新米騎士の不満①
すみません
完結にしてたのでシリーズとして別枠で気ままにアップしようと書いてたんですがやり方わからず結果こちらに。
ティアやフィルはそこまで出てこないので本編読んでなくとも平気かと思います。
新米騎士達の朝は早い。
普通の騎士と同じ仕事を少しずつ任されるが、新人として宿舎の掃除や朝の自主練をするなど、やることはいっぱいあるのだ。
「ロード隊長、フィリス隊長、ディエゴ先輩、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう、早いなハノア」
「おーおはよー」
「いいえ、まだまだ隊長達より遅いので」
「掃除も丁寧にしてくれているからですよね、ありがとうございます」
微笑んで褒めてくれるロードに胸がきゅうっとなるのを堪え、ぺこりと頭を下げた。
「ロード隊長は相変わらずタラシだなぁー」
つぶやくディエゴを「言うな」とフィルが小突く。
ロードには空いた時間に座学を教えてもらったりととても良くしてもらっている。
貴族のことなど、訳のわからない事だらけだった当初は本当に救われた。
ただ1つずっと気になっているのは、いつまでも対応が変わらない事。
丁寧なのだ。丁寧すぎると言ってもいい。
所謂これは、子供扱い。
確かに小さな頃から知っているし、年の差が縮まるわけではないから彼の性格を思うと仕方ないのかもしれない。
でもハノアは新米ではあるが、ティア姫やエドワルド殿下の護衛に加えてもらったり、他にも着実に経験を積んでいる、騎士だ。
『……では、上はお任せします、ハノアさん』
あの、盗賊討伐で魔物に脅かされた時。
そう言って初めて背中を任されて、本当に嬉しかったのに。守る、と誓った言葉に近付けたと思ったのに。
どことなく不貞腐れた顔を見られぬように下を向いて長い髪を束ねていると無遠慮な声が飛んできた。
「ハノア・セスター!」
「うるさい、テイト・ラックス。おそよう」
「なっ、お、遅くないぞ!走り込んでから来ただけだ!!」
「そう」
「勝負だ!!!」
「………今ちょっと機嫌悪いから手加減出来ないけど」
「っ、ふざけんな!!」
練習用の木剣が投げられ、即座に切り結ぶ。
毎朝のことなので周りも特に気にせず訓練を続けている。
苛立たしげに振り払ったハノアに対し、ヒラリと体勢を整え、立ち向かってくる。
ガガッ!ガッ!!
鍛錬所に激しくぶつかり合う音が響く。
苛々していたハノアはさっさと終わらせようと攻撃をかわした無理な姿勢から体のバネを使って無理やり剣を突き出す。
「………っ⁉︎」
無理な体勢で体がぐらついた一瞬の隙をつかれ、肩に木剣を当てられる。
「おっしゃあ!」
ゆっくりと、自分の肩の木剣を見つめる。
負け、た。
テイト相手にこれまで引き分けはあれど、完全に敗北した事はなかった。
こんな自分ではロードを守るなど到底できない。
呆然としつつも体術で返そうと無意識に構え直したハノアと、「何だまだやる気か⁉︎」と慌てるテイトの間にスッと手がかざされる。
「これ以上は無用な怪我を招くわよぉ。ハノア、いい加減になさい」
「…ルノアール隊長」
ハノアが所属する騎士団第3部隊隊長、ルノアール・ナニジュ、その人だ。
オネエ口調なのにあんなに強いなんて反則だ、と騎士達がボヤいているのをよく聞く。
騎士団の中でも五本の指に入る美形で隊員の細やかなところまで気を配ってくれる事でも知られ、隣国にも名が轟くロードやフィルだけでなく、ルノアールは特に侍女達や城下の女性に大人気で、それも不公平だ、と嘆く先輩騎士は多い。
「乱れた心は、戦場では死を招くわ。腕より心を磨きなさい。」
「…はい、申し訳ありません」
