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シュウ

シュウのお話です。

長いです。


今日はずいぶん面倒な仕事だった。


誘拐されたお坊ちゃんを救出しつつ

誘拐犯達に再起不能なダメージを与えること。


要は殺せってことなんだけど俺は暗殺者じゃないからそれはお断りだ。


なので社会的に再起不能にするに留めた。



他の何でも屋からは優しさ、ぬるさとか言われることもあるけど、そうじゃない。


悪い意味でも良い意味でも、人との関わりを持たずに生きてきたからだ。


俺という存在を誰にも意識されないように。


自分にとっては煩わしいだけだ。



仕事で協力することもあり誰もが俺の名前は知っているけど、深くは繋がりを持たない。


それが俺だ。


何でも屋を始めたのがいつかなんて、もう忘れた。物心ついたときから生きるためにこの仕事をやっている。


そんな時、ある町の仕事の斡旋所的な居酒屋である女の噂を耳にした。


とてつもなく高い魔力を持つが、請け負う仕事はごく日常的なこと。

しかも、つながりのある人物の紹介がないと仕事は受けないらしい。



何だその女。何でも屋というか、ご近所の便利屋だな…


そんな感想しか持っていなかった。


その町で受けたのは山賊の討伐依頼。何でも屋数名でチームを組んで討伐に当たるというものだった。



その夜に山賊がいる山に偵察に入った俺ともう1人の何でも屋は、あまりに濃い血の臭いに顔を見合わせた。


山賊が拠点としているらしい山中の開けたところには、おそらく元は人間だったであろう塊が散乱していた。


その中央に立つのは、1人の女。

腕には小さな少年を抱いている。



俺から数メートル離れたところにいたもう1人が「これはどういう」ことだ、と続けようとした言葉は音になることはなく。


事切れていた。


強烈な気配を感じてとっさに飛びのき、しげみに隠れる。


直後、熊を一回りも大きくして翼をはやした魔物が前を通り過ぎていった。


そしてその魔物の向かう先は――あの女のところだ!


体が動きそうになるのを止めた。

見知らぬ奴等のために敢えて危険なところに飛び出すなんて自分のすることじゃない。


そう思って前をみやると、女がとっさに何か魔法を使い、魔物の羽を切り落とした。


しかし、魔物は思ったよりも俊敏だ。少年を抱えながらではやはり分が悪い。


しかも、瘴気を放つ魔物の返り血を目のあたりに浴びてしまったのか、女の動きが止まってしまった。


…あぁもう!


俺は魔物の背後から、手にしていた暗器をつきたてた。


魔物が耳をつんざくような雄叫びをあげてこちらを振り返る間に正面にいた女と少年の前に回りこみ――


鮮やかな緑の瞳と視線が合う。


思わず見入ってしまった。


次の瞬間、魔物の腕がこちらに伸びてきたのですんでのところでかわしたが、頬をかすってしまった。


…戦闘中に気をそらすとは、らしくないな。


舌打ちして流れる血をぬぐって女を連れて魔物と距離をとる。

「お嬢さん達、大丈夫かい?」


話しかけたら、丁寧な返事がきた。

「視界はまだかすむけど大丈夫です。この子を見ていてくれますか?」


ちょ、一人で立ち向かう気か!?

止めようとしたら魔力の風圧に阻まれた。肌がチリチリする。


…すごい魔力だ。


女が練り上げている魔力の量に驚き、次の瞬間目を疑った。


「火の鎖」


静かにかざした手から生み出された炎は鎖となって魔物に絡みつき、

魔物は断末魔をあげながら炎に包まれていった。



塵まで燃やし尽くした炎が消えた頃、

「ティア!」

1人の老人が駆け寄ってきた。


「ゲイルさん、遅いです!」


「すまん、町の者達も行くと言って聞かなくて、振り切るのに苦労した!その間に終わってしまったようじゃの。…そちらは?」


「…あ、名乗るほどのモンじゃないです。たまたま居合わせた、ただの何でも屋なんで。」


ぱたぱた手をふり、腕にいた少年を老人に渡す。


事情を聞けば、山賊に連れて行かれた少年を救出しに来たら、魔物が現れて山賊を壊滅に追い込み、さらには自分も襲われたのだそうだ。



「助けていただき、ありがとうございました。お礼を…」

ぺこりと頭を下げる女に対して、

「いや、大したことはしてないから。それより早く目の辺りの魔物の血、洗い流して治癒した方がいい。」

ポンポンと頭を軽くたたきながら言った。



「こう見えて結構義理堅く生きているつもりなんですけど…

じゃあ、私も何でも屋をやってますので、何かの際には、あなたのことお手伝いしますね。ティアといいます。」


そう言って花が咲いたように微笑んだ。



「ティア…ね、覚えておくよ。じゃあ」

「はい、また。」


また、と言われてこれほど気分が高揚したことはなかった。

これまではそんなこと言われないよううまく立ち回ってたのにな…


自分で抱えきれない感情に戸惑いはあるが嫌な感じはしない。


これからはもう少し人と関わってみてもいいかもしれない、来る時よりも軽くなった足取りで、その町を後にした。


++++++++++++++++


とある宿屋の一幕。



「いやーシュウの手際は見事だったね!何でも屋暦長いだけある…さすがセンパイ!」


「お嬢さん、一杯で酔うとか弱すぎない?まぁ面白いからいいけど。

さっきからフィル坊が怖い目で見てるからもう休んだら?」


「勝手に変な呼び方するな。ていうか別に見てない。」


「んー…じゃあ寝る!おじさーん、おかいけーい!!」


お金を払おうとするティアに

「いやいや、お嬢さん、年上の男何人も捕まえて自分で払うって選択しはないでしょ」


そう言ったら、不適な笑みで見返された。



「結構義理堅いって、言ったでしょ。」



そのままおやすみ~と手を振って部屋に入っていってしまった。



「…顔が赤いですよ。」

ロードのダンナが俺の横を通り過ぎながら、そう言った。


読んでいただきありがとうございます。


過去の話は余計に長くなってしまいます。これでもだいぶ削りましたが…


長々失礼しました。


次はロードのターンかな?


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