チェルシー・ディオルクの華麗なる(?)生活
書きあがった順にあげてるので時系列的バラバラですみません。
雑多な番外編なのでご容赦下さい。
この話は本編85話前くらい
ディオルク家の長女、チェルシー・ディオルク。
気が強く好奇心旺盛、貴族令嬢には珍しく、平民の生活に多大なる興味を抱いている。
領民の生活を間近で見るためーーーという大義名分を掲げつつ本音は単純に憧れてーーーこっそり屋敷を抜け出してはよくあちこち歩き回っている。
昔は兄であるフィルもよくこっそり出かけていたので似た者兄妹だ。
今日も今日とて平民と同じ服で身を包みやってきたのは、市場。
活気ある屋台に新鮮な食べ物が並ぶあたりをキョロキョロと見回しながら進むと、突然ポンと後ろから肩を叩かれる。
「やぁ、貴族のお嬢さんがこんなとこで何してんの?」
「…………ッッ⁉︎?」
焦って振り返れば知った顔。
「シ、シュウ様……⁉︎なぜここに」
「だから、様って柄じゃないって言ってるのに…。魔物討伐で必要になりそうだから武器の追加にね」
魔物討伐。
異常な出現量で、隣国と共同戦線で討伐にあたると先日国じゅうに御触れがあった。
「お兄様が殿下の率いる討伐隊の隊長に任命されたと聞いていましたけれど…シュウ、さんも行かれるんですの?」
「まぁね。魔物の知識も役に立ちそうだし行こうかなーと思ってるよ」
まるでちょっとそこまで買い物に、くらいの口調だ。
「そうですか…」
「まぁただ、姫さん待ってからかなー。フィルの旦那から何も聞いてなさげだったから自分もって言いそうだし」
「対姫様のお兄様のヘタレっぷりは健在ですわね…」
お兄様がティア様を妻にするために動く様は、徐々にウサギを追い詰める肉食獣のようにも、外堀から埋めるあたりは単なるヘタレのようにも見えるのだ。
もちろん、2人のノロノロながらも距離を縮めていくのを見るのは嬉しいから、全面的に応援しているけれど。
それを今目の前のこのひとはどう見てるんだろう?
「あ、親父さん、これ2つちょーだい。ーーーほい。」
「え?」
渡された新鮮なフルーツに戸惑う。
「せっかくお忍びで市場まで来てんでしょ?あんま忍べてないけど。食べ歩きして楽しまないと勿体無いんじゃない?」
「え、忍べてません⁉︎」
「育ちの良さが出すぎ。たぶんみんな気づいて見守ってる感じじゃない?」
そう言って自分のフルーツにかぶりついた。
隠せてると思ってたのにショック…!
言われてみれば、さっきの屋台のおじさんも、すこく私に対して丁寧だった。
落ち込みつつ同じように一口かじってみる。
「…おいしい」
ジューシーさと甘さにビックリして目を丸くしたのを見て、ニカっと笑う。
「あの店は新しい物好きだから、たぶん来るたび物珍し食べ物売ってるよ!つい寄っちゃうんだよねー」
それからあっちは〜とどんどん街を案内してくれる。完全にチェルシーより詳しい。
今までお忍びで街に来ていたものの、あまり買い物をしたり大胆な動きはできずにいただけに(今思えばバレてるならいっそ自由に楽しめば良かった)、あらゆるものがキラキラして見えた。
しかもこのシュウという人は、本当に身軽で、あとをついて行くとどこへでも行けそうな気がしてしまう。
むしろ、ふらりとどこかへ行ってしまって戻って来ないような、不安すら感じる。
ほんとうに、不思議な人…
初めて会ったのは、王宮。
お兄様が闇に侵されたあの時。
「お兄様に会わせてください!」
「この先は、今は入室禁止です!あ、ちょっと!お待ち下さい!」
引き止める騎士の隙をついて兄のいる部屋に向かって廊下を走り出すと、近くの窓から男が顔をのぞかせた。
「お嬢さん、その部屋は入室禁止だよ。闇の力が濃くなってるから危ない。」
「平気ですわ!」
バンッ!
忠告を無視して扉を開ければ、振り返った琥珀色の艶やかな髪の女性が、その緑の瞳を見開く。
その側で眠っているのは
「お兄様……」
憔悴しきった兄の姿と瘴気にあてられ、ふらつく。
よたよたと部屋を出れば、「だからダメだって言ったろ、ホラ戻るよ」と先ほどの男が渋い顔をしていた。
「ただでさえボロボロなのにフィルの旦那の家族にまで倒れられたら姫さんおかしくなっちまう」
そう言いつつ、部屋の方を見つめた。
その瞳に心配だけではない複雑で切なげな色が見える。
昔から人の気持ちの機微には聡い方だと思う。
だからそれを見ただけで何となく察してしまった。
「あなた……」
姫様のことを?
そうとは聞けず。
そういえば自己紹介がまだだったと気づき、代わりにふわりと腰をおとして挨拶をする。
「先程はご忠告を聞かず申し訳ありませんでした。わたくしはディオルク家長女のチェルシーと申します。」
「俺なんぞにそんなご丁寧な挨拶は入りませんよ〜ディオルク家のお嬢さん。いつもフィルの旦那にはお世話になってるしね。ーー自分はオーウェン宰相の補佐などをしております、シュウと申します。以後お見知りおき下さい。」
「シュウ様」
「シュウ、でいいですよ、お嬢さん」
ころころと纏う雰囲気が変わるシュウのことを、「読めない人」だとこの時思ったのだった。
そんな考えにふけりながらお店を見ていると、美味しそうな揚げ物のにおいが鼻をくすぐる。
「わぁ!あれも美味しそう。シュウさん、行きましょう!!」
すっかり街歩きを満喫している彼女に苦笑してついていったシュウの鼻先に、チェルシーは揚げ物の入った包みを突き出す。
「はい、今日のお礼ですわ。魔物討伐に向けてコレで英気を養って下さいな」
「はは、ありがと」
シュウは受け取り大きな一口でパクつく。
「シュウさん、討伐から戻ってきたら、また街歩きに付き合ってくださいませ」
「えー?俺とまわっても別にいいことないよ」
「貴方はなくても私にはあります。ーーー約束、ですわよ」
シュウは答えずに笑っている。
が、目の奥は何を考えているか、わからない。
それを簡単に見せないからこそ、この人には、帰る約束が必要だと思った。
そして自分が帰る場所になれたらいいな、とも。
小指をそっとつなぐ。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら…」
「ハーリセーンボーン、てやつ?」
「いえ、あの店の新作スイーツを奢ってもらいますわ」
「約束守っても破っても同じことじゃん!」
あはは、と笑ったのは本心からに聞こえたからなんだか嬉しくなって、チェルシーも破顔する。
そうして、チェルシーは魔物討伐に向かうシュウに「約束」を荷物にして送り出した。
読んでくださりありがとうございます!
まだアップはしてないのですが今次作を書くのが楽しくなってしまってこちらの筆が止まっています…スミマセン。
次はエドかなー
「こんなシーン見たい」などあれば!よければお寄せください(*^^*)