入団試験(ロード視点)
お待たせしました!
夜も明けきらぬうちに起床し、首を揺らしながら体をほぐす。
今日は忙しくなる、今のうちに自分の鍛錬は終えておいた方がいいだろう、そう思いサッと身仕度を整えて軽装で訓練所へ行くと、先客が何名かいた。
「おはよーございますロード隊長!」
「おはようディエゴ、せいが出るな」
「フィリス隊長が勝てたら酒屋で一番高い酒を奢ってくれるって言うんで手合わせしてもらってました!」
「約束はしてないよ、言っとくけど。おはようロード」
えぇーと文句をたれるディエゴに呆れたようにため息をつきながら後ろからフィルが近づいてくる。
「あぁ、おはようフィル、ってお前まだ顔が寝てるぞ」
「だって、眠いものは眠い……でも、ディエゴには負けないから大丈夫」
「くそー!俺だって負けませんよ!」
あの夜の決闘から、フィルとロードは今までよりもどこか気安い遣り取りが増えた。
とはいえ元々どちらもそこまでお喋りではないので、近しい存在のディエゴやポルナレフが気づく程度だったが。
「そういえば、ロード隊長。今日の入団試験、ハノアちゃんも来るんですね!受験者名簿見てビックリしました!」
「あぁ」
彼女がくれた木工細工の御守りは今ではネックレスらしく首から下げ、胸元に落ち着いていた。
無意識に服の下のそれをそっと手で押さえ、ふ、と口を緩ませる。
その様子にかすかに目を開いた2人には気付かず、柔軟体操に入りながらロードは遠く離れた少女に思いを馳せた。
この御守りをもらった時の約束を現実にしようと、ハノアは随分と頑張っていたようだ。
だいぶ前の戦勝会以来、ロードも面と向かっては暫く会ってはいないが、橋の関係でティアについて行ったヤエムでは座学を兄のヒリエスに習いながら頭を抱えているのを見かけた。
言葉の勉強がてら書くのか、たまに手紙も来る。これを特訓した、狩りで熊をとってきた、など近況報告から、騎士に向けての熱い気持ち、ロードのことを気遣うものなど内容は色々だ。
こうして真っ直ぐな言葉や感情を向けられること自体は、そんなに多くはない。
それこそ貴族社会では。
騎士団の仲間や、姫様くらいのものだ。
それを少しくすぐったくも自然に感じている自分も、昔に比べて仮面を貼り付けることも減ってきているのかもしれないーーー
そう考えながらロードもフィルやディエゴに続いて朝稽古へと入っていった。
そんな朝から数時間後…
迎えた騎士団の入団試験。
国王陛下やエドワード殿下、姫様も未来の騎士達を見学に来ているだけあって、受験生達は皆強張った顔をしている。
朝のうちに実技試験会場となる闘技場入りしたハノアはというと、ロードの思い出よりもさらに少し大人びており、凛とした表情からは緊張は感じられない。
むしろ、なんだかソワソワしている感じだ。
「本日は、体術、剣術、弓術の3つで試験を行う。うち2つは手合わせ形式だけれど、結果だけで判断されるものではないから己の全力でやって欲しい」
副団長の言葉に、手が上がる。
「…と、君は、テイト・ラックス君だね。何かな?」
「女でノームアンセスタがいると相手は全力では難しくありませんか?公平な審査にならないのではないですか?」
受験者の間にざわめきが広がる。
そのセリフに眉をひそめたのは自分だけではなかったようだ。
「…話を聞いていなかったのかな?私は結果だけで判断しない、己の全力を尽くせと言ったんだよ。それは相手が誰であれ、だ。君は、国を守るために戦う相手が女性だったとしても騎士として同じことを言うのかい?」
柔和なアーノルド副団長にしては珍しくヒヤリとした声だ。
そうではありませんが、と青年はまだ不満そうにしており、そこで手を上げて発言したのは、渦中のハノア。
「私は、誰でも、受験者が嫌なら騎士団の方が相手でも、構いません。でももしかして…あなた、女でノームアンセスタの私に負けるのが怖くて、そう言った?」
ロードの隣でブッと吹き出したフィルに一応「こら」と言っておくが、自分もスッキリした感は否めないのでそれ以上は黙っておく。
言葉はまだ勉強中のようだが、目を逸らさずハッキリとした物言い。虐められて泣いていた頃とは全然違う。
いつの間にかこんなにも頼もしくなっていたのか……ロードは眩しそうに目をすぼめた。
「なんだと⁉︎誰がお前なんぞに負けるか!」
まさかの挑発に、テイトは顔を赤くする。
「はいはい、そこで勝手に喧嘩を始めないように。ーーでもまぁ、ラックス君もそこまで言うなら初戦は君達の手合わせにしようか?」
「なっ!」「はい」
対照的な態度の2人は、睨み合う。
ハノアも意外に血の気が荒いのかもしれない。
「では、騎士団入団試験 体術 第一試合テイト・ラックス 対 ハノア・セスター 前へ!」
絶対に倒してやるという闘気は物凄い。思わず騎士の我々もゴクリと喉を鳴らす程だ。
結果はーーーハノアの圧勝だった。
テイトもけして筋は悪くない。悪くはないのだが、相手が悪かった。
ハノア個人で言えば体術自体は得意ではなさそうだが、ノームアンセスタの腕っ節は女性でも変わらず発揮された。
また、相手の攻撃を察知する勘がピカイチで、それをかわせるしなやかさもある。
テイトの攻撃はほとんど当たることなく、最後は場外へ背負い投げ飛ばされて終了。
さすが熊をも狩る少女。
その後の剣術もテイトが再戦を挑み同じような流れで負けた。
そうしてそれだけでは終わらず、最後の審査である弓術で、ハノアは会場全体の度肝を抜いたのだ。
「こいつはすげぇな!」
団長が巨体からデカイ感嘆の声を発した。
的の中心をどれだけ射ることができるか、動く的、複数の的、自分が動きながらの射的、、、
条件を変えながらも物凄い速度で放たれた矢は全てが的の中心をとらえ、ついには弓の方が壊れた。
「あの、いつもの弓より弱くて、加減、わかりませんでした。も、申しわけありません…」
武器を壊したことが審査に響くと思ったのかそこで始めて動揺を見せ顔を青くしたけれど、そんなことはもはや誰も気にしていなかった。
こうして、ハノアは華々しくセレスティナとしては初の女性での騎士団デビューを果たしたのだった。
ハノア最強説(笑)
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