一触即発?
私は現在16歳。
社交界的には遅めのデビューということになるので、こんなに急いでいるそうだ。知ったこっちゃないけど、ここで頑張ると決めたからには全力でがんばります!
というわけで、マナーから王族らしいふるまい、
これまでの歴史などを急ピッチで仕込まれた。
歴史ならわかるけどマナーとか会話に関する本とかこんなに必要なのかってくらい積み上げられて、かなり引いたなぁ…。
怒涛のように時間が過ぎていく。
合間合間に、エドが遊びに来てくれたり、一緒にレッスンをしたりして楽しめたっちゃ楽しめたんだけどね。
ただ壊滅的なのは馬術とダンス。
馬は昔から苦手だった。
母との旅の最初に一度だけ暴れ馬に当たってしまったのがトラウマで、
それ以来1人では乗れたことがない。
真っ青になって馬を見つめる私の手をエドが優しく握ってくれた。
馬術の先生からは、とりあえず馬と触れ合うことからならしていきましょう、と言われたので、少しずつ距離を縮めて恐怖心を薄くするべく、餌をやり、体を洗う。
エドも自分の乗馬の話をしながら一緒になってやってくれたので、結構気がまぎれた。うんうん、持つべきは可愛い義弟だ。
馬術の訓練の時間を終えて、護衛のロードさん含む数名の騎士さんをともなってエドと城内を歩いていると、向こう側から貴族らしき集団がやってきた。
「なぜここに…」
彼らの姿を見たロードさんが聞き取れるかとれないかのレベルで呟く。
「姫様。国の議会に席を持つ貴族達です。彼らの言葉を借りると、失礼ながらエド様派です。」
そもそもどちら派も何もないんだけどね…
同じことを思っているのか、エドがひとつ呆れたようなため息をつく。
「わかりました。ありがとうございます。」
貴族の集団がこちらを見て足を止める。
集団のまとめ役なのだろう、目が細い面長の男が一歩前に出る。
…キツネみたい。
キツネさんは軽く頭を下げて挨拶してくる。
「これはこれは…姫様ではありませぬか。お目にかかれて光栄でございます。私はオークレイと申します。公爵の地位を賜っております。」
公爵…って結構身分が高いってことね。
私は腰を落とし礼をする。
「こちらこそ、お目にかかれて嬉しいですわ。オークレイ公爵。
私、これからは国王陛下と殿下を陰ながら支えられるように尽くしたいと思っておりますの。姫としてどこまで力になれるかはわからないのだけど…あなたも色々教えてくださる?」
そう言って首を傾け、私なりの最大限の優雅さを意識してにこりと微笑む。
暗にエドに対抗する気とかないよーと言っているんだけど。
公爵の周りにいる貴族達はたじろいで公爵と私を見比べている。
フフンどうだ!
昨日深夜まで鬼マリア先生に仕込まれた王族っぽい振る舞いは!
あくまで付け焼刃だから「っぽい」だけだけど!!
「…既にエドワード皇子とも打ち解けられたとは。城下での交際術が活かされたということですかな?やはり平民に混じって暮らしていただけありますなぁ」
ピクッと口が引きつりそうになるのを全力で押しとどめた。
…嫌な笑い方をするやつだ。ホントにキツネみたいな表情。
うん、決めた。キツネ公爵と呼ぼう。
私が言い返す前に、エドが一歩前に出てキツネ公爵と私の間に割って入った。
「…オークランド公爵。それは姉上に対する侮辱ととるぞ。爵位が大切であれば口を慎まれよ。」
おぉ…!エドかっこいい!!
おねいちゃんキュンキュンしちゃうよ!
キツネ公爵は目を瞠ると、「これは失礼…」そう言ってすごすご引き下がっていった。金魚の糞よろしく他の貴族達もぞろぞろ着いて行った。
「エド、ありがとう」
お礼を言うと「これくらい…」と小さな声で呟いて赤くなっていた。
可愛いんだからもう!
思わずぎゅっとする。と、すぐにベリッと音がするくらいの勢いでひっぺがされた。
「わっ!?」
気がつくとロードさんに腕を掴まれ引き寄せられていた。
「姫様。他に人目もありますから、殿下を愛でるのはお控えください。」
いやいやいや、あなたとのこの距離もまずいと思いますけど!?
「は、はいっ!わかりました離してください!」
すぐにこくこく頷いた私に満足したのか体を離してくれたけど、
今度はエドがどこか拗ねたような声で「姉上、参りましょう」と腕を引く。
大人顔負けの対応をしたと思えば子供のような表情を見せる義弟に思わず頬が緩んだ。
義弟っていいなぁ。
エド的には姉としてより女性として護るべき存在になっているんですが…
果たしてこの想い、伝わることはあるのか?
…エドのことは応援してますが、私にもわかりません…