ロード・ディオポルト
別の町の前に、ロード視点です。
長く読み辛いのですがご容赦ください…
できれば今後直します。
王妃様が守りきった姫様を、次は私達が守らなくてはいけない――姫様が王族の魔法石に魔力を込めたあの時に、確かにそう思った。
我々が王都へと出発する当日。
姫様は慣れた土地を離れることを嘆くでもなく準備を整えられた。
寂しさはおくびにも出さない。そんなところは好感を持てた。
出発直前にガンツとかいう男が乱暴に姫様に話しかけ、しまいには手を握られて赤面していたのを見て、じわりと心に黒い感情が渦巻く。
その感情に自分でも驚いたが、とりあえず手を引き剥がして馬車に乗っていただく。
その馬車が襲われたのは、出発してしばらくしてからだった。
姫様を馬車に残し騎士4人で闘ったが、敵の一人が回りこんで姫様のすぐ傍に迫っていることに気づく。
慌てて戻ろうとした私の目の前で。
黒ずくめの男は物凄い勢いでふっとんでいった。
何だ今のは…?
疑問に思い後から尋ねると、あれは精霊魔法だったそうだ。
しかし、複数の精霊王との契約なんて、聞いたことがない。
それだけ姫様が規格外の魔力を持ち、それを操る器量があるということだ。
小柄で華奢な姫様は、ただ守られるだけではないらしい。自分の意志で動き、戦う。ずいぶん頼もしいものだ。
その姿勢は、私が尊敬してやまなかった、貿易や政治でも活発に動いた王妃様の在りようと似ている気がした。
その夜、襲撃を避けるために一泊することになった宿では相部屋事件が勃発。
ベッドが2つ。
1つは姫様が使い、もう1つはフィリスが年上の私を気遣って譲ってくれたのだが…正直、隣に姫様が寝ていると思うと気になって眠れなかった。
姫様が身じろぎをする度に、息を止めてしまった。
10歳ほども年下の女性相手に何どぎまぎしてるんだ私は…
ただ、フィリスも似たようなものだったのか翌朝目の下に軽く隈をこしらえ、早い時間に動き出したが。
フィリスが身支度を整えて先に外の様子を見に行っている間に、私は姫様を起こすことにした。
寝ている顔はまだあどけなさも感じるが、
「ん…」
寝返りをうって露わになったその首筋は、はっきり言って狂気に近い。
よし、一刻も早く起こそう。
と、かがんだところで姫様が目を開けた。緑の瞳が数回まばたきをして、大きく見開かれた。バッチリ目が合う。
「姫様。朝でございますよ。」
近い距離で顔を見つめられ、相手の夜着は少しはだけている。
そんな状況だがかろうじて微笑むことができたと思う。自分の理性を褒めたい。
かなり慌てた様子で飛び起きたせいでベッドサイドの逆側に落ちそうになった姫様の体を支える。
そこで、細く女性らしい体つきに否応にも意識させられた。
「大丈夫ですか?」
そう聞くも、無言で見つめられている。…顔に何かついているだろうか…
そう思って見つめ返したら、真っ赤になって謝罪してきた。
その姿がどうしようもなく愛らしくて、そのまま腰を引き寄せて抱きしめてしまいたくなる。
社交パーティーに出たりすることも多く女性に慣れていないわけではないが、なんだか姫様といると調子が狂う。
だから、あんなことをしたのかもしれない。
移動中、見事な花畑に夢中になり、時折感嘆の声をもらす姫様の様子が面白く、この辺はまだ16歳らしいんだな、と笑ってしまった。
せっかくなのでゆっくり見せてあげようと馬を降りて会話をしていると王妃様の話題が出てきて、そこで、自分で気づいているのかはわからないが、姫様の顔に蔭がよぎった。
その表情を変えたくて、無礼とは知りつつ花を一輪摘んで姫様の髪に添える。
お似合いですと言ったら何故かかなり動揺された。反応がいちいち微笑ましい。
だが、
「シュウ達にも見せに行こうかな!」
そう言われた瞬間に、先程までのほんわかした気持ちがかき消え、焦りが生まれる。
だってこの花の花言葉はーーー
「"愛情"ですよ、ティア様。」
そう言ったことで、自覚した。
この少女に、惹かれていることを。
二度めの襲撃の時に感じた〈仕えるべき主として〉なのか、〈異性として〉なのかはまだよくわからない。
ただ、慈しむように、髪に飾った花に触れると、胸が熱くなった。
そのあとは何事もなかったかのように再び馬に乗ったのだが、腕の中に抱える少女の熱を自分だけのものにしてしまいたいーーそんな思いと闘わなければならなかった。
読んで頂きありがとうございます!
ストック切れなので次の更新しばしお待ちください。




