幸せの粒
みんなのその後。
エドとソフィーヌ姫が婚約した。
2国間の関係をより良いものにする政治的なものだと聞いて、2人は大丈夫か心配していたんだけど…
「相変わらずのブラコンぶりですね。毎度来る度によくレオナルド殿の話が尽きないものです。」
「極度のシスコンの貴方に言われたくありませんわ!常に姉上姉上って言いますけど、結婚したら私のお姉様でもありますのよ。ティア様の独り占めも許しませんわ!!」
「…ふーん?では君のことを独り占めする分には問題ないですね?」
「!!」
久しぶりに遊びに来たソフィーヌ姫をこっそり陰から見てたらなんか心配なさそうでお姉ちゃん安心したよ、うん。
「まぁこれは、喧嘩するほど仲が良いってことかな、ハノア」
「そう見えません、姫さま」
そういえば、ハノアちゃんーーーハノアは、セレスティナ王国騎士団に入団した。もちろんちゃんと入団試験を受けて。実技試験は本当に凄かった!
ノームアンセスタで、しかも本物の女性が入団するのは史上初のことで、これから女性や別種族の先駆者としての活躍にも期待できそうだ。
貴族社会に慣れるためという名目で私やエドの護衛についたりしてるけど、騎士としても筋が良いようで、「ゆくゆくは部隊長になれそうですよ」と言うロードは個人的に座学を教えたりもしているからか、誇らしげだった。
こっちもなんだか良い雰囲気に見えるんだけどどうなのかなぁ。
「あ、いた!こんなとこでこそこそ何してんの、姫さん、ハノ嬢」
「シュウ…とチェルシー?」
「あぁ、見つかっちゃったんだよね〜」
珍しく渋い顔をするシュウの袖をくいくい引っ張るチェルシー。
「ティア様、ごきげんよう!またお茶いたしましょうね♪さぁシュウ、わたくしに下町の新情報を聞かせて下さいませ!」
黒ずくめで明らかに怪しげなシュウと公爵令嬢のチェルシーの組み合わせって違和感しかないんだけど、いつのまに仲良くなったんだろう?
「はいはい。…あ、そうだ、産まれたみたいだよ」
「ちょっ…それを早く言ってよ!ハノア、馬を!!」
「はい」
「あ、ちょ、姫さん、行っちゃっていいのかい?……って聞いてないな、ありゃ…」
ハノアは馬術も巧みでとても乗りやすいので、ちょっと急ぎで出かけたい時には乗せてもらったりする。なんと出来る子なのか。
「姫様、つきました」
「ありがとう!」
目的地は王城からすぐそばのとあるお屋敷。
「こっこれはこれは…姫様…!」
「ごめんなさい先触れもなしに来て。非公式だからこちらのことは気にしないで。…調子はどう?」
出迎えた執事さんに謝りながら奥から出てきた屋敷の主人に声をかける。
「…とても良いです。少し落ち着いたので、姫様もどうぞ」
「お邪魔しまーす!」
相変わらず無表情の彼だけど、仄かに口元からこぼれる喜びが、いかに嬉しいか物語っている。
ガチャリ、と扉を開けると、ベッドの上で赤ん坊を抱いた人物が体ごと振り返る。
「どうしたの?ポルナレフ、…えっ!」
「マリアーっ!おめでとう!!!」
「ひ、姫様⁉︎」
「ごめんなさい、我慢出来なくて来ちゃった☆女の子?男の子?」
「来ちゃった☆じゃありませんわ!もう……ありがとうございます。元気な男の子ですわ。アルフィ、と言います。目元がポルナレフに似ているんですの」
微笑む表情は、もう母の顔だ。
「2人が恋仲って知った時は驚いたけど…こうして3人の姿を見ると、なーんかしっくりくるね。アルフィ!顔を見せて…うん、目元はお父さん、髪と整った口元はお母さん似だね。」
アルフィのほっぺをぷにぷにつつきながら、にやけてしまう。
「成長が楽しみ!騎士とかになって公務で一緒になったりして…はーそれいいわー」
「ふふ、お転婆な姫さまの公務に息子がついていけるかどうか…」
「えーそこは2人の子供だから心配ないでしょ?」
「いえ、むしろお転婆を治す方向にいってはどうでしょう」
「あ、ちょ、ポルナレフ。なんか口うるさいの、マリアに似てきたね⁉︎」
「…どういう意味です?姫さま」
「なんでもありません」
にこっと笑うマリアは以前より格段と美しく、パワーアップしていた。
母は強し。
暫し話に花を咲かせていたら、
「姫様、お迎えがいらっしゃいました。」
ハノアがそう声を掛けてきて。
「え、迎え?」
特に呼んでないけど…?
