思わず駆け寄り、平気だというティアに構わず国王陛下に進言して部屋まで連れて帰ったのだ。
美しい、とは思うが、いつものキラキラ輝く琥珀の髪や新緑のような緑の瞳の方が、生命力を感じられて好ましい。
…早くいつもの瞳に俺を写して、そして、笑って欲しい。
そんなことを考えつつティアを眺めていたら少し開いた唇に吸い寄せられつい口付けそうになったが、なんとかこらえて額にそっとキスを落とした。
読んでいただきありがとうございます。
耐える男、フィル。
報われる日は来るのか?
……来ないのか?
とりあえず、作者自身迷いながら書き進める感じになります(笑)
次回もよろしくお願いします。