綺麗好きなんです!
「共同戦線を張りましょう」
そう言った私にティア、と諌めるような声が聞こえたけど、
大丈夫と微笑む。
「海賊の数、見張りや親方の場所をこちらで調べなくよくなったのは、
好都合です。ちなみに、あなたはこの人身売買の首謀者はご存知?」
「シュウでいいよ、お嬢さん。」
ポンポン、と私の頭に置いた手は即効でフィリスさんによって払われた。
「残念ながら首謀者は知らない。
オレが潜伏し始めたの最近だし。」
シュウが取り出した船内の構図を見ながら、
見張りの場所、数を確認し、制圧していくにあたり役割分担をした。
捕まった女性達は、とりあえず船の上での事が片付いたら
自分達で船外に脱出してもらう。
きっと船外にはロードさんたちが待機しているはずだから、
保護してくれるだろう。
「最初は静かに、すばやく、正確に。…いきましょう。」
まず、シュウが外にいる奴等の注意をひきつけている間に、
地下通路にいる海賊達を片付けていく。
これは案外あっさり終わった。
地下に他に敵がいないか確認してから、階段をあがっていく。
次は、シュウが話をしてひきつけている海賊たち十数名を
どうにかしないといけない。
うん、予想通り結構な数の海賊が集まってるし、
ここらへんで派手にいくかな。
私達に背を向けている海賊達に向けて魔力を高めていく。。
一人こちら側を向いて喋っていたフィリスさんは、
さりげなく私の魔法の軌道から外れる場所へ移動する。
シュウ自身にはそんなに魔力はないみたいだけど…
魔力の軌道を正確に読めるということは、
やはりタダ者ではないらしい。
「フィリスさん、いきますよ。
――風の爪跡。」
ぱちん、と弾いた私の指から放射状に風の刃が走り抜ける。
「ぎゃぁぁぁ!?」
「なっなんだ!?」
「うぁぁあ!!!」
次々と上がる悲鳴。
誰も殺してはいないけど船への跡もきっちりつけることができて、
大きな戦いがあったと感じられます。
もちろん、これだけでは終わらせません。
「青の矢。」
海の水をそのまま利用して、
何十という水の矢を宙に浮かべる。
傷を負いつつも逃げ惑う海賊達に
畳み掛けるようにダメージを与えていく。
「うわー容赦ないね。」
こちら側に歩いてきたシュウがぜんぜん同情もせずに軽く言う。
「私、綺麗好きなの」にっこり。
フィリスさんが若干引いたような顔でこちらを見た。
なんですか?綺麗にするのはいいことですよ?
そんな感じで次から次へと沸いてくる害虫を楽しく駆除していると、
怒声が響き渡った。
「テメェら、何の騒ぎだ!!」
はい、ようやくおでましです。親方!!
熊のような体型の男は、しかし、私の周りに浮かぶ
おびただしい数の水の矢と舟の傷跡を見て、
可哀相なくらい震え上がった。
大げさに力を誇示した戦い方をしたのは
歯向かってくる気すらおこさないようにするためだ。
「っおい!セイ!テメェいったいどういうつもりだ!?」
「…ん?あ、セイって俺のことか。
ごめんねーそれ偽名だからイマイチ反応薄くって。
いやぁだって今時海賊なんて流行らないっしょ?
俺は最初からとある人の依頼で動いてんのー」にこやかに返す。
「この国でくだらないことして、覚悟はできてるんでしょうね?」
妖しく笑みを浮かべてみる。
真っ青になった親方は、踵を返して船外へと走り出した。
「あっ待ちなさい!!」
…とまぁ、ここまで一応シナリオ通りです。
どうこの迫真の演技。
脅かして地上の協力者のところに逃げ込んだら、
一網打尽にしてしまおうという一石二鳥作戦!
「じゃぁホントの親玉のところまで案内してもらいましょうか!」
私達は後を追って駆け出した。