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突然姫って言われても困ります!  作者: *まるこ*(改名しました)
番外編(これまでの別視点/その後のものがたり)
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新米騎士の任務②

新米騎士シリーズ


翌日。


遅くに寝付いたハノアは最悪の気分で目が覚めた。

が、行かないわけにいかない。


のろのろと冷たい水で洗った顔を上げると、鏡には覇気のない表情の冴えない自分がこちらを見ていた。


それを見ないふりをして木のお守りをサッと首から下げ服の中に仕舞い身支度を整え、重い足取りで団長の執務室へ向かった。



「失礼します」


ノックして入室すると、そこには、ゼノン団長やアーノルド副団長はもちろん、ルノアール、そして、ロードがいた。


昨夜の今日で気まずかった事もありそちらを見ずに全員に儀礼的に挨拶をする。


「よーし、これで全員だな!じゃあ、アーノルド、説明してくれ!」


「たまにはご自分でしたらどうかと思うんですが…まぁいいでしょう。第一、第三部隊長達には事前に通達していましたが、最近城下を騒がせている誘拐事件が多発している件で、犯人達の拠点がわかりました。」


広げた地図の一点をトン、と長く綺麗な指で示す。城からすぐの場所だ。



「まさに灯台下暗しといった感じですね」


「舐められたもんねぇ騎士団も」


「その通りです。早急に確実に根絶やしにすべく、第一、第三部隊の数名共同で捕縛に当たってもらいます。」


第三は元々第一、二部隊のサポートをする事が多かったけど、今は避けたい気持ちしかない。



しかも部隊での共同と言いつつここに私だけが呼ばれた訳は?



「あの、発言してもよろしいでしょうか。私は何故呼ばれたのですか?」


アーノルド副団長が麗しい顔を少し翳らせながら言う。

「今回の事件、女子供が狙われている事は知っていますね?実は、君には囮をやってもらいたい」


「囮………ですか」


「姫様が私が囮をやると言って聞かないのだけれど、まさかやらせる訳にいかないから」


それはそうだ。守られる立場筆頭の彼女はいつも我先にと危ない道を渡っていく。だからこそ守る方も躍起になるのだが。



女子供だからこそ出来る任務だけれど今言われると自分が結局はそこを越えられないのだと言われているようで、耳が痛い。


「わたしは反対です、捕まってどうなるかまではわかっていません。危険が大きすぎます。」


そう副団長に言ったのは、なんとロード。

それに応えたのは、団長の唸るような声だった。



「ロード。テメェは誰を案じてんだ。仲間に案じられる程情けねぇ事はねぇだろ」


ぐ、と言葉を飲み込んだロードが「…出過ぎた発言でした」と下がったのを尻目に団長は今度は私を見据える。


「おい、ハノア。お前はどうだ?やるか?」


「やらせてください」


これは、私にしかできない、でも城下の人たちを守る仕事だ。やらないなんて選択肢はない。



ササっと町娘風に着替え、スカートの中に短剣を仕込む。あとはシュウがお土産と称しくれたアクセサリーにしか見えない撃退グッズも一応持っていく。



「ハノアさん…無理はしないでくださいね。危なくなったら」


「ロード隊長、ご心配頂かなくとも大丈夫です。」


ロードの顔を真っ直ぐ見られず、素っ気ない態度を取ってしまう。


「そうよぉ〜初めてのお使いじゃないんだから。別の部隊の子にまで気にかけて、ロード隊長のところの坊やが拗ねちゃうわよ?」


「拗ねるポルナレフは気味が悪いですね…では私は配置に戻ります」


ハノアに向き直ったルノアールは、真剣な眼差しで「ロード隊長の言う通り、無理はしない事。でも、貴方の騎士としての気概、見せてやんなさい」そう言ってパァンと背中を叩いて激励をくれた。

かなり痛くて、囮の前に再起不能になりそうだったがなんとか立て直し、ハノアは1人、城下へと歩き出す。



報告によると、日が暮れた後に街の一角の人通りの少ない道で攫われる人が多いそうで、1人で歩いていた女性、子供が何人も消えていた。




報告にあった道の付近をハノアはゆっくりとした足取りで歩く。


暫く歩いたところで、うなじにチリ、と感じる視線。



うまく引っかかったようだ。


それもそのはず、最近は被害に遭わないよう女子供はこの時間極端に外出を控えているから、ターゲットが少ない。

今のハノアは絶好の餌だった。



脇に小道があるところで立ち止まり、鞄の中を覗き込むフリをしてわざと隙を作ってやると、後ろから何か薬草の香りがする布を当てられた。


(くさ…っ!)


適当に倒れるフリでもしようと思っていたハノアだが、人間より多少鼻がきくノームアンセスタだけに速攻で気を失ってしまった。




「ん…」


目をさますとそこは、うっすらと天井近くの小さな窓から光が入る程度の暗い地下室の部屋だった。



報告にあった通り、一見普通の家に見える建物の地下に、攫われた人たちは捉えられていたようだ。

怯えた顔の女子供が何人かで肩を寄せ合っていた。


みたところ、誘拐されたという人数と一致する。まだ売られたりされた人はいないということか。ひとまず良かったと息をつく。



(周りに見張りの気配はない…上?)




