今日のフィルは何だかおかしい。
フィルが…
ようやく部屋の前までやってきた。
もちろんお姫様抱っこされたまま。
ダンスホールからここまで遠すぎるわ!
途中誰にも会わなくてホントよかった!さすがに恥ずかしい。
「わざわざありがとう、フィル。もう大丈夫だから、降ろして?」
「ああ。」
「痛っ!?」
フィルが私を降ろそうとした時、
フィルの服のボタンに私の髪が引っかかってしまった。
「少し待って」
取ろうとしてくれるものの、変に絡んでしまったようで、なかなか取れない。
仕方ない、ハサミで切ってしまおう。
「フィル、ちょっと中に入ってもらってもいい?」
フィルは軽く目を瞠って逡巡したけれど、おとなしく従ってくれた。
「こっち」
フィルを誘導するために手を取り、鏡台まで歩いてハサミを探す。
「なに探してるの」
「ハサミ!」
「…ひょっとしてこの髪、切る気?」
「うん。サクッと。」
深いため息。え、駄目?
「ざんばら髪の姫なんか笑えないよ。もう少ししたら取れるからちょっとここ、腰掛けて。」
側にあるソファに座らされる。
その隣にフィルも座り、作業に取り掛かった。
もう大人しくしておこう…。
すぐ目の前ではフィルが髪の毛と格闘しているけれど、意外と不器用らしく、手つきがもどかしい。
でも、顔はかなり真剣だ。
まつ毛長いな…
息がかかりそうな距離に若干緊張してしまう。1日に何度もこの経験はそうそうできるものじゃない気がする。
「よし、取れた」
「やった!」
思わず2人で顔をみあわせたら、かなりの至近距離で見つめ合う形になってしまった。
しかもフィルの方が頭が上にあるから見上げる感じだ。
冷たいと思っていたブルーの瞳は、今は優しげに揺れている。あまりにも綺麗に揺れて、その瞳に吸い込まれそうになってしまう。
少し沈黙が流れた後、フィルはゆるゆると絡まりが取れたばかりの髪をすくい、キスをした。
「!!」
「綺麗な髪なんだから大事にしなよ」
そう言って口元を緩め、立ち上がった。
硬直してる私をよそに、「じゃあまた明日」と行ってさっさと立ち去ってしまった。
え…………?
何!?なんだったんだ!!!!
なにゆえ髪にキッス!
わたしフィルに嫌われてるんじゃなかったっけ?
もう今日のフィルはわけがわからない。
ダンスを教えてくれたり、お姫様抱っこをしたり、髪にキスをしたり。
動揺が収まらずベッドに飛び込んでジタバタ悶えていたら、疲れがどっと来たのか、私はいつの間にか眠りに落ちた。
急に甘いな…
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