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嫉妬

たくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。

最近更新遅いですが、がんばります。


ざわついていたホールが静まり返った。


誰もが息を詰めてこちらを見つめている。


その無言の圧力を肌で感じつつ私がスカートの裾をつまんで膝を落とし優雅に礼をとると、王座に座る父の傍にいたエドが私をエスコートしに赤い絨毯の上を歩いてくる。


差し出されたエドの手をとり、そのまま父の前までゆっくり進む。

あ、父の隣の少し離れたところに側妃もいた。

そんなに睨んだら敵意がバレバレだけど大丈夫?



その間も他の貴族からの熱い視線は注がれたままだ。

人の視線が本当に熱を持っていたとしたら、既に溶けているだろうってくらい。



「国王陛下。この度はこのように素敵なパーティーを開いてくださったこと、感謝申し上げます。」


「うむ。ティア、こちらへ。」


挨拶をした私を見て、父は満足そうに頷き自分の傍へと私を招く。


「皆、紹介しよう。我が娘、ティアだ。」


「皆様、お初にお目にかかりますわ。私がセレスティナ国王女、ティアにございます。本日はご挨拶の場に集まって下さり、感謝致します。

そして、皆様がいつも陛下や殿下の力になってくださっていることへも感謝を…

わたくしが政に関わることはありませんけれど、国のために力添えできればと思っております。どうぞ、以後、お見知り置き下さいませ。」


優雅に、かつ、父とエドの下なのだということをここでもアピールしておく。

さらには姫ということで微笑みというエッセンスで加えて警戒心を薄める。


貴族からの惜しみない拍手を見る限り、なんとかなったようだ。

ちょっと苦い顔してるおじさんとか何人かがエド派ってことかな?


「今宵はティアの為のパーティーだが、皆も存分に楽しんでくれ。」



父の宣言で音楽が鳴り始め、パーティーが幕を開けた。


しかし視線はまだあちこちから感じる。これは…雰囲気的にまず私が踊らなきゃダメかなぁ。一応主役だし…。



「姉上。踊っていただけますか?」


天使が手を差し伸べている…と思ったらエドだ。


いつもの可愛さに何だか凛とした佇まいがプラスされている。

白い軍服の所々に髪色に合わせて輝く金の石がつけられ、詰襟がよりエドの清廉さや真面目さを感じさせ、つまるところ王子の衣装がよく似合っている。

そんな天使様から願ってもない申し出。


「喜んで!」

嬉しくなって、笑って手を重ねる。



エドの頬がほんのり桜色になっていく…

やっぱりこんなに大勢に見られたら慣れてるエドでも緊張するんだね。

そう思ったら今私が固くなるのも仕方ない!何だか励まされた気がする。


明るい音楽に合わせてステップを踏む。

フィルもすごくうまかったけど、エドも上手で、頭一つ小さいながらもしっかりエスコートしてくれる。頼もしい義弟がいて幸せすぎる。



くるっと一回転してダンスを終える頃には、ホールのあちこちで同じように踊っていて、じろじろ見られる数もだいぶ減っていた。


「殿下、とても楽しかったですわ。どうもありがとうございます。」


「よかった、姉上を独り占めできるなんて世の男性達に恨まれてしまいそうですが、ぜひまた踊りましょう」


そう言いつつ名残惜しそうに手を離して、父のところへ戻って行った。

あんな気障なセリフどこで覚えたの?

女の人をもてあそぶ人にならないといいけど…お姉ちゃんちょっと心配。




さて!ノルマのダンスも終わったことだし、

ここからは美味しい宮廷料理でも食べま、す…か?




意気揚々と振り返った私の目に写ったのは、私から続く行列だった。



「…?」


何だというのだろう。私は何も配るようなものを今は持っていない。いったい何待ち?

いつの間にか傍に控えていたロードが、「姫様とお近づきになりたいようです」と耳打ちしてきた。



え、踊るってこと?この行列ぜんぶ!?

軽く数十人いない!!!??



そこから姫としての役割を全うすべく狂ったように踊り続け、

半分を越えたあたりでようやくロードが止めてくれた。


「姫様、お疲れのようですので、少し休まれてはいかがですか?」



ロード、ナイス!!!



「えぇ、そうね。楽しくてついつい踊りすぎてしまいましたわ。

皆様、ありがとうございます。少し失礼致します。」


なんとか息切れを隠しつつ、微笑みながらすっと礼をとって下がると、

貴族達は残念そうにしつつも、笑顔を浮かべて去って行った。



それを見届けてため息をつく。


「死ぬかと思った…ありがとう。」


「いいえ。単にあれ以上別の男と踊られるのがたまらなかったものですから。」


「?よく意味がわからないけど…助かりました。」


「…本当に分かっていませんね。

あなたは今宵の月が恥ずかしがって隠れてしまいそうなほど輝いていらっしゃる。私が騎士の身で言えたことではないですが、あまり異性として貴族達に意識されるのが面白くないのです。」


「えーと……褒めていただいてありがとうございます…お世辞でも嬉しいです。でもなんだか今の言い方って、ヤキモチ焼いちゃった、みたいに聞こえちゃうんじゃないかと…」


燃えるような目で見つめられたのを誤魔化すように笑ってみた。


「そう申し上げてます。できれば誰にも貴方を見せたくない。それくらい貴方は魅力的な女性ですから。」



一瞬間をおいて。



「…っ!!!」

かぁっと一気に耳まで熱くなる。


急になんてこと言い出すの!?それ素ですかタチ悪いんですけど!

ていうかもうその笑顔も本当に凶器だから!


慌てて真っ赤になった顔を扇子で隠して仰いでいたら、できれば近寄りたくない人がやってきた。


側妃だ。


信じられないくらいに熱が冷めたのでそれだけは礼を言いたい。

ひとまず、すっと頭を下げる。

「側妃様。今宵はありがとうございます。」


「フン、そういう格好をするとますますあの女そっくりね。」


扇子で口元を隠しても目が嫌なものを見るようにゆがんでいる。

挨拶もまともに返せないのか。

っていうか嫌なら近づかなければいいのに。


「あの女とは、母のことでしょうか?

母に似ているといわれるのはとても嬉しいですわ。ありがとうございます。」


にっこり笑うと、ますます顔がゆがんだ。


「…ッそうやって余裕ぶってられるのも今のうちよ!」


踵を返した姿は、やはり猪のようだった。


「…あの人が側妃なんて…何を見込まれたのかしら?」


「それは…有力貴族の娘というだけです。戦争を終えたばかりで、国としての結束をより強めるための婚儀でもありましたから。ただ、あそこまで愚かだとは思いませんでした…私の人選ミスです。」


ぽつりとこぼした呟きに、まさか返答がくると思わず驚いた。


「オーウェン宰相が気に病むことでもありませんわ。最近はエドに何もしないようだから私は別にいいんだけれど…今のセリフ…何か仕掛けてくる気かしら?」


「王妃の死はまだ公にしていませんが…ただ生死不明の状態でも王妃様への信頼、親愛は全く薄れず影響力はあります。そう考えると、姫様に関しては確実に死んだということを周囲にわからせるために今日仕掛けてくるという可能性もゼロではありませんね。とはいえ、こんなに大勢がいれば味方の貴族も巻き込んでしまいますから、ここでというのはさすがにないでしょう。ですから姫様には、」



オーウェン宰相がその先を言う前に、会場から悲鳴があがった。



読んでいただきありがとうございます!


果たして無事に話が進むのか…心配です。笑


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