「…貴方たち、大丈夫?怪我は??」


起き上がって冷静に両手を拘束していた縄を引きちぎったハノアにビクつきながら、おどおどと最年長とみられる女性が「こ、この子が…」と男の子の肩を抱きながら答える。


「私が乱暴されそうになって、庇ったところ殴られて怪我を」


「見せて」


男の子の頬は腫れていたが、ひどい傷にはなっていないようだ。


「これなら大丈夫、きちんと冷やせば楽になる。……がんばったね」


頭を撫でると、コクンと頷いた。

怖かったのだろう、目に涙を浮かべて。



「私は騎士。貴方達を助けに来た。もうすぐ仲間が来るから安心して」


「あの、でも、あいつら、今夜には私達をそれぞれの取引相手に渡すって…」


「ーーそう、情報ありがとう。」


ここで自分が慌てたら子供達が不安がってしまう。

動じていないように注意を払って応えた。



が、マズイ。



バラバラに連れて行かれたら後を追いきれないかもしれない。ここを動かず騎士達を待てるようにするのが今ハノアにできる最上だ。


できれば外にいる仲間に今夜動きがあることを伝えておきたい。取引相手も一網打尽にするチャンスでもある。



ふと、小さな窓を見ると、一番小さな子供であればなんとかくぐれそうな大きさだ。


先ほどの頬が腫れてしまった男の子に話しかける。


「外に、私の騎士の仲間がいる。あの窓から出て、今夜悪い奴らがここに集まることを伝えてくれる?」


「ぼ、ぼく…」


もちろん騎士達がすぐ近くにいるので実は外に出られた方がはるかに安全なのだが、それもわからず1人で行く恐怖をただ堪える男の子の肩をそっと掴む。


「君、名前は?」


「フランツ…」


「フランツ。あのお姉さんを守った勇敢な君ならできる。みんなを助けたい。手伝って欲しい」


そう言ったハノアに、少しだけ迷った男の子は、今度はしっかり頷いた。



「あんな高いところにある窓、私たちも挑戦しましたけど、届かなかったですよ?」


そう言う女性に、ハノアは安心させるようにニッコリ笑う。


「大丈夫。」



耳を澄ませ近くに見張りがいないことを確認してから、男の子を小脇に抱える。


ノームアンセスタは普通の人間の女性よりも、脚力、腕力が強い。


「よっ!」


軽やかな跳躍で窓枠を掴むと、もう片方の腕に抱えた男の子を開けた窓から逃す。


「あっちに、黒い長い髪の男の人がいる。これを見せて、さっきのことを伝えて」


ロードが待機している方を指して送り出す。



ハノアの跳躍に目を丸くしている残りの女子供の枷を外しながら考える。




もし騎士達が突入するより早く犯人達が大人数でこの部屋に来たとしたら、守れるのは自分だけ。



やるしかない。



隠し持ったナイフが見つかっていないことを確認したところで、ザワザワと扉の外が騒がしくなる。


(もう来たか…)


小さく舌打ちし、部屋にいる人達に隅にいるよう伝える。


(1.2.3…まずは4人か)



扉の横にピッタリと体をくっつけて息を殺す。


ガチャリと鍵が開いて入ってきた男の口と首を力任せに引き寄せ音もなく昏倒させる。


立て続けにきた男が、先に入った男の姿がないことに気づき「おいーー」と言いかけたところで手刀で落とすと、振り返りざまに、「なんだお前ーー」と叫ぼうとした大男の鳩尾に一撃を入れたが、さすがに体格差があり腹を押さえてうずくまっただけで、まだ意識はある。



その背後に隠れていたもう1人のやせ細った男が「ひぃっ!捕らえた女が暴れてるぞぉぉ!!」と人を呼びに行こうと踵を返した。



「行かせない」


忍ばせていた二本の隠しナイフの投擲でやせ細った両脚を仕留め、驚きと痛みで悲鳴をあげて転がり回る。


その間に立ち上がった大男が、腹を抑えて低く威嚇してくる。


「おい何だてめぇ、どうなるか分かってんだろうなぁ?女子供のくせに歯向いやがって!手足動けないようにして2度と抵抗できねぇよう体に教えてやる!!」




女子供のくせに




今のハノアには一番の禁句だった。



男には、地を蹴ったハノアしか見えていなかっただろう。


息を飲む速さで距離を詰め、シュウにもらった指輪型の金属の武器を使って真下から顎を突き上げつつ、両脚を回し蹴りして膝をついたところで頭に落とした踵で、大柄な男は床に転がって動かなくなった。



と、そこで女性達の「うしろ!」という悲鳴があがるまで気づかなかったのは、先ほど怒りに一瞬我を忘れたせいかーーー


「おっと動くなよ、お嬢ちゃん」


振り返ると同時に眉間に突きつけられた魔法銃を見て、ハノアは「これは、無理かも」と頭の隅でぼんやり思った。


お読みくださりありがとうございます(^.^)


年内に「庭師令嬢」の方もアップしたい(希望)

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