と思ったら冷気で誰だかわかった。
やめてよ!母体と赤ちゃんには寒さが厳しいでしょう!
「フィル!」
「ティア……俺を置いていくとはいい度胸だね」
「あ、あれぇ出張から帰ってきたんだ?」
「急いで出産予定日に間に合うよう帰ってきたんだよ…産まれたら一緒に行こうと言ってたから」
「えーと……すみませんテンション上がって先に来ちゃいました」
目をそらした私にこれでもかと冷たい目線をくれた後、少し柔らかな声でポルナレフに声をかける。
「おめでとう。ロードが仕事を放棄して駆け付けようとしてたから、止めておいた。妻の出産明けで出勤する副隊長殿の仕事が増えるだけだからね。…お前の子供が騎士団の門を叩くのが待ち遠しいよ、ポルナレフ。」
思わずという感じでアルフィを眺め目を和ませるのを見て、ポルナレフも笑顔を見せる。
「フィリス隊長、姫様と仰ってることが大体同じです」
「……これでも夫婦だからね」
はあ、と溜息をつき、マリアにも祝いの言葉を贈ったあと、ティアに向き直る。
「じゃあ行くよ。俺の馬に乗って。」
「はい…」
すごすご。
そういえば、フィルは闇の力を得てから遠ざかっていた家族との距離も、今では少しずつ元どおりになってきたとチェルシーが喜んで話してくれた。
ただ、騎士団の部隊長としての仕事の他にもお義父さんについて領地のことを本格的にやり始めたため、更に忙しくなった。
大体忙しくて捕まらないから、出かけたいときなんかもその内探すのをあきらめて、ハノアやチェルシーが空いてる時に付き合ってもらうことが増えた。
でもたまにこうして一緒に馬に乗ったりすると、すごく楽しいな。
知らず笑みを浮かべながら、わたしを抱え込むようにしているフィルを仰ぎ見る。
「ねぇフィルっ!私たちもマリアみたいに可愛い子供ができるといいね!」
フィルは無邪気に大胆なこと言わないで、と珍しく少し慌てたようにしてから「……そうだね」と笑ってくれた。
突然姫と言われた私も、ゆっくりと夫婦に、そしてたぶん、母親になっていく。
隣にはいつも、この笑顔があってほしい。
頰に風を感じながら瞼を閉じると、大切な人達の顔が浮かぶ。
これから先も、きっといろいろあるけど、フィルと一緒なら、何も怖くない。
ひとつひとつの幸せの粒を優しく抱きしめてーーーー
今日のセレスティナはどこまでも青空が広がっている。
1組1組エピソードがいろいろあったんですが、書ききれないのでひとまずここでダイジェスト的にして締めることとしました。
一番マリアとポルナレフのカップルが書きたかった(笑)
稚作に永くお付き合いいただき、また、感想などいただき、本当にありがとうございます。
励みになりました。
初めての小説、手探りではありましたが全員の幸せを願ってなんとかエンドロールに漕ぎ着けました。
アナザーエピソードが降ってきたり、リクエストをいただいたら別枠で書いていきたいと思います。
次作「庭師になりたい令嬢と不器用な王子」も
いま更新止まってますが(すみません!)頑張って参りますのでどうぞよろしくお願いいたします。