ごめんなさい
※本日二回目の投稿です
糖度高め注意報発令中!
目を覚ますと、そこには白い天井。
はて。
盗賊との闘いで傀儡の魔道具が出てきて、それが破壊されたのを魔力の流れで感じ取って、その後どうしたんだっけ。
フィルがやってくれたからもう大丈夫、と思ったとこまでは覚えてる。
身体がだるかったので首だけを横に動かすと、マリアがこちらに気づく。
「姫様!目が覚めましたのね…!良かった…!!」
持っていた物を放り出して駆けつけ、枕元で涙ぐむマリア。
すぐに衛兵に頼んで医師を呼んでもらうよう頼んだあと私の元に戻ってくると甲斐甲斐しく額の汗を拭ったり水を飲ませながら説明してくれた。
「姫様、丸2日お眠りになってたのですわ。治癒術で表面の無数の傷はすぐ癒えたのですが、魔力や精命力の枯渇と身体へ内側から負担をかけすぎたせいで、正常に魔力を流して回復させるのが難しかったのですわ。」
あぁ…なんか臓器がいっちゃってたような気もするし…それで魔力での治癒力を上げるために寝こけてたってことかぁ。
「陛下や殿下、ディオルク様達が数時間おきにお見舞いに来られていましたわ。それに、ソフィーヌ姫様も」
「えっユーレストの人達、まだいるの?戦勝会は中止か延期じゃないの?」
こんなことがあったし、ソフィーヌ姫やレオナルド王子達はすぐ帰ったかと思ってた。
「姫様が回復されてから予定通り執り行うこととなっております。隣国ユーレストの方々も事後処理や話し合いのため残られていますし」
今後の警備でどこまで協力体制を敷くかなど、決めることが増えたらしい。
「そう…おちおち寝てられないね。」
起きようとする私をマリアが慌てて抑える。
「何を仰ってるんですか!まだ動いてはいけませんわ!」
「いやぁでもあんまりお待たせするのもさぁ」
「こちらは既に散々待っているんだから、大人しく医師を待ちなよ。君、それでも怪我人なの?」
絶対零度の声。
無意識に体を震わせながらもドアの方を見る。
息一つ切らさず、けれど急いだのだろう、いつもサラサラのブロンドの髪を少し乱れさせてかきあげるフィルが立っていた。
小脇に抱えてきた小柄なお爺ちゃん医師を目の前に連れてくる。
ちらりと一瞬こっちを見たかと思えばフイと視線を逸らし、バルコニーに出て行ってしまった。
どうやら外にいたシュウに、城の他のみんなにも伝達するよう頼んだみたいだ。
ーーってフィルのことばっかり目で追ってしまったが、目の前にはお医者さんがいるんだった。
「ふむ、魔力の流れも正常、身体の内臓器官も回復したようですの。姫様、動かせないところはございますかな?」
「いいえ、少し身体が重いだけで、動かせないことはないわ」
「左様でございますか。それでしたら気付けの薬を何度か飲めば、明日か明後日にはいつも通り動けるようになるでしょう。姫様、お大事になさって下され。騎士団の部隊長殿が大層心配しておられましたぞ。なんせ目を覚ました知らせと共にすぐに部屋に飛び込んできて、儂を有無を言わさず抱え込んで走り出したんじゃから。」
「余計なことは仰らずとも結構です。帰りも抱えてお送りしましょうか」
バルコニーから戻ってきたフィルのヒンヤリした声をまるで気にすることなく微笑むお爺ちゃん医師。
「ほっほっほ!結構結構。仲良くなされよ、御二方。では、儂はこれで。何かありましたらお声がけ下され」
笑いながら部屋を出ていき、気づけばマリアも退室していた。
…なぜか部屋にフィルと2人。
き、きまずい。
だってなんか絶対怒ってる。
枕元に座るもこちらを見もせず黙り込んでいるフィル。
「あ、あのぅ…フィル?」
「………なに?」
間をおいて返された声に、総動員した話しかける勇気が霧散しそうになった。
「あの、心配かけて、ごめんなさい」
こっちを見てくれないことに不安になり、フィルの袖をキュッと掴む。
はぁぁぁ…
空いてる手で頭を抱えたフィルに、嫌われてしまったのかもしれないと不安が増し、じんわり涙が込み上げてくる。
「フィルぅ……」
「えっ、うわ⁉︎何で君が泣いてるの⁉︎」
「ごめんなざい〜〜嫌いになっちゃいやぁ〜〜〜ゔぅ〜〜」
病み上がりのせいか気持ちも弱くなってるのかもしれない。えぐえぐと涙をこぼす私にオロオロするフィル。
「…嫌いになるわけないでしょ。」
戸惑いがちに頭をぽんぽんと撫でる。
綺麗なのに私よりはるかに大きくて、フィルの手だ…と実感して。
撫でられてることで安堵で満たされ、涙をごしごし拭きその手にすりすりと擦り寄る。
ビクッと動かなくなった手を不思議に思い顔を上げると、フィルが耳まで赤くなって固まっていて、思わず吹き出した。
「ぷ…フィル、どうしたの?なんか可愛い」
初めて見た姿に泣いてたことも忘れてくすくす笑っていると、スッと視線の温度が下がる。
「…随分余裕だね、状況わかってる?」
あ、ヤバい。
なんかデジャヴ。
「病み上がりでまだ青白い顔してるから触れたくてたまらないのを我慢してたのに…煽ったのは君だからね?」
ちゅ…
唐突に唇が落ちてくる。
いきなりのことに驚いてあわあわと手で止めようとするが、両手首をまとめて抑えられてしまう。
フィルが身を乗り出し、ぎし、とベッドが鳴る。
角度を変えて口付けを深めながら、フィルはもう片方の手で、頬や首筋をつ…っと撫でていく。
先ほどとは全く異なる艶っぽい触り方に、ぞくぞくと背中を何かが走りぬけた。
「ふ…、ぃるっ、あ、」
自分じゃないみたいな声が出て、サッと顔が熱くなる。
ぺろりと唇をなぞり絡められていく熱に呼吸を奪われ、体の力が抜けた頃、フィルはなにを思ったか私の首筋に顔を埋めた。
熱い息が首にかかる。
あまりの緊張に口から心臓が飛び出そうだ。
さっきのフィルと比較にならないくらい顔が赤い気がする。
「ティア……本当に、生きていて、良かった…」
小さくこぼれた言葉には、いつもの冷たさも、自信もなく、ただただ滲む想いだけがあった。
私が無茶したことで、フィルを辛い気持ちにさせてしまったんだ…
抑える力が緩んだ隙に腕を動かし、フィルの顔を両手で掴んでこちらを向かせる。
「…本当にごめん。助けてくれてありがとう、フィル」
そのあと口元を緩めたフィルの眼差しは、とてもとても暖かかった。
結局いつものパターンに(笑)