テイトは2人の顔を見比べていたが、とりあえず無視してハノアはさっさと木剣を片付けた。
その日の夜、ハノアはルノアール隊長によびだされる。
「ーーハノア、何かあったの?今日ティア姫も心配してたわよぉ」
少し話しただけのティア姫にまで気持ちのモヤモヤに気づかれたことに驚いた。
「ロード隊長のことかしら?」
また驚き、滅多に変わらない表情が崩れた。
「分かるわよぉー恋する乙女のことは!何と言ってもワタシも乙女だからね♡」
「………すみません」
「それは、何に対しての謝罪かしら」
「騎士として隊長に不相応な感情を」
「そんなことはいいのよ、別に。ワタシも団長に片思いし続けてるし☆貴女が謝罪するとしたらもっと別のことにだわ、ハノア・セスター。」
いつもの柔らかな雰囲気から一転、鋭く射抜く視線にハノアは体を硬くした。
「いーい?新米でも熟練でも、騎士は騎士。騎士の心得は?」
「国を守り、民を守る事です」
即座に答える。
「そうね、ーーー貴女はそれを考えられてる?」
今度は答えるどころか、ヒュッと息が止まった。
騎士としての心得は、騎士になるずっと前から、守る側になりたいと思った時から、片時も忘れた事はない。
…が、今朝、模擬試合だとしても武器を手にした時、自分は何を考えていた?
もっとロードに認めてほしい、子供じゃない、そんな気持ちで。
「申し訳、ありません、でした……」
深々頭を下げたハノアの意気消沈した様子にルノアールは細く息を吐き、「もういいわ、明日はついてもらいたい任務があるから、朝、団長のところに来なさい」と退室を促した。
そのまま宿舎に戻る気になれず歩くうちに城の中庭まで来てしまったため、何気なくベンチに腰掛ける。
見上げた夜空には、雲があるせいか星が1つも見えない。
それが闇に包み込まれているようで、ドロドロした心を覆い隠してほしい、そう思った。
騎士になるために何年も吐くほど努力して来たのに騎士としてすら駄目な自分。
こんな自分ではこの想いなんて、一生伝えられないだろう。
「…ハノアさん?」
びくり、と肩を震わせたのも仕方ない。
だって背後からのその声は今一番聞きたくないけどずっと聞いてもいたい、その人のーーー
「ロード、さん」
不思議そうな顔でベンチの後ろから覗き込んでいたロードと目があってすぐ我に帰り、慌てて取り繕う。
「お疲れさまです、今お帰りですか」
「………そうですが、ハノアさん。何かありましたか?今日はずっと沈んでいたようでしたが」
カッと赤くなる。
穴があったら入りたい。隊長にも姫さまにもロードさんにも気づかれていたなんて。
「いいえ、何もありません」
「そうですか?何かあればなんでも相談して下さいね」
何を相談するというのか。
騎士として未熟なくせに自分より強い想い人を守りたいなんて抜かして勝手に苛ついてました、そんなこと言えるわけがない。
ぐるぐると適当な言葉を探していたのに、ぽんぽん、と頭に大きな手が優しく乗った事で、ハノアの中の何かがブチっと音を立てた。
「やめて!」
パシッと手を払われたロードは目を丸くしてハノアを見た。
「ハノアさん?」
「私は、未熟でも、騎士です。子供扱いはやめてください。ロード隊長」
一言一言、噛みしめるように言う。
驚いて固まるロードをその場に残し、駆け足以上の速さで部屋に戻ってベッドに飛び込んだ。
でも、なかなか眠りは訪れてはくれなかった。
お読みくださりありがとうございます!
評価やブックマークもとても嬉しいです。
いきなり新キャラいてすみません。
本編出すタイミングがなくて…
ティアフィルのラブラブ書いてたのにこっぱずかしくなってこっち書いて
けっきょく、こっぱずかしくなりました
そんなお話です。